ICT産業のリーダーは入れ替わり?
未上場Web2.0企業に十分な投資、JVRの調査で明らかに
2008/08/01
未公開のWeb2.0系企業は十分な資金調達ができており、企業価値向上の面でも高い成長性を示している――。2006年8月に設立されたNPO法人、「Japan Venture Research」(JVR)と富士通総研が2008年7月31日に共同で発表したデータから、これまで知られていなかった日本のWeb2.0系ベンチャーの姿が見えてきた。
成長型ベンチャー企業は、成長の各段階でベンチャーキャピタルや事業会社から増資を受けてIPOを目指すが、IPO以前の資金調達の実態について、これまで包括的な統計データが存在しなかった。JVRは、ベンチャー企業の資本政策情報をデータベース化して大学や研究機関、シンクタンク、ベンチャーキャピタル業界、ベンチャー起業家への情報サービスを行うことを目的に設立。これまで2007年8月にIPOを果たしたWeb2.0系ベンチャー企業について分析データを発表しているが(日本のIT大手はWeb2.0に興味なし、調査で浮き彫り)、今回の調査は未公開企業を対象とした。
著しい成長性を実証的データで確認
調査対象としたのは43社。まず、増資情報がパブリックになっているインターネット系ベンチャー156社をリストアップし、この中から「ユーザー参加を促すことで企業の価値を向上させているICT企業、そのためのアプリケーション開発、技術開発を行っているICT企業」という定義に当てはまる85社を選定。この中でCEOに聞き取り調査や公開情報の収集を行い、情報を得られたのが43社だ(ALBERT、Any、ClubT、Eat Smart、HOWS、QLife、TORICO、WillVii 、waja、more communication、アイスタイル、イー・旅ネット・ドット・コム、イー・ガーディアン、イー・クラシス、イーファクター、イメージ・マジック、インタースパイア、ウェブリオ、ウノウ、エニグモ、エフルート、エンターモーション、オンボード、関心空間、ケイビーエムジェイ、ケイタイ広告、コネクティ、ジェイマジック、シリウステクノロジーズ、シンクー、スプリューム、セールスフォース・ドットコム、トロイカ、ニューズ・ツー・ユー、ネットマーケティング、ハー・ストーリィ、ブルータグ、マグスル、マイネット・ジャパン、学びing 、モバイルファクトリー、モンスターラボ、リアルコミュニケーションズ)。
実際にCEOを訪ね歩いたJVR代表理事の北村彰氏は、「未公開企業の資金調達の実際のところを可視化したことに意味がある」と、今回の調査の意義を語る。
調査から、これら未上場のWeb2.0企業は設立後3.3年で平均2億2400万円の調達に成功していることが明らかになった。これは前回の調査で判明した、IPOを果たしたWeb2.0企業の設立後3年における平均資金調達額の1億8500万円よりもむしろ多い。ベンチャーキャピタル、事業会社ともにWeb2.0系未公開企業の成長ポテンシャルを積極的に評価していることが分かる。
43社合計の企業価値は約486億円にのぼり、平均企業価値は7億円となっている。これもIPOに成功した企業の3年目の企業価値6億3600万円を上回る。
期別に推移を見ると、3年間で従業員数は6倍に増加、売上高は15倍近くに増加しており、急激な規模拡大がうかがえる。
分析対象企業のうち8割は黒字化できておらず、平均を取ると一貫して赤字だ。ただ、「公開企業や成熟した企業と異なり、たとえ赤字でも投資が続き、製品・サービスの開発や増員が続けられる限り規模を拡大するほうがいい」(北村氏)という見方もある。近視眼的な黒字化戦略は成長に歯止めをかけることになりかねない。一方、黒字化の見通しがある限り、投資を続けて事業規模を大きくするほうが雇用創出や新しい市場、価値創造という意味で社会的な意義が大きいからだ。
