自社ブランド「QSSCサーバ」でクアンタコンピュータ

x86サーバ市場でODM最大手が日本市場に本格参入

2008/04/16

 ノートPC市場を台湾メーカーが席巻したのと似たことが、サーバ市場でも起こる可能性がある。

 米DisplaySearchによる2007年第4四半期のノートPCの出荷台数シェアレポートでは、シェア1位はヒューレット・パッカード(HP)で市場の20.1%を占める。以下、エイサー(15.9%)、デル(14.0%)、東芝(8.6%)が続く。

 出荷台数ではなく“生産台数”で見てみると、まったく異なる勢力図が見えてくる。世界第1位の座にあるのは、HPでもエイサーでもなく、台湾に本社を置くクアンタコンピュータ(QuantaComputer)だ。

 クアンタコンピュータは2006年の実績ベースで、世界のノートPCの40%(2500万台)を製造する世界最大のノートPC製造メーカーだ。クアンタコンピュータの顧客メーカーには、IBM、HP、デル、サン・マイクロシステムズ、富士通シーメンス、インテル、ソニー、日立、グーグルなどが含まれ、ノートPCやデスクトップ、サーバ製品をOEM/ODMで提供している。話題となった100ドルPCの製造も行っている。同社の2006年の売り上げは4615億NTD(約1兆6000億円)にもおよび、Fortune Global 500のコンピュータ関連部門で9位にランクされている。

 OEMによる委託生産だけでなく、設計も含めて発注元から請け負うODM(Original Design Manufacturing)として、アサステック(Asustek)、ウィンストン(Winston)、コンパル・エレクトロニクス(Compel Electoronics)など、ほかの台湾のODMメーカーとともに、クアンタコンピュータは世界のノートPC市場を席巻している。調査会社、iSuppliのレポートによれば、2006年に出荷されたノートPCのうち、実に83.9%をODMメーカーが製造しているという。

ODMメーカーはサーバ市場によりフォーカス

 ノートPC製造におけるパーツのモジュール化と標準化が進んだことと、台湾ODMメーカーによる市場の独占が進んだことで収益構造が悪化。iSuppliのアナリスト、ジェフリー・ウー氏は先に引用したレポートの中で、ODMメーカーは利益率の高いサーバ市場にフォーカスしてくるのではないかと予測している。サーバ市場でのODMメーカーのシェアは2006年で55%と低い。今後、仮想化関連技術やブレードサーバの普及などで需要が高まる低廉なx86サーバの市場にODMメーカーが注力してくる可能性が高い。

 すでに大手ベンダにサーバ製品をOEM/ODMで提供しているクアンタコンピュータだが、2006年には自社ブランドを掲げてPCサーバ市場に静かに参入を果たしている。サーバ製品ブランド「QSSC」(Quanta Server Strategic Coalition)のもと、1U〜7Uのラックマウントおよびブレードサーバ製品、Xeonプロセッサ向けマザーボード、1Gbps/10Gbpsレイヤ3スイッチなどをリリースしている。製品の生産は、同社のほかの製品ラインナップ同様に上海の「QSMC」(Quanta Shanghai Manufacturing City)で行う。QSMCは1キロ四方の敷地を占める工場群と、それに隣接する十数の居住棟からなる一大生産拠点だ。

クアンタコンピュータが自社ブランドで日本上陸

 QSSCサーバの販売数はまだ大きくないが、2007年9月には日本市場にも上陸している。

 日本総代理店となる日本ネットワークストレージラボラトリ(JNSL)は2008年4月16日、クアンタコンピュータと都内で共同会見を開き、サーバとイーサネットスイッチの国内販売を本格化すると発表した。JNSL代表取締役社長の宮坂新也氏は、同社が展開する国内業務について「いわゆる総代理店の機能はなく、むしろ企業の企画戦略室に近い。他社とアライアンスを組んで高度なサービスを提供していきたい」(宮坂氏)と話す。JNSLは自社販売も行うが、「技術力のある販売パートナーやシステムインテグレータと組んでいきたい」(宮坂氏)としており、現在、日本ソルテック、ぷらっとホーム、エーティーワークス、ニューテックなどが販売パートナーとなっている。国内市場での販売目標は初年度5000台、今後3年間で3万台。

qssc01.jpg 共同記者会見を開いた日本ネットワークストレージラボラトリ代表取締役社長の宮坂新也氏(左)と、クアンタコンピュータ シニアディレクター兼QSSC担当総責任者のジェーソン・ファン氏(右)

 製品自体は大手ベンダへ提供しているものと同等の品質と性能を持つが、まだブランドの認知度は低い。今後は「大手のミドルレンジの価格帯で、弊社のハイエンドサーバが買える」(宮本氏)というコストメリットで訴求していきたい考えだ。「基幹系は大手ベンダ製品で、それ以外は弊社製品でというように、コスト的に上から下まで大手ベンダ製品で統一できない場合などに採用していただけるのではないか」(同)。まだ多くのサーバで一般的でない「KVM over IP」チップを全モデルで搭載するなど実用的な機能も盛り込んだ。KMV over IPにより、リモート環境でOSのインストールやパッチ当て作業が可能となる。KMV over IPチップは自社開発だ。

 サポート体制も整えた。JNSLは各モデルに対して3年間継続販売と、販売終了後の5年間の保守、QSSCサポートセンターにおける24時間365日のオンサイト保守、製品購入後のCPUアップグレードサービスなどを提供する。ワールドワイドでは450人の開発エンジニアと800人以上のデザイン製造、RMAエンジニアが障害対策に対応するという。

qssc02.jpg 左からイーサネットスイッチ、1Uサーバ、2Uサーバ

ODMベンダの自社ブランド展開は根付くか

 ODMベンダの自社ブランド展開はコンシューマー市場では必ずしも成功していない。この意味でエンタープライズ製品でのODM大手の参入は注目だ。「日本で成功すればグローバルにも展開しやすい」(宮本氏)と、真っ先に日本市場での販売を本格化した同社だが、保守的な日本市場で受け入れられるだろうか。

 ラックマウントサーバ市場では、かつて1990年代にコンシューマ向けPC市場で流行したのと同様にホワイトボックスの利用も多い。データセンター構築を行う技術者やホスティング事業者などは、技術力が高く、ブランドへの盲目的な信頼はないだろう。そうであればコモディティ化しつつあるx86サーバにおいても、台湾・中国のODMベンダの自社ブランドには価格や開発力の点で競争力は十分あると考えられる。国内サポート体制の充実度や、日本語による製品情報の提供、販売パートナーの拡充が鍵になりそうだ。

 ODMベンダから見たときに競合であり顧客でもある大手ベンダと、今後どう市場で棲み分けていくのか、また顧客の選択がどう変わっていくかが注目される。

(@IT 西村賢)

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