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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(24)

なぜ日本の電機メーカーは韓国製品に完敗か

高田直芳
公認会計士
2011/12/8

三菱電機と東芝は、重電部門への「選択と集中」を進めている。ところが、この戦略は必ずしも“選択”とはいえない部分がある。韓国サムスン電子に追い詰められ、「やむを得ず選択した」可能性もあるからだ。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年1月22日)

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日韓メーカーの対決!
韓国家電が日本を席巻する理由

 「日の丸メーカー」と「韓国メーカー」という仮想企業を設定し、それぞれにおける家電部門と重電部門の「1人当たりの付加価値額」を、仮説例で説明する。なお、付加価値額とは、中小企業庁の定義によれば「旧労働生産性」のことであり、その内容は営業利益に人件費と減価償却費を加えたものとされている。ここではその定義をそのまま拝借する。

 日の丸メーカーと韓国メーカーの付加価値額(旧労働生産性)を調査して、〔図表2〕の結果を得たと仮定しよう。


  〔図表2〕のポイントは2つある。1つめは、〔図表2〕を「行」で見比べることである。1人当たりの付加価値額は、日の丸メーカーと韓国メーカーともに家電部門のほうが多いので、両社は家電部門に経営資源の多くを投入しようとする。

 2つめは、〔図表2〕を「列」で見比べることである。両部門の付加価値額ともに、日の丸メーカーのほうが韓国メーカーを上回っている。金額だけに注目した場合、日の丸メーカーは韓国メーカーに対して両部門とも絶対的に優位な立場にあることがわかる。

 20世紀の終わり頃まで、日の丸メーカーは家電部門・重電部門ともに圧倒的な付加価値額を計上していたので、各社は総花形式で製品群を取りそろえ、我が世の春を謳歌した。

 ところが、〔図表2〕には錯覚があることを、日の丸メーカーは気づかなかった。韓国メーカーの行に注目してほしい。

 韓国メーカーの家電部門の付加価値額は20,000千円/人であり、重電部門の付加価値額は10,000千円/人になっている。つまり、両部門には2対1の関係がある。

 もし、家電部門の従業員1人を重電部門へ異動させたならば、2人分の働きを見込むことができる。一方、重電部門の従業員1名を家電部門へ移動させても、0.5人分の働きしかないことがわかる。この数値を「機会原価率」と呼ぶことにする。

 同じことを日の丸メーカーにも当てはめた場合、家電部門から重電部門への異動は機会原価率で1.25人分に相当し、重電部門から家電部門への異動は機会原価率で0.8人分に相当する。

 こうした機会原価率の組み合わせをまとめると〔図表3〕になる。


  日の丸メーカーの家電部門の機会原価率0.8人と、重電部門の機会原価率1.25人とは、逆数の関係になっている点に注意してほしい。韓国メーカーについても同様である。

 錯覚を解消するために、〔図表3〕にある家電部門の列に注目しよう。日の丸メーカーの機会原価率は0.8人であり、韓国メーカーの機会原価率は0.5人なので、韓国メーカーのほうの投入人数は少なくてすむことがわかる。

 しかも、日韓の賃金格差や円高が加わるとどうなるか。韓国メーカーの家電製品が、日本国内の市場を席巻する構図を描くのはそう難しくないのだ。

絶対的な地位を築いていた
日の丸メーカーの揺らぎ

 以上の付加価値額と機会原価率の関係を視覚的に図解したのが〔図表4〕だ。縦軸を重電部門の付加価値額、横軸を家電部門の付加価値額としている。この図表を使って直感的な追加説明を行なう。


  〔図表4〕では、縦軸と横軸の金額が、1人当たりの付加価値額を表わしている。また、日の丸メーカーと韓国メーカーそれぞれの機会原価曲線が、右下がりの直線として描かれ、その傾きが機会原価率になっている。

 日の丸メーカーの機会原価曲線は韓国メーカーの機会原価曲線よりも上位にあり、日の丸メーカーはすべての点で「絶対的に優位な状態」があることがわかる。高度成長期における日の丸メーカーの機会原価曲線は、〔図表4〕よりもはるか上方に位置していたので、我が世の春を謳歌していられたのだ。

 いまでは、2本の曲線はかなり接近していると予想され、日の丸メーカーの絶対的な優位が揺らいでくるようになった。そうなると、1人当たりの付加価値額ではなく、機会原価率での勝負になる。

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