フィックスターズがOS事業を丸ごと買収
CellによるHPCシステム構築サポートを本格化
2008/11/11
2006年11月11日にプレイステーション3が発売されてから、今日(2008年11月11日)で、ちょうど2年。PS3は新世代ゲーム機ということのほかに、ソニー、東芝、IBMの3社が共同開発した並列計算向けプロセッサ「Cell Broadband Engine」(Cell)が話題となった。このCellをHPC(High Performance Computing)に活かす動きが国内で静かに始まっている。
「2004年、まだプロセッサがないころからエミュレータを使ってソフトウェア開発に取り組んできた。今年はCellの民生利用が始まっており、組み込み用途でも利用が始まっている。来年2009年には花が咲く」
こう語るのはCellを使ったシステム構築支援を行うフィックスターズ 代表取締役社長 CEOの三木聡氏だ。CellはOSや資源管理に使う汎用のPowerPCアーキテクチャのコア「PPE」と、128ビットのSIMDアーキテクチャを持った「SPE」を8コア搭載した非対称マルチコアプロセッサだ。SPEは比較的単純な並列計算に適しており、高い計算能力が求められる分野での応用が見込まれている。同社は「金融計算、画像・映像処理、医療機器、製造検査装置の4つの産業に注力している」(三木氏)といい、例えば2008年5月にはみずほ証券の金融商品開発のためのHPCシステムとしてCellベースのIBM製ブレードサーバの採用事例があるという(プレスリリース)。このシステムでは「IBM BladeCenter QS21」を採用。3.2GHzのCellを2個搭載し、最大ピーク時性能で460GFLOPSを実現。これはXeonの約10倍の計算性能という。
Yellow Dog Linux買収でソフトウェアをフルスタックで
2008年11月11日、フィックスターズはLinuxディストリビューション「Yellow Dog Linux」(YDL)で知られる米テラ・ソフト・ソリューションズの買収を発表した。買収は10月31日付で行った。買収額は非公開。
テラ・ソフトは1999年創業の老舗だ。PowerPC対応ディストリビューションとしてIBM System pでNASAやボーイングといった顧客への導入も行ったほか、一時期はアップル製品とともに業績を伸ばしたが、2005年6月にアップルがPowerPCからインテルアーキテクチャへ大きく舵を切ったのを機にCellへの取り組みを本格化していた。
フィックスターズはこれまで、アプリケーション、ライブラリ、フレームワーク、ドライバ、ハードウェア製品の提供・サポートを行ってきたが、「OSだけが欠けていた」(三木氏)。テラ・ソフトを傘下に収めることで「より一貫したソフトウェアサポートを提供できる。国内企業ユーザーの中にはサポートなしのOSでは心もとないというところもあった。OSの正式サポートが加わり、すべて日本語でやり取りできることでCellの民生利用が進むと期待している」(同)という。同社はテラ・ソフト買収による売り上げ向上として約8000万円を見込んでいるという。
テラ・ソフトから譲り受けた事業、従業員は米国に設立した新子会社に引き継ぐ。今後は日米ともに「カーネルのメンテナンスができるレベルのエンジニア集団を作っていく」(技術開発本部長 浅原明広氏)という。特に組み込み用途では、問題が起こったときに原因がOSなのかアプリケーションなのか切り分けが難しいケースがある。こうしたケースでも今回の統合により「上から下まで一括してサポートできるようになる」(浅原氏)という。また、組み込み向けでニーズの大きいOSのカスタマイズにも応じていく。
GPGPUとCellは向き不向きがある
価格性能比ではCellは並列計算に適したプロセッサとして注目を集めるGPGPUに比べて割高に見える。
例えば、フィックスターズではPCI Express拡張ボードとして、IBM製のCellを搭載したアクセラレータボード「GigaAccel 180」も販売する。計算性能は180GFLOPSで、単体価格は88万円(税別)となっている。なお同じCellアーキテクチャのプロセッサ搭載のプレイステーション3は価格は安いが、搭載される7つの演算コアのうち1つがハイパーバイザ向けに予約されていて処理能力をフルに発揮できないほか、倍精度演算をサポートしないため用途が限定されるという。
一方、NVIDIAが11月10日に発表したTeslaシリーズの最新版「NVIDIA Quadro FX 5800」は1つのGPUで240コアを搭載。処理能力は1TFLOPSに到達しているが、価格は3499ドルだ。
このようにコストパフォーマンスではGPGPUが優位だが、浅原氏は「CellとGPUでは向き不向きがある」という。GPUに載せやすいアプリケーションなら、GPUのほうが処理能力の点で有利だが、Cellのコアのほうが単純計算以外の高度な処理を行いやすいからだ。例えば計算結果に依存性があり、処理順序が重要なものではCellのコア間通信のほうが、GPUの共有メモリモデルよりも扱いやすい。「開発の難しさ、コストまで含めて考えると、GPUがいいか、Cellがいいかはケースバイケースではないか」(浅原氏)としている。
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