IPA Forumで担当者が語る導入の経緯
「MS Officeに知らないうちに依存していた」、OOo導入の会津若松市
2008/10/29
「『無料のオープンソースソフトウェアなのだから、OpenOffice.orgを入れればコストを削減できる』と安直に導入すると、絶対に失敗する。導入や教育といった部分も含め、どうやるかをしっかり考えないとリスクは大きく、経費削減どころか大きな投資になってしまう恐れもある」――。
10月28日に東京都内で行われた「IPAフォーラム 2008」に、オープンソースのオフィススイート「OpenOffice.org」を全庁で導入と発表した会津若松市役所 総務部情報政策課 副主幹の本島靖氏が登壇。OpenOffice.org導入の経緯や課題を説明する中でこのように語り、「タダだから」という理由による安易な導入を戒めた。
導入も研修も職員が担当
会津若松市は2008年5月に、OpenOffice.orgを全庁に導入することを発表した。5年をかけて、840台のPCにインストールされていたMicrosoft OfficeからOpenOffice.orgへの入れ替えを進め、2012年にはOpenOffice.orgのみを搭載したPCを85%に拡大する計画だ。この入れ替えにより、約1500万円のソフトウェアコストの削減を見込んでいるという。
実際には同市では、その前から少しずつOpenOffice.orgの導入を進めていた。2005年頃より、PowerPointの代用としての使用を奨励し始め、ほかの自治体における導入例を参考にしながら全庁導入に向けた検討を開始したのは、2006年のことという。
当初はOpenOffice.orgに対し、職員の間から「何だかよく分からない」「サポートはどうなの? 互換性は?」といった声もあった。また、やはり使い勝手がMicrosoft Officeとは微妙に異なることから、集合研修やe-ラーニングによる研修を実施したという。「書店に行っても関連書籍がないという声もあったが、インターネット上に公開されているガイドブック類はけっこう多い。これをイントラネット上に集約して見てもらうようにした」(本島氏)
さて、OpenOffice.org導入のメリットは、ソフトウェア導入費用の削減だ。しかし、無償のソフトウェアを導入したからといって、必ずしも経費を削減できるとは限らない。導入や運用・維持管理、職員の教育など、さまざまなコストが発生するからだ。
会津若松市の場合は「基本的にすべて、職員がやった」(本島氏)。このため、特に費用はかかっていないという。
例えばインストール作業ひとつとっても、ベンダに委託すると1台3万円はかかる。導入するPCの数を考えると、それだけで、初期導入費用が浮いた分が吹っ飛んでしまう。同市ではこの部分を、職員が対応することとした。「昔はマシンにつきっきりでやる必要があったが、いまは便利になり、スクリプトもいっぱいある。これで作業を半自動化し、かなり効率的にできた」(本島氏)。実際、240台分のインストール作業は、2週間ほどで終わったという。
同様に、職員に対する研修やヘルプデスク対応、バージョン管理など、もろもろの作業は総務課の職員が行った。だがだからといって、IT担当の職員の勤務が過剰になっているわけではない。情報政策課の職員の残業時間を見ると、2007年度よりむしろ減っているという。
「無理はしない」がポイント
本島氏の話をまとめると、会津若松市のOpenOffice.orgへの移行作業は、基本的に「無理な移行はしない」「Microsoft Officeと上手に使い分ける」といった方針の元で進められている。国や県、ほかの自治体とのやり取りもあることから、何がなんでもOpenOffice.orgに全面移行するというわけではまったくなく、無理のない範囲で進めるというスタンスだ。無理をすると、逆にコストに跳ね返ってくるだろうという。
例えば、既存ファイルの移行も、必要なものだけに限っているという。「見るだけならばビューワがある。新規に作成するものや修正するものだけ、つまりいま現在使うものだけををODF形式に変えることにした。全部やろうとしたら大変だ」(本島氏)。
だが、それでも基本的にOpenOffice.orgへ全面移行することを決定した理由は、意外なところにあった。「最初は徐々に置き換えていこうと考えていたのだが、Microsoft Officeのほうが2007にバージョンアップしたところ、ユーザーインターフェイスもファイル形式も大幅に変わってしまった」(同氏)
その結果、どちらにしても職員への研修が必要になる。コスト的に一斉にOffice 2007を導入するのが困難なので、バージョンが混在することになが、「職員がいちいち拡張子を意識しているかというとそうではない。そうなると、Microsoft Officeの環境でも文書形式の非互換という問題が起こる可能性がある。じゃあ、せっかく同じコストを掛けるのならば、OpenOffice.orgでもいいのではないかという話になった」(本島氏)
同時に、文書の標準フォーマットとしてODFを採用することとした。「さまざまな文書に対して5年保存、10年保存などが義務付けられているが、それがこの先ずっと見られる保証はない。その点ODFは、基本的に中身はテキスト」(本島氏)。オープンな標準であり、フォーマットさえ統一してあれば、どんなワープロでも読み出せる点が長所だという。
つまりポイントは使い分けであり、Microsoft OfficeにできることすべてをOpenOffice.orgに求めるのは無理があると本島氏は述べ、「業務で使う分には十分だ」とした。
知らないうちに依存していた
それでも、いくつか課題はある。同市がWebサイト上で公開しているとおり、例えば、Microsoft Officeで作成した文書のレイアウトがずれたり、罫線に破線・点線が使えないといった問題だ。
「しかし、そこはどうしても点線じゃないとだめなのか、薄い線ではだめなのか。つまり『いままでこうやってきたから』というこだわりを捨てれば大丈夫」(本島氏)
マクロも課題だったが、新たにリリースされたOpenOffice.org 2.4.1ではかなり互換性が向上しており、ちょっとした手直しで6割くらいが動作しているという。
10月からは、最初からMicrosoft Officeが入っていないPCが、新たに市役所に入ってくることになった。念のため行った最終検証では「OCR-Bフォントがない」「Webコントロールがない」といった問題があぶりだされた。だが前者は、オープンソースソフトウェア「Fontforge」を用いて自作することで、後者はマイクロソフト公式サイトの中に配布元を見つけることで解決した。同市ではフォントのソースコードも公開しているという。
「OpenOffice.orgの導入がどうこうというよりも、Microsoft Officeに知らないうちに依存していたんだなということを認識した」(本島氏)
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