東京都北区が採用

日本初の「ミューチップ」図書館、50冊を3秒で読み取り可能に

2008/06/26

 東京都北区は、日立製作所の無線ICタグ「ミューチップ」を蔵書管理に活用した「北区立中央図書館」(赤レンガ図書館)を6月28日に開館する。ミューチップを採用した公立図書館は日本で初めてといい、蔵書点検が大きく効率化されるとしている。

 開館する中央図書館は陸上自衛隊が管理していた戦前の東京砲兵工廠銃包製造所の「赤レンガ倉庫」を活用した建物で、今年3月30日に閉館した旧中央図書館が移転した。3階建てで延床面積は6165平方メートル。30万冊の蔵書があり、10年後には50万冊まで増やす予定という。

ic01.jpg 6月28日にオープンする「北区立中央図書館」(赤レンガ図書館)
ic02.jpg 図書館内部。開館時には約30万冊の蔵書

 ミューチップを採用した理由は「利用者ができるだけ長く図書館のサービスを使えるようにすること」と、北区立中央図書館 図書主査 新中央図書館担当の小野克巳氏は説明する。中央図書館の情報システムは2006年春から検討を始め、「ICタグでいかに効果を出すかを考えた」という。小野氏らが考えたICタグを図書館で使う上でのメリットは3つ。「自動貸出機の実現」「蔵書点検の効率化」「持ち出しの防止」だ。中央図書館は結果的にこの3つをすべて実現した。

 このうちで小野氏らが最重要と考えたのは、蔵書点検の効率化だった。北区には中央図書館を含めて14の区立図書館がある。中央図書館以外の地域の図書館はそれぞれ6〜10万冊の蔵書があるが、いずれも年に1回休館して蔵書の棚卸しを行っている。図書館の担当者がバーコードリーダを持って書籍の情報を1冊ずつ読み取り、データベースのリストと突き合わせる作業で、3〜4日かかるのが普通。書籍を本棚から出してバーコードを読み取る作業が必要で、「もっとも熟練した職員でも1時間当たり600〜1000冊の読み取りが限界」という。

 この蔵書点検がミューチップの採用で大幅に効率化することを北区は期待している。非接触で情報を読み取れるため、書籍を本棚に収めたまま、リーダを移動させて、かざすだけでOK。小野氏によると図書館の本棚は横幅90センチが一般的といい、50冊弱を並べることができる。ミューチップのリーダを使えばこの50冊弱を3秒で読み取り可能。最大で1時間当たり1万4000冊を読み取ることができるという。

ic03.jpg リーダによるミューチップ入り書籍の読み取り。肩掛けかばんにはミニノートPCが入っていて情報を記録する

 ICタグを採用した図書館はすでに国内に多くあるが、大半は13.56MHzのICタグを使っている。日立によると2.45GHzのミューチップと比べて、13.56MHzのICタグは電波の到達距離が短く、書籍の情報を読み取る場合はリーダをアンテナのごく近くにかざす必要があるという。日立は13.56MHzのICタグの場合、1時間当たりの読み取り速度は約3000冊としている。

 ICタグを使った蔵書点検で心配されるのは、読み取りの漏れだ。年に1回の蔵書点検で読み取り漏れが発生すると、その蔵書は1年間管理されないことになり、利用者に迷惑をかける。実はミューチップを使った蔵書点検でも読み取り漏れは起きる。50冊を読み取った場合、1〜2冊は漏れてしまうという。蔵書管理にとっては重要な問題のはずだが、小野氏らは「どのような仕組みを設けても漏れは起きる」と割り切った。

 その代わりに年に1度の蔵書点検をあらためて、「日常のルーチンワークの中に蔵書点検を入れるようにする」という。開館前などに短時間の蔵書点検を日々繰り返して行うようにし、漏れをカバーする。蔵書点検をスピーディに行うことができるミューチップならではの作業フローといえるだろう。

ic04.jpg ミューチップを利用した自動貸出機。書籍は10冊まで、CDは5冊まで対応する。図書館の利用カードは従来通りのバーコード式
ic05.jpg 書籍を検索したり、予約情報を確かめることができる情報端末。書籍をかざすと紹介文が自動で表示される

 今回採用したタグ製品は、日立と住友スリーエムが共同開発したコンビタグ。2.5ミリ幅の両面テープ上のタグ製品で、ミューチップと、持ち出し防止に使える磁気の感知マーカーを実装している。中央図書館の入り口にはこの感知マーカーを検知するゲートが設置されていて、貸し出し前の書籍の持ち出しをチェックできるようになっている。コンビタグは書籍のページ間に外から見えないように貼付する。コンビタグの価格は70〜90円で、13.56MHzのICタグに比べると20円程度、低価格という。北区では年間6万冊の書籍を購入していて、「この価格差は後々大きく影響してくる」(小野氏)と見ている。

ic06.jpg コンビタグを貼付した書籍。背表紙に近いところにのり付けしてある
ic07.jpg コンビタグ。上部の白っぽいところにミューチップがあり、下部は感知マーカー

 図書館の業務システムは日立が担当したが、インフラの通信基盤はNTT東日本が構築した。図書館内で利用する機器のリースはまた別の企業が担当するなど、契約をそれぞれ分けた。小野氏は一式契約にしなかったことで「各社に緊張感をもってもらえた」と話す。システム開発は2007年5月に開始し、今年5月にデータベースなどを刷新。6月初めには図書館の全システムを停止し、新しいシステムに切り替えた。小野氏は「リスキーな面もあったが、何としても成功させるとの思いで各社がバックアップ体制をとってくれた」と話した。

ic08.jpg 開館記念の顔ハメ

(@IT 垣内郁栄)

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