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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(1)

日産自動車の「派遣切り」が
事業効率向上につながらない理由

高田直芳
公認会計士
2010/4/9

大不況の「台風の目」となっている自動車業界では、大規模なリストラが行なわれている。だが日産自動車を分析すると、「派遣切り」などの合理化策が、今後必ずしも事業の効率アップにつながらないことが予測できる(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年2月13日)

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 さて、第1回〜第3回までは、「100年に一度」といわれる大不況の中で“台風の目”となっている自動車業界を採り上げよう。

 世界中で起きている新車販売台数の減少などにより、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダなど大手の経営成績は惨憺たる状況にある。「史上最強のニッポン企業」と言われるトヨタでさえ、今期は大幅な赤字に陥る見込み。業界全体で予断を許さない状況が続いているのだ。

 そんな自動車業界で今回クローズアップするのは、日産自動車(以下ニッサン)である。同社を採り上げる理由は簡単だ。筆者自身が、同社の“プリメーラ”を愛用しているからである。

 1990年代の低迷期から、ゴーン社長による強力なリーダーシップによって見事に復活したニッサンだが、昨年後半から北米の大型車不振をきっかけに再び暗転。新車の販売不振で減産に次ぐ減産を余儀なくされており、09年3月期通期の業績は大幅な営業赤字(▲1800億円)に陥る見通しだ。

 岐路に立たされている同社の経営戦略には、どういう特徴や問題があるのだろうか? 早速、ニッサンのデータを基に〔図表1〕を紹介しながら、“台風の目”とやらを観察してみよう。

〔図表1〕日産自動車の売上高とタカダバンド

 この〔図表1〕は、四半期ごとに公表される決算短信のデータを基に作成したものである。たとえば、横軸上の「08/12」は、日付けではなく「2008年12月期」を表わしている。

 グラフの曲線を描くにあたっては、指数対数や微分積分などの専門知識が必要となるので、具体的な計算方法については、脚注に挙げた筆者の拙著を参照していただきたい。読者にとっては“初お目見え”となるので、「これが何を示すグラフか」という点に絞って、直感的な説明だけしておこう。

 〔図表1〕において黒い実線で描かれた「実際売上高」は、損益計算書に基づき、四半期ごとの売上高ではなく、「移動集計」という手法を採用している。株価の移動平均線に似たものだと思っていただきたい。それ以外の売上高は、すべて「筆者オリジナル」である。1つずつ説明しよう。

“タカダバンド”の検証でわかる
ニッサンの「脆弱な収益基盤」

 まず、最上部に赤い実線で描かれた「最大操業度売上高」とは、平たくいえば「現状の経営資源を最大限に活用して、理論上、企業利潤を最大にする売上高」である。経済学で有名な「利潤極大化条件(限界収入=限界費用)」を解析処理したものだ(注1)。

 その下に青い実線で描かれた「予算操業度売上高」は、「企業の量産効果を最も発揮できる水準を表す売上高」である(注2)。

 そして、最下段に緑の実線で描かれた「損益分岐点売上高」は、「利益と損失の分かれ目」となる売上高である。CVP分析(損益分岐点分析ともいう)では、お馴染みの用語である。

 少し難しい話になるが、CVP分析によって計算される損益分岐点売上高は、通常「最小自乗法」や「勘定科目法」に基づいている(注3)。しかし、〔図表1〕で描かれている損益分岐点売上高は、「指数関数法&準ニュートン法」という、筆者オリジナルの方法によって計算している(注4)。

 このように〔図表1〕は、(1)理論上の利潤を最大にする売上高、(2)量産効果を最も発揮できる売上高、(3)利益と損失の分かれ目となる売上高、そして(4)実際の売上高といった、4種類の売上高の推移を並べて、企業の収益力を判断しようとするものである。

 こうした一連の分析体系を、筆者は「SCP分析(Sale Cost and Profit)」と呼んでいる。

 では、このグラフから読み取れるものは、何だろうか? 

 まず注目すべきは、07年12月期に、実際売上高が予算操業度売上高へ接近している点である。実際売上高が、量産効果を発揮できるラインに最も接近したのだから、ここがニッサンの“ピーク”と言えるだろう。その後同社の実際売上高は、下降線を辿っている。

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