マルチプロセッサ環境を生かしメインフレーム並みの高速処理
東証が基幹システムにLinuxを採用した理由
2008/05/27
情報処理推進機構(IPA)は5月27日、28日にかけて、各事業の成果を紹介するイベント「IPAX2008」を都内で開催している。この中で、東京証券取引所のIT開発部売買システム部長 広瀬雅行氏が、東証の基幹システムの1つである「派生売買システム」におけるLinux導入の経緯について講演した。
東証では、メインフレームとPL/Iの組み合わせで1980年代に構築した売買システムを刷新し、Linuxをプラットフォームとした派生売買システムに移行、2008年1月より運用を開始している。OSにはRed Hat Enterprise Linuxを採用しており、システム開発は富士通が行った。
「(東証は)これまでITシステムに関しては慎重で、『ファーストユーザーにはならない』というポリシーだった」と広瀬氏。しかし、レガシーシステムの行き詰まりやシステム維持・管理コストの削減といった背景から、Linuxをベースとしたオープンシステムを採用するに至った。
「現在ではハードウェアの進化により、CPU単体での性能向上に加え、マルチコアなども登場している。しかし、ベースとなるアプリケーションは、昔のシングルプロセッサでのアーキテクチャを前提としていたため、マルチコアを活用したスケールアップが容易に行えなかった」(広瀬氏)。メインフレームのシェア低下にともなうサポート体制への不安や2007年問題に代表される技術者の減少といった要因もあったという。
東証ではシステムリプレースに当たって、いくつかの要件を設定した。その1つが、メインフレーム並みの高可用性や信頼性を実現することだ。
例えば、障害回復については、30秒以内のフェイルオーバーを行うこととした。それも「注文、約定などすべての取り引きをコミット完了済みの状態で戻す、完全保証を前提とした」(広瀬氏)。ほかにも、ログやダンプの取得による高いトレーサビリティの確保、復旧が不可能な場合の障害局所化など、さまざまな側面から高い信頼性・可用性を実現するものとした。
ちなみに、新しい派生売買システムでは2月にトラブルが発生し、TOPIX先物取引の一部が売買停止となる事態となった。だがこれも「ロールバックが困難であると判断し、フェイルセーフとして(提供するサービスを一部絞り込む)縮退処理を行ったもの」(広瀬氏)だという。
同時に、新システムでは、マルチプロセッサ環境でメインフレーム並みの高速処理が行えることも評価ポイントの1つとした。
こうした要件で提案を募った結果、富士通が提案してきた、Linuxを搭載したオープンシステムを採用することになった。最もよくコスト削減を実現できたことに加え、メインフレーム並みのフェイルオーバー/フェイルセーフ/障害時のトレース機能、冗長化による耐障害性の向上などが評価された結果という。また、ディストリビューターやコミュニティを含んだサポート体制なども採用を後押ししたという。
「メインフレームと比較し、コストや機能要件、さらに信頼性や可用性と言った非機能要件を含めて考えても、Linuxはミッションクリティカル分野に十分適用できる」(広瀬氏)。障害時のトレーサビリティに関しては「メインフレームに慣れ親しんだわれわれにとっても違和感がないものだった」(同氏)というし、CPUやメモリ増設によるスケールアップ、筐体追加によるスケールアウトの両方が可能になった点もメリットという。
東証では、現在開発中の次世代システムでも、同様にLinuxを採用しているという。
ただし、運用管理や通信制御などを行うミドルウェア、検証ツールなどのユーティリティやテープ装置をはじめとする周辺機器などに関して、さらなる改善が望まれるという。「検証ツールひとつとっても、アプリケーションとして開発しなければならなかったり、ハイエンドサーバに搭載されたLinuxと親和性のあるテープ装置製品が少ないという課題に直面した」(同氏)といい、この面での成熟に期待したいという。
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