「勝ち目がないと判断」
“西田節”で振り返る、東芝HD DVDの「終息」
2008/02/19
東芝は2月19日、次世代DVD規格のHD DVD事業を取りやめると発表した。HD DVDプレーヤー、レコーダー、PCとゲーム機向けのHD DVDドライブの開発、生産を全世界で中止。出荷、販売も縮小し、3月末をめどに同社のHD DVD事業を「終息する」という。東芝の代表取締役社長 西田厚聡氏が同日夕方に東京・芝浦の同社本社で会見した。「選択と集中」の徹底で評価が高まっている西田氏の言葉を中心に伝える。
西田氏は、「HD DVDについては年初来の事業環境の急変を受けて、当社としても1日も早い意思決定が不可欠な状況だった」と説明した。年初来の事業変化とはこれまでHD DVDを支持していた米ワーナー・ブラザースの方針転換。西田氏は「当社とは91年に資本提携を行い、以来、大変緊密な関係にあり、HD DVDサポートの契約関係にあったワーナーブラザースから突然の方針変更が伝えられ、大変残念ながら市場における競争環境が大きく変更した」と悔しさをにじませた。
西田氏はワーナーの変心を「寝耳に水だった。油断といえば油断」と表現。「技術的にもコスト、利便性でも、HD DVDの優位性自体は、今日も変わっていない」と強調しながらも、「ワーナーなき後を考えると、当社がこれにスティック(固執)してほそぼそながら事業を続けるのは、消費者に迷惑をかけ、さらに競争の観点からも勝ち目がないと判断した」という。さらに「私は事業経営は状況の関数であり、状況の変化には軽便に応変していくべきと考える。これまでHD-DVDを愛用してくださったお客様やパートナー企業のことを考えると苦渋の決断だった」と語った。
東芝はHD DVD事業の撤退に伴い、既存のHD DVDプレーヤー、レコーダーのユーザーに対してのサポートを強化する。1つ目はコールセンターの強化。既存の「東芝HD DVDインフォメーションセンター」の態勢を整える。2つ目は修理、アフターサービスの対応で、製品の製造終了後8年間は補修用部品を保管し、サポートとアフターサービスを継続する。3つ目はHD DVDの記録用メディア。東芝自体は記録用メディアを販売していないが、顧客が今後も一定期間記録メディアを入手できるように、ディスクメーカーと協議するという。記録用メディアを東芝がオンラインで販売することも検討する。海外顧客のサポートについても「個々の地域の状況に応じて国内に準じたユーザー対応をする」という。
HD DVD事業を終息させた後、東芝はどうするのか。西田氏は「現時点で、ブルーレイディスクをベースにしたプレーヤー、レコーダーをわれわれが生産、販売する計画はまったくない」と断言。「今後当社としては現行のDVD事業、レコーダー事業を従来どおり継続し、本格的な到来が間近なデジタルコンバージェンス時代に適した次世代映像事業に向けて、半導体、小型HDDなどのストレージ、画像処理技術、ワイヤレス技術、暗号処理技術など、当社の強みを生かした中長期的な戦略を構築する」と語った。
東芝は「選択と集中」を物語るように、三重県四日市市と岩手県北上市にNAND型フラッシュメモリの新製造棟を建設すると同時に発表した。協業する米サンディスクが協力。投資額は2棟合わせて1兆7000億円。NAND型フラッシュメモリに代わる次世代メモリの生産拠点としても活用する方針。西田氏は「本日は、さらなる前進を図る事業と、歩みを止めて再構築すべき事業を説明した。事業の集中と選択という性格の異なる意思決定であるが、いずれのビジネスでも環境の変化をいち早く捉え、先手を打って対応することが不可欠との認識で決断した」と語った。
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