KVMの開発をリードするQumranet買収の意図とは
仮想デスクトップ市場に参入するレッドハット
2008/09/25
レッドハットが業容拡大を続けている。Linuxディストリビューションを提供するOSベンダからスタートした同社は、JBossをはじめとするミドルウェア、ID管理やセキュリティ関連のマネジメントを行う製品群と、「OS(プラットフォーム)/ミドルウェア/マネジメント」の3本柱で事業を広げている。
2008年9月4日には、Linuxコミュニティで仮想化関連技術をリードするベンチャー企業のQumranetを買収。Qumranetは、Linuxカーネルの一部として提供されるハイパーバイザーの「KVM」を開発、メンテナンスしていることで知られる。イスラエルと米カリフォルニアに拠点を置くベンチャーで、2005年創業。歴史は浅く、2007年9月の時点でも社員数45人と規模は小さいが、買収総額は1億700万ドルにも達する。
買収後、まだレッドハットから具体的な製品のリリース計画は明かされていないが、Qumranetが提供している仮想デスクトップ向けソリューション「Solid ICE」(Independent Computing Environment)で、同社はVDI市場(VDI:Virtual Desktop Infrastructure)に参入する。
仮想化の未来はKVMにある
「当社のような企業がQumranetを買収することを顧客の多くが待ち望んでいた」。買収の背景をそう語るのは、米レッドハット プラットフォームビジネスユニットのバイス・プレジデント スコット・クレンショー氏だ。同社はこれまでRed Hat Enterprise Linux 5.1で仮想化ソフトウェアの「Xen 3.1」を実装、サポートを提供しているが、今後はKVMとXenの双方をサポートしていく。「レッドハットはXenとKVMの両方にコミットし、サポートしていく。明らかにKVMが仮想化の未来で、だからこそQumranetを買収したわけだが、どんなIT技術にも成熟度や性能、安定性などサイクルがある。(先行している)XenはKVMよりも成熟していて顧客が選択する理由がある。KVMとXenの双方をサポートしていくことは、われわれにとって何の矛盾でもない」(クレンショー氏)。
VDIソリューションのSolid ICEの特徴は「SPICE」と呼ばれる独自プロトコルを用いることで「一般的なVDIではストリーミング再生が遅いが、Solid ICEではネイティブ環境で実行するのとまったく同じパフォーマンスが出る」(クレンショー氏)という。また、サーバ上のVMイメージをOSやアプリケーションを含むシステムのマスターイメージと、ユーザー個別の差分イメージの2つに分けて生成することで、90%のストレージ容量を削減できる。接続やセッションの管理、プロビジョニング、HAの機能なども提供し、「数千のデスクトップまでスケールできる」(クレンショー氏)という。ただし、VMイメージのマスターとユーザー個別データの分離は、IBMや3PAR、NetApp、LeftHandといったベンダも同様のアプローチで製品を発表もしくは提供しており、いずれも70%から90%のストレージ容量削減をうたっている。
SPICEプロトコルは今のところプロプライエタリだが、「今後はオープンにしていく」(クレンショー氏)という。「SPICEのような効率的なプロトコルは、業界全体で使うべきだ。われわれは買収したすべての企業の製品をオープンにしてく。レッドハットにとってOSSというのはマーケティング用の言葉ではなく、会社の価値そのものだ」(同)。
クラウド対応の基盤強化
レッドハットは仮想化への対応と同時に、クラウド対応も進めている。2008年6月に欧米市場を対象にリリースした「Red Hat Enterprise MRG V1」(参考記事)はタスクをグリッドサーバ群に投入するグリッド機能を統合したLinux OSで、クラウド上でHPCやHAのシステムを構成する基盤となる。同じく6月にはアマゾンのクラウドサービス向けJavaアプリケーションプラットフォームの提供を発表している。
こうしたクラウドへの対応では、ハイパーバイザーだけでなく、仮想イメージのプロビジョニング技術が鍵になるため、KVMのキーとなる開発者が所属するQumranetの買収は、レッドハットにとってVDI市場への参入とともに、クラウド対応への基盤技術強化の意味合いがあるようだ。
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