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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(6)

最適資本構成からかけ離れた東芝の危機

高田直芳
公認会計士
2010/9/16

これまで数回に渡って不況に悩む電機各社を分析して来たが、今回は東芝をメインに取り上げる。東芝型の操業度率のデータから深刻さを検証し、そこから「東芝の資本構成に潜む不安」を炙り出してみたい(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年4月24日)

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東芝の増資は果たして
“起死回生策”となるのか?

 マスメディアなどでは時折、企業の過剰負債が問題視されることがある。たとえば、『週刊ダイヤモンド』2009年2月21日号の40ページには、「市場が警戒する東芝の脆弱性」というサブタイトルが踊り、東芝の有利子負債の多さを懸念する記事が掲載されていた。

 それに背中を押されたわけでもないだろうが、冒頭で述べたとおり、東芝はこの6月に5000億円規模の増資を行なう予定だという。

 しかし、筆者は、実際デット比率(≒負債比率)が相対的に高い東芝型について、「脆弱性」という印象を格別には感じない。原子力発電事業などで乾坤一擲(けんこんいってき)の経営戦略を展開しようとするならば、他人資本で調達しようが自己資本で調達しようが、関係ないからだ。

 冒頭で東芝の事態は深刻だと述べたが、筆者はむしろ、同社の気概を評価したい。重要なのは、貸借対照表に「資産」として抱えたとき、「それが十分採算がとれるものかどうかという検証を怠らない」ことである。

 実際、筆者の知る某業界のケースでは、実際デット比率が90%以上をキープしていながら、その業界に属する多くの法人が「健全経営」と評価されている。このような企業に金融機関やリース会社が“揉み手”で群がるのだから、不思議な世界があるものだ。

 また、シャープ型のように、実際エクイティ比率(≒自己資本比率)が相対的に高いからと言っても、それが同社にとってアドバンテージだとは、筆者は感じない。

半世紀に渡って閉ざされていた
ファイナンス戦略の扉は開くか?

 ところが日本のマスメディアには、「欧米の企業よりも日本の企業のほうが自己資本が充実している」と、身内を褒めそやす傾向がある。私は、そのことに対しても異議を留めたい。

 「欧米では“MM理論の第3命題”が実践されており、日本では当該命題が理解されていない」というだけの話だろう。

 もちろん、医薬品業界のように、自己資本の充実を第一に考えなければならないケースもある。しかし、それは最適資本構成とは別の問題である。いずれ、明確な根拠をもって説明したい。

 経済学というアカデミックな体系の中で、半世紀もの間放置同然だった「ファイナンス戦略」について、企業実務の立場から風穴を開けるのは、容易な作業ではないのである。

筆者プロフィール

高田 直芳(たかだ なおよし)
公認会計士、公認会計士試験委員/原価計算&管理会計論担当

1959年生まれ。栃木県在住。都市銀行勤務を経て92年に公認会計士2次試験合格。09年12月より公認会計士試験委員(原価計算&管理会計論担当)。「高田直芳の実践会計講座」シリーズをはじめ、経営分析や管理会計に関する著書多数。ホームページ「会計雑学講座」では原価計算ソフトの無償公開を行う。

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