調査レポートではこのほか、創業から「製品開発期→ベータ版完成期→製品出荷期→黒字転換期→リスタート期」と成長ステージを分けた分析も行っている。今回調査対象となった43社の中でも、期ごとに順調にステージアップを果たしている企業群ほど売り上げも企業価値も高い傾向が認められた。調査データの分析を行った富士通総研 経済研究所上級研究員 湯川抗氏は「設立後の経過年数よりも、年を重ねるごとにステージを向上させているかどうかが重要」と指摘する。
代表者の経歴を見ると、前職として多いのは「インターネット企業」(51%)、「大企業」(17%)、「コンサルタント」(10%)、「学生」(10%)、「IT関連企業」(7%)となっており、「いろいろな経験を積んで、経営とは何か、ITとは何かを理解している人が多い」(湯川氏)。会社設立時の年齢は30代が全体の約半数の51%と最も多く、20代(29%)、40代(15%)、50代以上(5%)と続く。
大手ICTベンダは、もはやリーダーではない
調査対象となった企業に投資をしているのは大手ベンチャーキャピタルや、上場を果たした新興インターネット企業、総合商社などが中心だ。逆に、NEC、富士通、日立、NTTデータなど大手ICTベンダの名は1つもない。
こうした傾向について北村氏と湯川氏は次のように指摘する。
「NECや富士通はオフコン時代に、オフコン用のソリューションを自分たちで作らなかった。それよりもよそから買ってくるとか、小さな会社を自分たちのグループ会社にしてしまうということを盛んにやっていた」(北村氏)。
大手ICTベンダも、かつてはベンチャーを活用していたという指摘だ。いま米国でグーグルやヤフー、マイクロソフトがベンチャーの製品や企業自体を買収しているのと同じことだ。
「ところがインターネット時代となると、とたんに日本の大手ICTベンダは投資をしなくなっている。もしこの先、ICT産業がインターネットビジネス主導になっていくのだとしたら、日本のICT産業の担い手自体が変化していくということではないか。楽天かもしれないし、サイバーエージェントかもしれない。こうした企業がICTを結果的に牽引していくことになりえる。既存の大手ICTベンダは、成長力のあるベンチャー企業とあまりにも関わりを持たなさすぎる」(湯川氏)。
「大企業はWeb2.0を活用していない。もはやWebといえばユーザー参加型などWeb2.0が常識。化粧品を売るにしろ、不動産情報を扱うにしろ、、Webサービスを設計するなら参加型にするはずだ。ところが一部上場企業は、そういう領域に入ってきていない。もっとWeb2.0ベンチャーに投資をして利用してもいいのではないか」
「ベンチャーはベンチャー、大企業は大企業で、それぞれ得意なことをやればいい。例えばネットリサーチ事業のマクロミルが伸びているのは電通や博報堂関連の仕事が増えているからだ。大企業とベンチャーが互いにコラボレーションをしている。そういうベンチャーとの共存の仕方にICT系の大企業は目を向けていかないと産業が活性化してこない」
「新興インターネット企業が財テク的にベンチャー投資している側面はある。それを悪くいう人もいる。しかし結果的に見ればに経済的にも社会的にも大きな影響を与えている。たった3年で企業価値を15億円にできる起業家が日本にどれだけいるかということです。彼らの投資がなければWeb2.0系ベンチャーも生まれなかったかもしれないわけです」(北村氏)。
「インターネット全体が成長領域。SI事業はコモディティ化していて、後はリストラやコストカットでやっていくだけという世界。それなのに成長領域に対してICT大手はチャレンジできていない」(湯川氏)
「日本には増資を受けるベンチャー企業が年に数百社はある。こうしたベンチャーで若い人たちが安心して働ける環境を作っていくことも課題だ。保険や年金の問題で不安があるので、頭のいい人は大企業に行く。あるいは税制優遇などでも政策上やるべきことはたくさんある」(北村氏)
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