無償で公開し、有償でサポート
国産ソフトのオープンソース化が増加、「いじりたい」に応える
2008/03/11
国産ソフトウェアのオープンソース化が増えている。ソフトウェア企業にとってソースコードは最重要機密のはず。そのソースコードを公開する背景にはどのような考えがあるのか。
ソフトウェア会社のエイムラックは3月4日、2004年11月から販売してきたグループウェアパッケージ「アイポ」の最新版「アイポ4」をGPLに基づくオープンソースソフトウェアとして公開した。ユーザーは無償で利用できる。エイムラックは「OSS化することで、利用が促進され、広く使ってもらえることを期待している」と理由を説明した。さらに「ユーザーからはアイポを自社の業務に合わせていじりたいという声があった」としてユーザーのカスタマイズニーズがOSS化の背景にあったと話した。
OSSを選択するソフトウェア企業は、サポートビジネスを新たな収益源とするケースが多い。エイムラックも同じ。テクニカルサポートやアップデートサポートが利用できる「年間サポートライセンス」を用意し、販売している。アイポ4自体の導入は無償で可能だが、サポートを受けたい企業などに販売する。価格は50ユーザーで12万円など。ほかにアイポを組み込んだソフトウェアを開発するベンダ向けに、ソースコードの公開義務がない商用ライセンス版も用意している。
有償の年間サポートライセンスを用意するとはいえ、ライセンスを無償にすることで売り上げの減少が心配される。同社も「大きな決断だった」と話す。しかし、OSS化で「売り上げの減少よりも、アイポが広がることでユーザーや開発者のいろいろな声を聞くことができるようになる」(同社)ことをメリットとして捉えた。アイポについては開発コミュニティ も立ち上がっていて、同社は「結果的には大きなデメリットはないと思う」としている。
ユーザーの注目を集めるOSS化
サイオステクノロジーもWebに対応したオープンソースのプロジェクト管理ソフトウェア「ProjectKeeper」を開発し、2007年7月にベータ版を公開した。その後、9月に正式版(無償)を公開し、同時に有償のサポートサービスの提供も始めた。2008年1月には同ソフトウェアをベースにした有償製品「ProjectKeeper Professional」を発表した。サイオスはOSSでの公開について、「実際に使用したユーザーの声を収集、反映して、よりよい製品作りに生かす」と説明。オープンソース版はすでに1万5000件のダウンロード件数があり、同社は「大変反響があった」とOSS化のメリットを強調する。
ソフトウェアをオープンソース化することで、ユーザーの注目を集める面は確かにある。ライブドアはRSSリーダー「livedoor Reader」の英語版「Fastladder」のオープンソース版を2月に発表した。オープンソース版はサーバインストール型のソフトウェア。ライブドアの担当者はITmediaの記事でOSS化の理由を「とにかく目立ちたい」と語っている。OSS化はユーザーの耳目を引き、早期にソフトウェアを普及させるための1つの手法と認識されている。
「先が見えにくい」面も
ソフトウェアの開発当初からOSSを選ぶ例もある。京都大学発のベンチャー企業、日本情報化農業研究所はオープンソースのCMSソフトウェア「SOY CMS」を3月17日に提供開始する。ライセンスはOSSのGPLと有償の商用ライセンスの2つ。有償のサポートサービスを提供し、収益を得る。商用ライセンスにはサポートが付く。
同社代表取締役の古莊貴司氏は「後続商品なので、利用のすそ野を広げたい」という理由のほかに、「SOY CMSが開発基盤として発展することを狙っている」とOSS化の理由を話す。SOY CMSはコンテンツとデザインのそれぞれの独立性を高め、CMSテンプレートを編集しやすくした。テンプレート形式はほぼHTMLで、デザイン会社などが自社でSOY CMS対応のテンプレートを開発しやすくしたのが最大の特徴だ。古莊氏は「SOY CMSが利用されるのは中小規模の企業が中心。中小規模の制作会社にも使ってもらえるよう無償で提供する」と語る。
同社は開発仕様も公開し、開発コミュニティによるSOY CMSのプラグイン開発などを促進するとしているが、コミュニティが発展するかや収益モデルが期待通りに機能するかは未知数で、古莊氏も「先が見えにくい」と語る。
ソフトウェア業界はOSSのほかにSaaSという大波をかぶっている。いずれもユーザーのニーズが後押ししている。OSSやSaaSの魅力を知ったユーザーは従来のような閉鎖的なソフトウェアビジネスをもう望まない。これまで商用ライセンスを展開してきたソフトウェア企業にとっては、従来のビジネスといかに折り合いをつけて新しい波に乗るかが鍵。新たにビジネスを起こす企業にとっては、OSSに基づくソフトウェア開発は、ユーザーの注目を集め、開発コミュニティを発展させるための有力な選択肢だろう。
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