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IFRS最前線(16)

退職給付会計の恐るべきパワー

原英次郎
ダイヤモンド・オンライン
2011/3/24

IFRSが導入されれば、退職給付の積み立て不足が一段と明確になる。そればかりか、退職給付債務そのものも膨らみかねない。結果、株主の持分(純資産)が急減する企業が出現する恐れもあるのだ(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年7月8日)。

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退職給付債務そのものが膨らむ
割引率適用のルール厳密化

 退職給付会計がIFRSに移行した場合、企業評価に与える影響はどうなるのだろうか。企業年金のコンサルに強いマーサージャパンの石川一彦年金・財務リスクコンサルティング部門代表は、次のように言う。

 「影響が大きいと言う人もいれば、すでに実態は(注記で)開示されているので、大したことはないと言う人もいて、なんとも言えない」。

 石川氏によれば、会計処理の方法にも増して、大きな影響を与えそうなのが、実は割引率の厳密な適用だ。

 割引率とは、将来の価値を現在の価値に引き直すために使う基準値のこと。例えば、1年後に支払う退職給付見込額が105万円で、割引率が5%なら、現在の退職給付債務は105÷1.05=100万円。3%なら105÷1.03で約102万円となる。1年後に105万円が必要な場合、5%で運用できるなら、いま100万円持っていればいいと考えれば、分かりやすい。

 ここでのポイントは、高い割引率を使うほど退職給付債務が小さくなり、低い割引率を使うほど退職給付債務が大きくなるということである。

 日本の場合、退職給付債務を計算する場合の割引率は、10年物、あるいは20年者の国債金利を使うケースが多い。従業員があと平均して何年勤めるかによって、10年に近ければ10年物国債、20年に近ければ20年物国債の金利を使うという、割合にざっくりとしたルールでやってきた。

 それに対してIFRSでは、どのような割引率を使うかについて、日本より厳密なルールが定められている。このルールによれば、「現在よりも、低い割引率を使わなくてはいけないケースが増えるのではないか」と、石川氏は予想する。割引率が低くなれば、それだけ退職給付債務が膨らみ、結果、積み立て不足が拡大する恐れがある。

 ごくラフに言うと、割引率が1%下がると、退職給付債務は約20%も増えるという。たとえば、大企業になれば、退職給付債務が5000億円前後、さらには1兆円を超えるところもある。一気に20%も債務の額が膨らむインパクトは小さくない。

 では、企業はどう対応していけばよいのか。石川氏は退職給付債務を小さくするために、「受給者の年金額をカットするなどというのは、最悪の対応。そういうことはしてはいけないという認識を持つことが重要だ」と言う。

 退職給付債務−年金資産=積み立て不足だから、まず、年金資産がどのようなリスクを抱えているのかを把握することがスタートになる。次に、負債=退職給付債務の内容は、企業によって大きく異なるので、それを踏まえて、運用を組み替える。

 たとえば、将来の企業年金の支払いは予測できるので、このキャッシュフローに合わせて、いくつかの債券運用を組み合わせることも可能だ。それでも対応できないと判断したときは、企業の拠出金が確定している「確定拠出型年金」への移行なども考えられる。従業員の年金をカットする前に、やるべきことはまだまだあるのだ。

 IFRSが適用されるのは、早くて2015年(初出は2010年7月)。まだ5年もあるように思えるが、年金資産の規模が大きいほど運用を急激に変えることはできないし、制度の変更にも時間がかかる。

 「大切なのは、先手、先手で対応をしていく。ぎりぎりに追い詰められてからやると、(従業員や受給者への)不利益が大きくなる」(石川氏)。そのことは、日本航空の企業年金を巡る大騒動が、端的に示している。

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