
公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(27)
キヤノン&リコーの来し方行く末
高田直芳
公認会計士
2012/2/24
今回は電子化が進んだとはいえ、いまだに多くの職場で幅を利かせている事務用機器メーカー、キヤノンやリコーに注目する。この両社は、不況の影響をダイレクトに受けており、今後の行く末が大変気になるところだ。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年3月5日)
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いまから15年前、米マイクロソフト社のWindows95が発売された当時、ペーパーレス時代が到来し、コピー用紙など紙への需要が激減するのではないか、と製紙業界を震撼させたことがあった。しかし、実際にはその逆で、コピー用紙の生産が追いつかなくて大変だった、という話を製紙業界の役員から聞いたことがある。
その後、電子認証システムなどが普及し、21世紀になってようやくペーパーレスが定着するのかと思っていたが、そうではないようだ。紙という実物を手に取ってみないことにはわからないことが、いまだに多くある。その典型が新聞だろう。
筆者は日刊紙の有料サイトを利用しているが、「読む」のは専ら紙のほうである。新聞紙のほうには見出しの強弱があって、内容の重要性を一目で判断でき、一面から社会面までの全体を読むのに10分程度で済むのが長所だからだ。
インターネットの画面に映し出される記事は、フォントサイズがどれも同じで、企業業績に関する解説記事と、国会審議や人事異動のベタ記事とが同列に画面表示される。重要な記事を自ら判断してスクロールしていたのでは、朝の忙しい時間帯に10分では到底読み切れない。
一方、企業の内部で作成されるビジネス文書には内容の強弱がないので、画面を一瞥し、あとは認証キーを入力するだけで終わる。むしろ印刷を禁止して、完全ペーパーレス化している企業のほうが多いだろう。
そう思っていろいろな企業を訪ねると、職場の片隅にプリンターとシュレッダーが置かれてあることが多く、ルネッサンスの三大発明(活版印刷・羅針盤・火薬)がいまだに命脈を保っている事実を知る。ちなみに、火薬と羅針盤は第2次世界大戦前後に、原子爆弾と軍事衛星に形を変えた。
活版印刷は20世紀の終わりになってようやく、インターネットに置き換わった。電子書籍が普及し始めれば、歴史の教科書からグーテンベルクの名が消えるのも時間の問題といえるだろう。
低価格プリンターで顧客を囲い
インクで利益を稼ぐ
そこで今回は、電子化が進んだとはいえ、未だに多くの職場で幅を利かせている“活版印刷の副産物”のカラープリンターに注目する。
都心の家電量販店を訪ねれば多数のメーカーを見比べることができるのであろうが、筆者の住む栃木県小山市では、キヤノン、リコー、エプソン、ブラザーあたりが定番だ。そういえば、ヒューレット・パッカードもあった。
カラープリンターには、有名なビジネス-モデルが確立されている。
それは、プリンターという「ハード面」では低価格戦略を採用し、「ソフト面」の消耗品(インクカートリッジ)で利益を稼ぐ、というものである。
キヤノン製のプリンターを買って、インクが切れたからといって、まさかエプソン製のインクカートリッジを買う利用者はいないだろう。最初にハード面で消費者を囲い込み、その後のソフト面で消費者との接点を長く保つことが、企業にとって利益を大きく稼ぐ秘訣である。

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