変わるインターネットのトラフィック構成
“帯域食い”はP2Pから動画サービスに?
2008/09/22
「主役は交代しつつある。ISPにとって頭痛の種は、もはやP2Pではなく、インタラクティブな動画サービスではないか」。こう主張してインターネットのトラフィック増加パターンの変化に警鐘を鳴らすのは東京大学大学院情報理工学系研究科 教授でWIDEプロジェクトのボードメンバーでもある江崎浩氏だ。9月22日に開かれたNPO法人ブロードバンド・アソシエーションのシンポジウム「インターネットのP2Pに関連する技術・社会的諸問題を考える」で講演を行った。
江崎氏によれば、日本のインターネットトラフィックには2004年以降、顕著な変化が見られる。2004年に上り、下りでほぼ対称だったトラフィックは、この年を境にダウンロードの伸びがアップロードを引き離していく。
江崎氏らは毎年2回、ビッグローブをはじめとする大手ISPなどからトラフィック状況のデータを受け取り、解析している。その結果によれば、現在インターネットのダウンロード側のトラフィックは879.6Gbps、逆にアップロード側は631.5Gbps。2004年の時点では、これらはともに100Gbps程度で同程度だったという。
Winnyに代表されるP2Pアプリケーションによるトラフィックは「依然、総量は多い」(江崎氏)が、1日24時間でのトラフィックの変化を見ると、むしろP2Pより大きな問題が見えてくるという。1日の変化を見るとトラフィックは1つの頂点と夜間の横ばいのグラフを示す。この横ばいの部分は機械的に送受信を続けているP2P利用者のノードによるものと見られる。一方、ピークを形作るのは人間による操作があるインタラクティブなサービスだ。「もはや本当にコントロールしにくいのはP2Pではない。ピーク時の帯域に合わせて設備投資を行うISPにとって難しいのはインタラクティブなサービスだ」(江崎氏)。
現在、比較的少数のP2Pユーザーが発生させる大量のトラフィックに対して、YouTubeをはじめとするストリーミングサービスの利用者が発生させるトラフィックが徐々に迫ってきているいるという。そして、かつてほど明瞭に「一部の(P2P)ユーザーがトラフィックのほとんどを発生させている」と言えるような状況は変わり、今ではトラフィック量とユーザー数の関係をプロットすると「分布がなだらかで、ほどよく分散している」(江崎氏)。
より急激な変化が見られるのは国際回線のインバウンドトラフィックだ。海外から日本に流れ込むトラフィックが2004年以降急増している。特に昼から夜にかけての海外から大量のトラフィックが入ってきている。「これにはわれわれは驚いた。国際回線は海底ケーブルで帯域を増やすのは難しい。かなり厳しい状況が出てきている」(江崎氏)。
P2P技術の有効利用を
こうした状況にあって、問題解決の方策として江崎氏はP2P技術の積極利用をするべきだと提言する。P2Pはかつて帯域を浪費する悪者扱いされるケースが多かったが、今ではまったく逆にP2Pを使えば帯域をセーブできるのではないか、という認識が技術者や研究者の間で広がっているという。
例えば、あるISPがインターネットを利用した野球中継で、ユニキャストの代わりに「疑似マルチキャスト」を使った実証実験を行った例では、ユニキャストであれば37.3Gbps必要だったはずのトラフィックを6.97Gpbsに抑えられたという。2006年暮れにフィールドで行われたこの実験では疑似マルチキャストという言葉が使われたが、実際にはP2P技術そのものだったという。「P2Pなしでは10Gbpsのインターフェースを持つサーバを4つ束ねてロードバランスする必要があった。バックエンドのサーバ負荷が問題だ。これはP2Pが実際のビジネス・オペレーションの現場でP2Pが使われ、有用性が示されている例だ」(江崎氏)。
ISP間、CDN間、国際間などでP2Pネットワークを構成して効率的なキャッシングを行えば、トラフィックは削減できる。現在の日本は東京にトラフィックが一極集中しているため、地域格差是正という点でもP2P技術の導入が望ましいという。
P2Pを活用した次世代のネットワーク運用を行うには、標準化などの技術的課題ばかりでなく、トランスポートサービス網におけるキャッシュは中身に関わらず可能とする、という法整備を行うなど社会的なコンセンサス作りも欠かせないという。
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