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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(16)

優良企業をダメ判定 フリーキャッシュフローの罪

高田直芳
公認会計士
2011/7/7

堅実な業績の三井不動産だが、フリーキャッシュフローによる検証を行うと、「ダメ会社」と判断されてしまう。しかしそれは、フリーキャッシュフローが「ダメ指標」であるからという点に注意せねばならない。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年10月2日)

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 従って、損益分岐点売上高を下げるのではなく、実際売上高がタカダバンドに近づく努力をすべきであろう。下(損益分岐点売上高)を見るのではなく、上(タカダバンド)を見るのである。

 企業が成長するとは、そういうことではないだろうか。三井不動産は文字通り「上」を目指す成長軌道に乗っている会社だといえる。

フリーCFが通年マイナス! 三井不動産は「ダメ会社」なのか

 〔図表1〕のように堅実な業績を示す三井不動産であるのなら、同社のフリーキャッシュフローもさぞや潤沢だろうと、その推移を調べたものが〔図表2〕である。

〔図表2〕三井不動産のフリーキャッシュフロー

 

 青、赤、黒の各線が交錯して、見づらいかもしれない。その中で注目したいのは、黒い線で描かれたフリーキャッシュフローである。〔図表2〕を見ると、三井不動産のフリーキャッシュフローは常に数千億円規模の赤字状態が続き、一度もプラスになっていないことがわかる。これは一体、どういうことなのだろうか。

 フリーキャッシュフローというと「設備投資はフリーキャッシュフローの範囲で行なえ」といったものが金言としてしばしば語られる。

 つまり、三井不動産は、この金言を無視して設備投資を繰り返していたことになる。それ以前の問題として、08/6(2008年6月期)以降、青い線で描かれた営業活動キャッシュフローはマイナスなのであるから、投資活動自体、自粛すべきであろう。

 上記からわかるように、〔図表2〕にある営業活動キャッシュフローやフリーキャッシュフローに注目すると、三井不動産は「ダメ会社」といえる。マスメディアなどが、フリーキャッシュフローを題材に企業を取り上げる場合、おそらく、三井不動産は落選するだろう。

 しかし、〔図表2〕による検証だけで、三井不動産に「ダメ会社」の烙印を押すべきなのだろうか。

「ダメ指標」フリーCFを追いかけてはいけない

 筆者は、それは違うと考えている。なぜならば、三井不動産が「ダメ会社」なのではなく、フリーキャッシュフローが「ダメ指標」だからだ。

 三井不動産について、オプション―キャッシュフロー(タカダ式フリーキャッシュフロー)を描いたのが〔図表 3〕である。

〔図表3〕三井不動産のオプション-キャッシュフロー


  三井不動産は07/12(2007年12月期)まで、四半期ごとのキャッシュフロー計算書を作成していな いので、フリーキャッシュフローについては08/3(08年3月期)以降を描いている。いずれにしろ、同社のフリーキャッシュフローは、赤字状態が続いて いることに変わりはない。

 ところが、赤い線で描いたオプション―キャッシュフロー(タカダ式フリーキャッシュフロー)は、ゼロよりも少しだけプラスのところを推移している。つまり、先ほどの金言が見事に守られている。三井不動産のキャッシュ管理は、さすが業界最大手だけのことはあるな、と感心すべきものなのだ。

 ただフリーキャッシュフローを追いかけていたのでは、こうした事情はわからない。

 第12回コラム「ソフトバンク編」では、同社が向こう3年間でフリーキャッシュフロー累計額を1兆円にする、という目標を立てていることを紹介した。しかし、三井不動産の例からもわかる通り、フリーキャッシュフローを無理にプラスにする必要はない。

 ソフトバンクの、フリーキャッシュフロー1兆円の心意気は評価したいのだが、「だから、それがどうした」といったところなのである。

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