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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(8)

好調ニトリで分析するコスト管理の本質的問題

高田直芳
公認会計士
2010/11/11

「赤字転落の原因は、売上の減少」と言っている企業は、いつまでたっても業績は回復しない。固定費と変動費を的確に分解する分析を行なわなければ、コスト削減の本質には迫ることはできないのだ。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年5月22日)

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 筆者の家から北東の方角に、家具専門店のニトリがある。不況下でも業績好調な企業として、新聞や経済雑誌などでしばしば取り上げられる企業だ。まさか、こんな近くに店舗があるとは思わなかった。

 顧問先企業の実地棚卸を手伝っているとき、倉庫にあるスチール製の棚の構造に感心して、倉庫担当者に「これは業務用ですか?」と訊(き)いたところ、ニトリで買ったものだと言われた。そこで帰宅後、ニトリの店舗をインターネットで検索したら、近くにあったという次第だ。

 休日を利用してニトリを訪ね、店内に足を踏み入れた途端、「ああ、なるほど」と頷(うなず)くものがあった。この店は売りかたを知っているなと。

 不況だからといって、値引きやポイントを連発すれば売れるというものでもないし、PB(プライベート・ブランド)商品を棚に並べれば売れるというものでもない。

 消費者が店に入ってきたら、彼ら(彼女ら)の購買意欲をかきたてるための仕組み作りを用意しておくことも、店側が備えおくべき「売りかた」の基本だろう。

ニトリ商品陳列に表れる
「売れるシステムづくり」の秘訣

 ニトリを訪れたとき、店内の商品棚は、効率性を重視して碁盤の目で整然と配列されていた。ところが、よくよく観察してみると、買い物客は「統計学上のルール」で行動することを、店の側ではあらかじめ想定しているんだな、ということに気が付く。

 ニトリが本当に、統計学のルールに沿って商品陳列を行なっているかどうかまでは、筆者は知らない。ただ、店内の商品配列の仕方に、統計学の考えかたが染みこんでいるのは確かだろう、と推測したまでだ。

 流通業界の某上場企業では、幹部社員への研修で必ず統計学を学ばせるという。個々の消費者の行動はバラバラであっても、多数の消費者が来店すれば、彼ら(彼女ら)の行動は「正規分布」することを学ばせるのだ。世に数多く考案されている「売れるシステムづくり」の一手法である。

  かつて、北関東に本社がある家電量販店の頭文字を取って、「YKK戦争」と呼ばれた時期があった。現在は、YKKのうちの1社が脱落した感がある。その脱落した量販店の店舗を訪れると、他の2社に比べて「売れるシステムづくり」を学んでいないな、とこれまた推測できる。

赤字転落の原因は
売上高の減少にあらず!

 今回のコラムは、消費者の行動心理に関する話をしようというのではない。「売れるシステムづくり」を指向し、業績が好調なニトリの決算書データを拝借して、各社が取り組んでいるコスト削減に対する「勘違い」を問おうとするものである。

 2009年に入って再三にわたり語られる話題として「売上高が減ったから、赤字決算になった」というものがある。しかし、このロジックは正しくない。なぜなら、コストの大半が変動費から構成されているならば、売上高がどれだけ減少しようとも、赤字決算になることはないからだ。

 例えば、左から商品を仕入れて、右へ販売するだけの商売を考えてみよう。商品仕入れ高は、変動費の典型例である。売上高が減少するならば、商品仕入れ高を減らすことによって、赤字決算への転落を防ぐことができる。

 赤字決算に転落する真の要因は、固定費が炙り出される点にある。たとえ売上高が増加していても、在庫関連費用などの固定費がかさめば、赤字に転落する可能性があることを見逃してはならない。

 損益計算書の、営業利益・経常利益・当期純利益に▲マークが付くのは、それまで水面下に隠れていた固定費が、ぽっくりと顔を現わしたものなのである。損失を表わす▲マークはまさに、氷山の一角をイメージさせる。

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