IFRSで経営改革に取り組む企業を応援します

公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(20)

トヨタも苦戦! 「固定費削減で回復」は真実か

高田直芳
公認会計士
2011/10/13

「固定費削減により業績回復の兆しが見え始めた」といわれる自動車メーカー。しかし実際に分析をしていくと、「生産管理の鬼」であるトヨタでさえも苦戦する固定費削減の実態が見えてくる。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年11月20日)

前のページ1 2 3

PR

3社の業績予想達成に必要な
「コストの要削減率」「期待操業度率」

 次は、〔図表2〕にあるk(操業度率)を使った分析をお見せする。決算短信で公表されている「業績予想の確度」を占おうというのである。

 筆者のうろ覚えで恐縮なのだが、確かアメリカでは企業自身が業績予想を公表することは行なっていない。もし、予想がハズレれば、株主代表訴訟となるからだ。そのため、アメリカでは専ら、投資銀行などに属するアナリストが業績予想を手がけている。

 〔図表8〕は、09年9月期までのコスト構造を所与として、3社が公表している業績予想を達成するために、10年3月期までの6か月間で、あとどれくらいのコスト削減努力を行なえばいいのかを解析したものである。

〔図表8〕コストの要削減率の比較

 〔図表8〕の数値が、何となく業界内の序列を表わしている感じがして面白い。トヨタの実力からすれば、1.14%の要削減率は達成が容易だろう。ただし、円高に振れれば、この程度の削減率は簡単に吹き飛んでしまう点に注意したい。〔図表1〕にある「為替変動の影響」が、なんとも不気味だ。ニッサンの要削減率3.95%は、かなり厳しい予感がする。

 次の〔図表9〕は、09年9月期までのコスト構造を所与として、業績予想で公表されている売上高を達成するために、操業度率をあとどのくらいアップさせればいいかを調べたものである。〔図表8〕を、操業度率の面から解析し直したものである。

〔図表9〕操業度率の比較

 トヨタが+4.3%も上昇させる必要があるのは、厳しいといえるかもしれない。ただし、他の2社と比べて、09年9月期における実際操業度率が55.7%と低いのであるから、上昇率+4.3%への取り組みは、やむを得ない努力といえるだろう。エコカー減税の効果を、あとどれくらい取り込めるかにかかっている。

 ホンダとニッサンの上昇率が1%に満たないのは、向こう半年間の努力は必要なし、といったところか。この消極姿勢が吉と出るか、凶と出るかは、10年3月期の業績を見てからのお楽しみ、となるのだろう。

 なお、ニッサンの操業度率が異常に高いのは、先ほど説明した「珍妙なる尾ヒレ」の影響だ。

自動車業界の分析を難しくさせる
現行ディスクロージャー制度の課題

 以上の分析結果はすべて、〔図表2〕のコスト関数から展開していったものである。1本の方程式で多彩なバリエーションをお見せしたが、実は今回取り上げた自動車業界の経営分析は、骨の折れる作業でもあった。最大の原因は、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の様式が、各社でバラバラだからだ。

 例えば第6回コラム(東芝編)以降で取り上げている最適資本構成の問題を、トヨタ・ホンダ・ニッサンに当てはめたいのだが、一番重要な金融費用(特に支払利息)の表示方法が各社で統一されていない。

 トヨタは売上原価と販売費及び一般管理費の間に、巨額の金融費用が計上されている。ニッサンは、損益計算書の支払利息とキャッシュフロー計算書の支払利息が一致していない。ホンダの場合、金融サービス業に係る金融費用はどこに計上されているのだろうかと、探しあぐねてしまった。

 国際会計基準(IFRS)とのコンバージェンス(収束)も大事であろうが、三者三様の表示方法を放置している、現在のディスクロージャー制度のほうを先に改めてもらいたいものだ。

 特にホンダの決算書を見る場合は、注意が必要だ。09年10月下旬に公表された決算短信では、前期(08年9月期)に係る業績も開示されている。ところが、1年前に公表された決算短信と比較すると、金額が修正されているのだ〔図表10〕。ホンダの業績ばかりを追いかけているわけではないので、これは意外と面食らう。

〔図表10〕ホンダ:08年9月期の比較(単位:百万円)

 決算短信の公表後に会計監査によって修正を受けるのはあり得ることなので、ホンダの決算数値が変わるのは当然だろう。それにしても、▲109億円と▲62億円の減額修正は大きい。今回の09年9月期の確定数値も今後、ひょっとしたら下方へ修正される可能性があるのかもしれない。決算短信で開示されている業績予想の利益も、必ずブレることを想定しておくべきだ。

 ニッサンの業績回復は「二の轍を踏む」のに対して、ホンダの業績予想は「二の足を踏む」といったところか。マスメディアやエコノミストは、上場企業の相次ぐ業績上方修正に景気回復への期待感を膨らませているようだが、筆者はいささか冷めてしまっている状況だ。

筆者プロフィール

高田 直芳(たかだ なおよし)
公認会計士、公認会計士試験委員/原価計算&管理会計論担当

1959年生まれ。栃木県在住。都市銀行勤務を経て92年に公認会計士2次試験合格。09年12月より公認会計士試験委員(原価計算&管理会計論担当)。「高田直芳の実践会計講座」シリーズをはじめ、経営分析や管理会計に関する著書多数。ホームページ「会計雑学講座」では原価計算ソフトの無償公開を行う。

前のページ1 2 3

DIAMONDonline
@IT Sepcial

IFRSフォーラム メールマガジン

RSSフィード

イベントカレンダーランキング

@IT イベントカレンダーへ

利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | サイトマップ | お問い合わせ
運営会社 | 採用情報 | IR情報

ITmediaITmedia NewsプロモバITmedia エンタープライズITmedia エグゼクティブTechTargetジャパン
LifeStylePC USERMobileShopping
@IT@IT MONOist@IT自分戦略研究所
Business Media 誠誠 Biz.ID