
公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(27)
キヤノン&リコーの来し方行く末
高田直芳
公認会計士
2012/2/24
今回は電子化が進んだとはいえ、いまだに多くの職場で幅を利かせている事務用機器メーカー、キヤノンやリコーに注目する。この両社は、不況の影響をダイレクトに受けており、今後の行く末が大変気になるところだ。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年3月5日)
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ゲームソフト業界では
リサイクル業者が勝つケースも
先ほどは、インクカートリッジの再利用に関して、メーカー(キヤノン)がリサイクル業者に勝訴した例を挙げた。それとは反対に、メーカー(ゲームソフト制作会社)が、リサイクル業者(中古ソフト販売業者)に敗訴した例がある。
その裁判の争点は、中古ソフト販売業者が、ゲームソフト制作会社の許可なく中古ソフトを販売できるかにあった。「ソフト面」同士の対決である。
ゲームソフト制作会社側の主張は「中古ソフトの流通経路があるために、新作のゲームソフトが売れなくなる」というものだ。「ゲームソフト」の部分を、「インクカートリッジ」に置き換えれば、似たような主張になる。
これに関して最高裁は2002年4月に、中古ソフト販売業者に軍配を上げた。インクカートリッジとゲームソフトで相反する判決になったのは、前者が特許権で、後者が著作権だからだ、というのではもちろんない。単純なリサイクルの問題でもない。
ゲームソフトの場合は、中古ソフトの流通経路があることによって、むしろ新作ソフトの販売増にも結びつく、という判断が働いたためだ。インクカートリッジとは異なる視点である。
近年、ゲームソフトや音楽CDが販売不振に陥っているのは、中古ソフトのせいではなく、違法な海賊版が出回っていることによる。
そこでゲームソフト業界では、ゲーム自体を無料とし、ゲーム内のアイテムに課金する仕組みが定着してきている。これはゲームソフトを「ハード面」とみなし、アイテムを「ソフト面」と位置づけることによって、利用者との接点を長く保つアイテムのほうで利ザヤを確保しようとする経営戦略の現われだ。
また、音楽産業が辛うじてその市場規模を維持しているのは、レコチョク(旧レーベルモバイル)などの音楽配信会社が、携帯電話という末端で、需要を「広く薄く」掘り起こしているからにほかならない。
さて、インクカートリッジについては、利用者の掘り起こしというよりも、リサイクル業者を排除することによって、メーカーの利益が温存される体勢が整った。それにしては、事務機器メーカーの業績はいま一つパッとしない。
キヤノンの御手洗会長はまもなく、日本経団連の会長職を退く。財界総理というゲタを脱いで、キヤノンの業績が再び下方へ屈曲することはないのか。そもそも、ペーパーレス時代における事務機器はどのようなビジネスモデルを確立すべきなのだろうか。
そうした投資家の不安を払拭する意味でもなかろうが、キヤノンは10年2月末に経営方針説明会を開催した。今後、カメラや事務機など既存事業の拡大に加え、医療など新規事業の育成に注力し、売上高は15年12月期に5兆円、自己資本比率75%以上を目指すという。
過去最高の業績を上げた07年12月期を基準にすると、今回の経営方針は迫力に欠ける気がする。本コラムで再び取り上げるほどの、瞠目すべき業績伸張に期待したいものである。
筆者プロフィール
高田 直芳(たかだ なおよし)
公認会計士、公認会計士試験委員/原価計算&管理会計論担当
1959年生まれ。栃木県在住。都市銀行勤務を経て92年に公認会計士2次試験合格。09年12月より公認会計士試験委員(原価計算&管理会計論担当)。「高田直芳の実践会計講座」シリーズをはじめ、経営分析や管理会計に関する著書多数。ホームページ「会計雑学講座」では原価計算ソフトの無償公開を行う。

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