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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(16)

優良企業をダメ判定 フリーキャッシュフローの罪

高田直芳
公認会計士
2011/7/7

堅実な業績の三井不動産だが、フリーキャッシュフローによる検証を行うと、「ダメ会社」と判断されてしまう。しかしそれは、フリーキャッシュフローが「ダメ指標」であるからという点に注意せねばならない。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年10月2日)

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 先の第15回コラムで はJAL(日本航空)を題材に、従来のフリーキャッシュフロー(フリーCF)に対抗するものとして、オプション―キャッシュフロー(タカダ式フリーキャッシュフロー)というものを紹介した。ただし、オプション―キャッシュフロー(オプションCF)は生まれたての指標なので、実績に乏しいのが弱点だ。

 そうはいっても、キャッシュフロー計算書に対する経営指標は今後とも、どんどん開発されていくべきだと考える。

 キャッシュフロー計算書が「第3の財務諸表」として会計制度に導入されたのは1998年。企業会計審議会『連結キャッシュフロー計算書等の作成基準』が始まりである。いまだ11歳の子供だ。

 貸借対照表や損益計算書が、15世紀の大航海時代や18世紀からの産業革命を経て、数百年間にわたって鍛え上げられてきたのに比べると、キャッシュフロー計算書はヒヨッ子もいいところだろう。

 それだけに、キャッシュフローそのものに対する理解が、いまだ不十分だともいえる。

 筆者も、2002年に出版した『ほんとうにわかる経営分析』(PHP)ではキャッシュフロー計算書に対する理解ができていなかったため、経営分析の世界では長年の実績ある資金運用表を用いた。

 ちなみにこの本は、2009年で版を重ねること第21刷。大変な長寿であることに驚いている。

サブプライムローン問題でも揺るがなかった三井不動産

 しかし、資金運用表や資金移動表といったものは、第8回コラム(ニトリ編)のCVP分析や、第12回コラム(ソフトバンク編)のEBITDAなどとともに、もうそろそろ「お葬式」を出してやらねばならない時期だと考えている。

 特にキャッシュフロー計算書を用いた経営指標が、これからどんどん開発されるべきと考えるのだが、同計算書でいまのところ市民権を得ているのは、フリーキャッシュフローぐらいのようだ。これは営業活動キャッシュフローと投資活動キャッシュフローを合算したものである。
 
  しかし、こうして求められたフリーキャッシュフローは、前回コラムのJALや日立製作所の例でも指摘したように、どうにも頼りない。そこで今回は三井不動産を取り上げて、さらにフリーキャッシュフローの問題点に迫ってみよう。

 〔図表1〕は、07/3(2007年3月期)から09/6(2009年6月期)までの、三井不動産の売上高推移をグラフにしたものである。フリーキャッシュフローを語るための露払いとして見ていただきたい。

〔図表1〕三井不動産の売上高推移


 〔図表1〕の一番上にある赤い線は、企業の利潤を最大にする最大操業度売上高、その下にある青い線は量産効果を最も発揮する予算操業度売上高であり、両売上高に挟まれたグレーの部分がタカダバンドである。

 黒い線で描かれた実際売上高は、タカダバンドのすぐ下を沿うようにして上昇傾向を示しており、三井不動産はサブプライムローン問題やリーマンショックを無事に乗り切ったといえるだろう。緑の線で描かれた損益分岐点売上高も、1兆円のところで安定している。

 マスメディアなどでは時々「損益分岐点売上高を下げよう」という論調を見かける。確かに、屋台骨を削れば損益分岐点売上高は下がるかもしれない。しかし、骨身を削る経営戦略は取り返しのつかないことになると懸念している。

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