
公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(24)
なぜ日本の電機メーカーは韓国製品に完敗か
高田直芳
公認会計士
2011/12/8
三菱電機と東芝は、重電部門への「選択と集中」を進めている。ところが、この戦略は必ずしも“選択”とはいえない部分がある。韓国サムスン電子に追い詰められ、「やむを得ず選択した」可能性もあるからだ。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年1月22日)
PR
第20回コラムでは、トヨタ自動車などのデータを元に「損益デッドクロス」を紹介した。第22回コラムではソニー・富士通・NECの決算データを用いて、損益デッドクロスから経済学の企業行動論へと展開していった。そして第23回コラムは、「西の横綱」と呼ばれたパナソニックを取り上げた。
話題の連続性からすれば今回は、かつて「東の横綱」と呼ばれた日立(日立製作所)を取り上げるのが自然な流れだろう。ところが、今度ばかりは、お手上げだ。分析資料をいくら眺めても、どう説明していいのか、わからない。日立の業績が低迷しているのはもちろんだが、何によりも同社には、切り込むにあたっての“話題性”がないのである。
例えば新聞や経済雑誌などを読んでいると、ソニーはゲーム、富士通はスーパーコンピュータ、東芝は原子力、パナソニックは三洋買収などの記事が踊る。各社ともそれに絞った経営戦略を展開しているわけではないが、「この会社には、この話題」がついて回っているのは確かだ。
では、日立には何があるのか。過去3か月ほどのスクラップ記事を読み返しても「これこそ、日立だ!」という話題が見つからなかった。日立マクセルなど完全子会社化の話題などがあったようだが、身内でかためた「草食系M&A」では、長期低迷から脱する推進力にはなりそうもない。
そういうときは足もとを見るに限る。家電製品から話題を見つけようとして我が家を見回したところ、パナソニック製とシャープ製が多いことに改めて驚いた。
日立が東芝・三菱に抜かれた!?
総合電機メーカーで起きた下克上
とりあえず今回は(←こういう表現は極めて非礼である点をご容赦いただくとして)、第6回コラムで取り上げた東芝に、日立と三菱電機を合わせた総合電機メーカーを一括りにして取り上げ、経済不況後における各社の戦略について分析していきたい。なお、細かな業界定義を述べるならば、パナソニックとシャープは総合「家電」メーカーである。
まず、総合電機メーカー3社の時価総額を比較してみよう。
![]() |
時価総額は3社とも大幅減である。そこには目をつぶり、カッコ内の倍率のほうに注目したい。
これらの倍率は、2000年3月期と2009年9月期ともに、各期における日立の時価を「1.00倍」とした場合、東芝と三菱電機の時価総額は何倍になるかを計算したものだ。2000年3月期では、東芝は日立の0.83倍にとどまり、三菱電機に至っては日立の半分(0.51倍)しかなかった。ところが、2009年9月期では、東芝は日立の2.28倍、三菱電機は日立の1.48倍と、見事な下克上である。
特に三菱電機の時価総額は前世紀まで、日立の3分の1程度でしかなく、総合電機メーカー3社の中では万年最下位と揶揄(やゆ)されていた。ところが2年前(2008年3月期)に、三菱電機が時価総額で日立を追い抜いた。
当時、アナリストの間では「この珍現象がいつまで続くのか」といった予想が行なわれていた。いまではこの序列がすっかり定着してしまった感じだ。
重電部門への「選択と集中」で
躍進した三菱と東芝
日立については数多くの記事があるので、ここで述べるまでもない。三菱電機の躍進については、前世紀末頃から行なわれた経営革新の成果を指摘できるだろう。
以前は“MITSUBISHI”のロゴマークの入った製品をよく見かけたが、同社は十年ほど前からFA(Factory Automation)や宇宙防衛産業などに経営資源を集中していった。いわゆる「選択と集中」のサバイバル戦略である。
確かに、個人の家庭で“MITSUBISHI”の製品を見ることは少なくなった。また、「組織の三菱」といわれるだけあって、筆者は申し訳ないことながら、三菱電機の歴代社長の名を知らない。個性が薄くなった三菱電機ではあるが、組織力で日立を追い抜いたのは事実である。当時の経営者の舵取りが成功した例だといえる。
経営を革新するには必ずしも、ファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井氏や、ニッサンのゴーン氏のような傑物の登場を待つ必要はないということだろう。
東芝については、第6回コラムで「筆者はむしろ、同社の気概を評価したい」と述べた。同社はご存じの通り2006年2月に、米原子力大手ウェスチング社を54億ドル(約6400億円)で買収している。
その後は、2009年3月期に半導体事業などの電子デバイス部門が3232億円の営業赤字に陥ったのを契機として、原子力などの社会インフラ事業への傾斜を強めているようだ。
さらに展開を進めているのが、送変電・配電事業である。2009年11月に、次世代電力網「スマートグリッド」をにらみ、仏アレバの送変電・配電機器部門の売却案件に応札した。落札には至らなかったが、成長戦略へのこだわりを印象付けた。
総合電機メーカーは従来、発電所から家電製品に至るまで、あらゆる分野に触手を伸ばしてきた。三菱電機も東芝も世界同時不況に直面して、重電回帰という経営戦略を「選択」し、そこに経営資源を「集中」しているといえる。
ところが、「選択と集中」といえば聞こえはいいが、話はそう簡単なものではない。例えば、韓国サムスン電子に追い詰められて、やむを得ず選択した、という可能性もあるからだ。今回は、その点を掘り下げてみよう。


IFRS任意適用の要件緩和へ、企業会計審議会に新しい流れ
