公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(11)
横浜銀行の救世主? “繰延税金資産”の罠
高田直芳
公認会計士
2011/2/10
経営分析を行なっていると袋小路に陥ってしまう原因の1つに「税効果会計」がある。実はその税効果会計により繰延税金資産を計上することで、増資を行なうよりも手軽な資本増強策になってしまう恐れがある。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年7月3日)
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前回は過小資本に苦悩するメガバンクを扱った。今回は、同じ業界でありながら、より身近な存在である地方銀行を取り上げる。
全国地方銀行協会が2009年6月17日付けで発表した「決算の概要」によれば、地方銀行の09年3月期の当期純利益(連結ベース)は▲570億円で、5年ぶりに赤字に転落した。有価証券の減損処理と不良債権の増加が主たる要因だという。
そうした情報を踏まえて、早速、「地方銀行の雄」と称される横浜銀行の操業度率の推移をご覧いただきたい。
〔図表1〕横浜銀行の操業度率 |
〔図表1〕は本連載でも再三登場させているグラフである。量産効果を最も発揮する予算操業度売上高を100%と置いて、実際売上高を実際操業度率、損益分岐点売上高を損益分岐操業度率、そして企業の利潤を最大化する最大操業度売上高を最大操業度率として表わしている。
前回のコラムでも紹介した通り、〔図表1〕の実際操業度率の推移を見ると、2007年後半は「サブプライムローン問題」、そして08年後半は「リーマンショック」に、横浜銀行も揺さぶられたことを読み取ることができる。
銀行の損益分岐操業度率が40%である理由
これも前回コラムで紹介した通り、08/12(2008年12月期)まで、損益分岐操業度率が40%で推移しているのも、銀行業界の特徴だ。
銀行などの金融機関は複雑な金融商品を扱っているが、業務処理は均質化が図られている。銀行員は頻繁に異動を繰り返しても、従前の支店と同じ業務を異動初日からこなすことができるのだ。メーカーで、工場間の転勤(例えば半導体工場から家電工場へ)が難しいのとは対照的である。
金融機関では、均質化された業務が、損益分岐操業度率40%を維持する秘訣といえる。それはまた、本店のエリート達による証券運用の失敗を、地道な努力を怠らぬ支店の収益でシリ拭いしている、ともいえるのだ。
そうした問題があるのはともかくとして、他の企業にとっても、作業の均質化(悪くいえばマニュアル化)は損益分岐操業度率を引き下げる効果があることを知っておくべきだろう。
経営分析に横槍を入れる税効果会計
横浜銀行や千葉銀行などの分析に取り掛かろうとしたのだが、パソコン画面に表示されるグラフを前にして、「う〜ん」と腕組みをせざるを得なかった。
銀行には、不良債権問題や有価証券含み損問題など複雑な問題が絡んでおり、それを一本ずつ解きほぐしていこうとすると、いつしか袋小路にはまり込んでしまう。
裏で糸を引いている黒幕は何者か、と小路のスミに目をやると、必ずといっていいほど「税効果会計」という名のお地蔵様が佇(たたず)んでいるのだ。
ということで今回は、どこの企業でも避けては通れぬ税効果会計の話を扱うことにする。これを理解することにより、銀行業界が抱える矛盾を炙り出すことができるのだ。
ニッポンの企業の税負担が4割とされる根拠
「税」という言葉を聞いて「ありがたい話だ」と喜ぶ人は、そうはいないだろう。
衆議院選挙を目前にした人気取り政策の一環として、今年の初めに定額給付金という減税が行なわれた。これはいずれ必ず増税となって跳ね返ってくる。そうした悪印象の「税」に「会計」という文字がつくのだから、税効果会計は、会計の中でも鬼っ子扱いである。
その鬼っ子を忌避しようという趣旨でもないのだろうが、経営分析の多くは、営業利益または経常利益が中心となって展開されている。税効果会計が絡む法人税等(法人税等調整額)は、アンタッチャブルの世界のようだ。
そこまで嫌われるのは、税効果会計として不本意であろう。小難しい説明は後回しにして、まずは税効果会計が企業の決算書に、どう組み込まれているの かを見てみよう。なお、以降の表は表示単位を「億円」としているが、実際の計算は「百万円」で行なっている点に注意していただきたい。
〔図表2〕京セラとNTTの実際実効税率 |
〔図表2〕は、ニッポンを代表する企業である京セラとNTTの連結損益計算書から、「税金等調整前当期純利益(1)」と「法人税等(2)」を抽出したものだ。2008年3月期と2009年3月期の2期間を並べている。