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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(2)

事業効率が最高でも固定費は予想の2倍!
他社の追撃を侮れないトヨタの“懐事情”

高田直芳
公認会計士
2010/6/3

日産やホンダに追撃されながらも、依然王者としてのポジションを堅持するトヨタ自動車。だが、独自のSCP分析を用いると、外部からは死角になっている“不安の本質”が垣間見えて来る(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年3月13日)

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利益予想と分析結果に大きな乖離
トヨタの知られざる“懐事情”とは

 ところで、このSCP分析を使えば、トヨタについてさらに興味深い分析結果も得られる。トヨタが発表している業績予想によれば、2009年3月期は営業利益▲4500億円、経常利益▲5000億円、当期純利益▲3500億円となっている。これが発表されたとき「トヨタよ、オマエもか」と景気悪化の大きさにサプライズした人も多いだろう。

 ところが、SCP分析で2009年3月期の各利益を“推計”してみると、トヨタが公表している業績予想とは、かなり異なる結果が得られた。つまり、企業の予想と分析結果の間に、少なからぬ乖離が生じているのだ。

 できればその検証結果もお見せしたいところだが、決算発表前に風説が広がるといけないので、ここでは具体的な数値の提示は差し控える。

 ただし念のため、ここでは利益の推計に用いたSCP分析の正確性について、説明しておきたい。それを検証するために、タイムマシンに乗って1年以上前の2008年2月5日に戻り、同日付けで公表された同社の決算短信のデータを参照してみよう。

 当時、トヨタが予想していた2008年3月期の予想売上高は25.5兆円、SCP分析で独自計算した年間固定費は当時で8.77兆円、実際操業度率は99.4%(0.994)となっていた。

 これらの金額や数値を、当期純利益を試算するためのオリジナル計算式に当てはめてExcelで計算すると、1兆8033億円という結果になった。

=25.5−8.77*EXP(0.994)
=1.8033兆円(1兆8033億円)

 この式のEXPとは「自然対数の底e」を用いた関数だ。なぜ、上記の式で当期純利益を計算できるかについては、拙著『戦略ファイナンス』281ページ〔式12-5〕を参照していただきたい。

 実際に、確定した08年3月期の当期純利益は1兆7179億円だった。前述の式に代入した数値は25.5、8.77、0.994と大まかなものであるにもかかわらず、確定金額との差異率はわずか4.7%に留まっている。これが“SCP分析”の切れ味なのである。

 ただし、筆者はこのような分析結果を、別に悪い意味で述べているわけではない。前述の理由により、「同社の業績予想が実際と比べてどうなのか」ということに言及するつもりはないが、「不況という暴風雨のなかで、必要以上に保守的な業績予想を開示してはいないか」ということを、指摘しておきたかっただけだ。

 むしろ、本当に2009年3月期が大赤字のオンパレードになるとしたら、「ニッサンがかつて2000年3月期〜2002年3月期に展開したのと同じ演出効果を、トヨタも狙っているのだろうか」と勘ぐりたくもなる状況――とでも言っておこう。

果たしてトヨタの決算やいかに?
薫風の季節を楽しみに待とう

 たとえば、当時(2000年3月期)“事業構造改革特別損失等”の名目で7496億円もの特別損失を計上したニッサンは(その結果、当期純利益は▲6844億円になった)、翌期以降、カルロス・ゴーン社長のリーダーシップによって劇的に回復して行くプロセスを見せてくれた。そのことが、投資家に「新生ニッサン」のイメージを強く植え付けることになったのだ。

 特に2000年3月期以降、“税効果会計に基づく法人税等調整額”が▲306億円→▲1306億円→▲1021億円→+855億円へと推移していく様は、ある意味「監査法人がよくも認めたものだ」と感心してしまうほどだ。

 このような過去のケースからも、トヨタが2009年3月期決算にどんな決算を開示して来るのかは、興味深いところだ。薫風の季節を待つことにしよう。

 自動車業界については、他にも「ホンダはなぜ財務のチカラがこれほど強いのか」「トヨタが08年2月末に発行した2000億円の社債はどういう効果があるのか」といったポイントから、“最適資本構成”という興味深いトピックを展開することができる。

 だが、自動車業界ばかりを採り上げているわけにもいかない。次回からは、自動車業界とともに暴風雨圏にある電機業界へ斬り込んでみよう。

◆参照◆
(注1)拙著『戦略会計入門』(日本実業出版社)297頁
(注2)前掲書210頁
(注3)日本経済新聞08年2月7日朝刊

筆者プロフィール

高田 直芳(たかだ なおよし)
公認会計士、公認会計士試験委員/原価計算&管理会計論担当

1959年生まれ。栃木県在住。都市銀行勤務を経て92年に公認会計士2次試験合格。09年12月より公認会計士試験委員(原価計算&管理会計論担当)。「高田直芳の実践会計講座」シリーズをはじめ、経営分析や管理会計に関する著書多数。ホームページ「会計雑学講座」では原価計算ソフトの無償公開を行う。

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