磁界の共振現象を利用

2m離れて60Wの電力伝送、インテルがIDFでデモ

2008/08/22

 米インテルのジャスティン・ラトナーCTO(最高技術責任者)は8月21日、サンフランシスコで開催中のイベント「2008 Intel Developer Forum」(IDF)の基調講演で、同社が取り組んでいるワイヤレス充電技術「Wireless Resonant Energy Link」(WREL)に関するデモンストレーションや、用途によって形状を変えるデバイス、ロボット技術など、現在同社が開発中の技術や未来の技術について語った。

 インテルのブログサイトに8月21日に投稿されたエントリによれば、ラトナーCTOはノートPCを稼働させるのに十分な60ワットの電力をワイヤレスで伝送するデモンストレーションを行った。円形状に巻いたコイルを2つ用意し、一方から他方へ電力を送って60ワットの電球を点灯させてみせた。ラトナーCTOが2つのコイルの距離を離すに従って暗くなり、20〜30センチ前後に接近させると再び明るくなるというものだった。

intel01.png インテルのブログサイトにアップロードされたワイヤレス電力伝送のデモンストレーション映像。電球が付いているコイルには、電源やコードが何も付いていない。

 WRELは、マサチューセッツ工科大学(MIT)のマリン・ソウルヤチーチ(Marin Soljacic)教授が2006年に発表し、2007年に電球を灯すデモンストレーションで実用への可能性を示した研究を元にしているという。

 従来、ワイヤレスで電力を送る方法としては、電磁誘導による方式と、周波数の高い電磁波を使う方式が知られていた。

 電磁誘導方式は、変圧器や電動歯ブラシの充電器など水回りで使う家電で実用化されている。2つのコイルを近接させて電力を送るため、この方式では距離を広げることができない。一方、電磁波を使う方式は信号伝送には向いていても、全方向に照射されるためエネルギーの伝送効率が悪い。逆に指向性を高めると、場所が固定されたデバイス以外で利用しづらいという課題があった。また、高出力では人体への影響が大きく、汎用技術としては使えない。

 これに対してソウルヤチーチ教授が考えたのは電磁波を使わず、数MHzオーダーで振動する磁界の共振現象を用いるというアイデア。2007年6月付けのMITの発表文によれば、ちょうどブランコと同じ周期で足を振ることによって、乗り手がブランコに対して効率的にエネルギーを伝えられるのと同様の原理という。特定の周波数に対して敏感に反応する物体を用いることで、周囲のほかの物体に影響したり、影響されたりすることなく、効率的にエネルギーを伝えられるという。

 ソウルヤチーチ教授のこの方式を使えば、携帯電話やノートPCなど、部屋の中のどこにいても充電できるデバイスを実現できる可能性があるという。エネルギーを受け取るデバイスがない状態では、電力ロスがほとんどないのも特徴。

 古くから知られている物理現象であるのに、なぜ今まで誰も磁界の共振を電力送信に用いることを思い付かなかったのかという問いに対して、共同研究者の1人、ジョン・ジョアノポロス(John Joannopoulos)教授はMITの発表文の中で、「過去には、こうしたシステムに対する強い需要がなかったので、誰も関心を払うほど強い動機がなかったのだ」と指摘。ノートPCや携帯電話やiPod、家庭用ロボットが広まったおかげで、それらの充電問題が注目されるようになったのだろうとしている。

(@IT 西村賢)

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