
公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(27)
キヤノン&リコーの来し方行く末
高田直芳
公認会計士
2012/2/24
今回は電子化が進んだとはいえ、いまだに多くの職場で幅を利かせている事務用機器メーカー、キヤノンやリコーに注目する。この両社は、不況の影響をダイレクトに受けており、今後の行く末が大変気になるところだ。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年3月5日)
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こうしたビジネスモデルを採用している業界は他にも数多くある。例えば、トヨタ・ホンダ・ニッサンなど自動車メーカーのセグメント情報を見ると、ハード面(自動車)よりも、利用者との接点を長く保つソフト面(ローンやリースなどの金融機能)のほうが、利ザヤが厚いことがわかる。
即金で購入する高額所得者よりも、ローンやリースを組まざるを得ない低額所得者のほうが、企業にとっては「おいしい客」という構造だ。ローンにかかる利息収入のおかげで、企業はその利益にゲタを履かせてもらっている、といっていい。
利用者との接点が多いほど企業にとっては稼ぎのネタになることから、この接点を脅かす存在に、企業は神経をとがらす。数年前に起きた、インクカートリッジに関する訴訟がその代表例だ。
これは、キヤノン製の使用済みインクカートリッジに、インクを再注入したリサイクル品を中国から輸入して販売しようとした企業(リサイクル・アシスト社)の行為について、最高裁が2007年11月に「キヤノンの特許権を侵害する」と判断したものだ(キヤノンのニュースリリース)。記憶している読者も多いだろう。
不況が直撃!
急降下するキヤノン&リコーのROE
最高裁判決という得手に帆を揚げて、その後、事務機器業界の拡大が期待されたのであろうが、現実は厳しかったようだ。キヤノンとリコーの、伝統的ROEの推移を〔図表 1〕に掲げて、その事実を確認してみよう。
ROEの仕組みについては、第25回コラム(トヨタ自動車編)で詳しく紹介したのでそちらを参照いただきたい。〔図表 1〕は、「自己資本当期純利益率」を移動平均させて計算したものである。これを、両社が扱う一眼レフカメラの視点で眺めることもできるが、今回はカラープリンターの「眼」で見ていただきたい。
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〔図表 1〕を見ると、両社とも仲良く08/9(08年9月期)あたりで、下方へ大きく屈曲している。最高裁判決を利用して「得手に帆を揚げて」とはいかなかったようだ。
特にリコーについては09/3(09年3月期)以降、ROEが水面下に没している。第20回コラム(トヨタ・ホンダ・ニッサン編)でも述べた某社の「お家芸」を真似て、いっそのこと中間決算で大幅な引当金損を積み上げ、期末に取崩益を吐き出して急回復する、といった演出をしてもよかったのではないか、とアドバイスするのは、あまりに皮相な見解か。
〔図表 1〕では、09/12(09年12月期)に反転上昇の気配を見せているのが救いだろう。
それにしても、キヤノンとリコーの相似形には驚く。この不況下、あらゆる企業で、事務機器に対するコスト削減が真っ先に行なわれたのではないか、という推測が働く。
株価は半年の業績を先取り?
タカダ式PERでわかった“本当の底”
次の〔図表 2〕は、第25回コラムでROEとともに紹介した、伝統的PER(株価収益率)の推移である。
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青い線で描いたキヤノンが、09/9(09年9月期)に急上昇しているのは、対前年比で44%の利益しか計上できなかったのが要因である。
赤い線で描いたリコーが09/3(09年3月期)以降、大きな上下動を描いているのは、09年3月期の第4四半期(09/1〜09/3)に230億円を超える赤字を計上したためだ。
〔図表 2〕で描いた伝統的PERを見ると、両社ともに09/12(09年12月期)以降、〔図表 1〕にあるROEの反転上昇と連動していない。第26回コラムでも述べたように、伝統的PERは「平時体制」でしか機能しない株価指標であって、「戦時体制」になると腰砕けになることがわかる。
首尾一貫しない伝統的PERを駆逐する意気込みを持って、同じく第25回コラムでも紹介したPER-TAKADAを〔図表 3〕に掲げる。
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伝統的PERの〔図表 2〕よりも、PER-TAKADAの〔図表 3〕のほうが、〔図表 1〕で示したROEの業績に連動しているといえるだろう。「平時」だけでなく「戦時」においても安定した推移を示すのが、指標として本来あるべき姿だと筆者は考える。
なお、〔図表 1〕は09/9(09年9月期)が底であるのに対し、〔図表 3〕は08/12(08年12月期)あたりが底になっているのが面白い。第25回コラム(自動車業界編)の〔図表6〕でも、08/12(08年12月期)が底になってそこから反転上昇していた。
株価は、「半年程度先の企業業績を先取りしている」ということだろう。




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