ライムライトが日本で顧客100社獲得も間近

新世代に進化し、再び注目を集めるCDN

2008/11/13

 「CDN」(Content Delivery Network)が再び注目を集めている。置いて直接ユーザーにダウンロードしてもらうには重い画像などを、利用者の場所に近いISP付近に設置したエッジサーバにキャッシュしておくことで、サーバの負荷を分散する。エッジサーバはISP内や、ネットワークトポロジー的にISPに近い場所に設置する。こうすることで、そのISPのユーザーはストレスなく重いデータを利用できる。こうしたバックボーン系のコンテンツ事業者向けサービスがCDNだった。

CDNは複数ISPとピアリングするサーバ群の第2世代へ

lime01.jpg 米ライムライト・ネットワークス シニアバイスプレジデントのデイビッド・M・ハットフィールド氏

 「第1世代のCDNは静止画像など小さなオブジェクトだけを扱うものだった。しかし、いまや動画に代表されるリッチなコンテンツは容量がもっと大きい」

 こう語るのは“第2世代CDN”をうたうCDNサービス大手の米ライムライト・ネットワークス シニアバイスプレジデントのデイビッド・M・ハットフィールド氏だ。ライムライトは2001年設立で、競合で、業界最大手のアカマイ・テクノロジーズより3年ほど遅い創業だ。後発であることから、当初からライムライトはアカマイなど“第1世代”とは異なるアプローチでCDNを設計したという。

 世代で呼ぶのが妥当かどうかは別として、CDN設計には大きく2つのアプローチがある。1つはアカマイのようにISPやキャリアの各接続拠点にCDNのサーバを設置する方法。もう1つはライムライトのように大量のキャッシュサーバを置き、そのサーバ群を多数のISPとピアリングする方法だ。ライムライトでは、サーバ群をパブリックなインターネット網ではなく、プライベートな光ネットワークで結んでいる。

cdn01.png 従来型のCDNサービスの構成図(ライムライトの資料から抜粋)
cdn02.png ライムライトが“第2世代”と呼ぶ同社のCDNサービスの構成図(ライムライトの資料から抜粋)

 「いまは動画コンテンツともなれば1つで20GBにもなり、これを1Uのサーバでキャッシュするのは現実的ではない」(ハットフィールド氏)。ブロードバンドが普及し、動画系サービス利用者が増えるにつれて、小さなキャッシュサーバをISPの深くにバラまくCDN登場当初のアプローチが有効でなくなってきているのだという。

 ライムライトのような集約型キャッシュサーバが有利なのは、扱えるコンテンツの個々の容量が大きくなるということだけではないという。ライムライト日本法人の塚本信二社長は、こう語る。

lime02.jpg ライムライト・ネットワークス・ジャパン 代表取締役社長 塚本信二氏

 「日本国内の上位数十社のISPとはつながっているが、キャッシュサーバ群を設置している拠点数自体は多くない。しかし、拠点数が少ないからこそメンテナンスコストが低くなり、スケーラビリティの面でも優位になる」

 ISPの“奥深く”に細かくサーバを打ってしまっているCDNに比べて、複数ISPに直結する形でサーバ群を集約しているライムライトのCDNでは、ストレージ容量やネットワーク帯域の拡張が容易だという。「現在、すでに総帯域幅は2.2Tbps。アカマイは数字を公表していないが、われわれの調べうる情報に基づいて比較する限り、ライムライトは最大のCDNだ。2.2Tbpsというのは調査会社ニールセンの視聴率でいえば、300〜400万人が番組を見ているのに等しい。これを2000万人から3000万人規模に対応できるよう拠点、帯域ともに増やす」(ハットフィールド氏)。サーバやスイッチの容量・帯域当たりの価格が下がれば、それだけ同社のCDNはスケールアウトしていけるという。

いまのところCDNにP2Pは不要

 キャッシュサーバ同士をピアノードとしてP2P技術をCDNに取り込んだり、あるいはクライアントも含めてP2Pを取り入れれば、大幅なコスト削減が可能として、その技術動向が注目されている。例えばアカマイは2007年4月に1500万ドルでP2PベンチャーのRed Swooshを買収しているし、2007年9月にはコンシューマ市場でもっとも成功しているP2Pプロトコル「BitTorrent」を使った商用CDNも登場し、日本市場への参入を発表している(参考記事:BitTorrent、立ち上がる商業P2Pネットワーク)。

 CDNとP2Pの組み合わせの可能性についてハットフィールド氏は、こう語る。「半年前に同じ質問を受けていたら、肯定的な答えをしていただろう。しかし、既存のCDNのコストが下がり、いまあるものを使って十分大きな容量や帯域を実現できると実証した。今後もP2Pはラボで研究はしていくが、現状で顧客ニーズに応えるのに必要かといえば、そうは思わない。P2Pは結局ISPの帯域を使うことになるので、ISPから見れば帯域削減の効果はそれほどでもないということもある」。

高い成長率で国内採用も100社に近づく

 CDN市場シェアで見ればアカマイが断トツの1位で、2位のライムライトは追う立場だ。「調査会社によって数字は違うが、ワールドワイドではアカマイが60〜65%、ライムライトが18%。ほかにベンチャーや各地域別のサービスなど50社以上あるが、上位2社の次の3番手でも4〜5%のシェアしかない」(ハットフィールド氏)

 現在、ワールドワイドでライムライトの顧客数は1500社前後。1四半期ごとに100社ずつ程度増えている。国内は2007年7月に日本法人がスタートしており、「当初掲げた2008年の年内100社の目標に近づいている」(塚本氏)という。

 ワールドワイドでは、YouTubeが顧客だったことがあるほか、マイクロソフトやアマゾン、テレビ局系ではFOXやABCが同社サービスを利用しているという。国内では任天堂、トヨタ自動車、日本経済新聞社、ECナビ、GREEなどが顧客だ。過去3年のワールドワイドでの実績は2200万ドル、6500万ドル、1億500万ドルと推移しており、2008年は1億2500億ドルの売り上げを見込む。

 CDN専業のライムライトはスケールメリットが出せるので、「CDNをインハウスで持つ意味がある規模の会社は、世界で何社もない。CDN運用は非常に複雑だからだ。自前でCDNを用意していたところも、動画や音楽に対応となってくると、われわれのところに戻ってくる」(ハットフィールド氏)

北京五輪での成功

 動画サービスの興隆で注目を集める同社だが、劇的成功が耳目を集めたのが北米における北京オリンピックのオンライン配信だ。

 放映権を持っていたNBCから、“これまでになかったようなことをやりたい”と持ちかけられ、同社はマイクロソフトら10社と協力してオンラインライブ配信の新記録を樹立した。19日間のライブ中継を5000万人が視聴し、7000万を超えるビデオストリーム数となったという。「マイクロソフトのSilverlightを使って6つの画面で同時に異なる映像を見ることができた。家に子どもが3人いたとして、上の子がサッカー、真ん中がウェイトリフティング、下の子が器械体操を見ることができるものだった」(ハットフィールド氏)。単にハイライトを用意したという従来のサービスと異なり、「例えばクレー射撃のようにあまり予選からテレビでも放映をされないようなものも含めてすべてカバーした。インターネットならではの画期的モデルだった」(塚本氏)という。

 放映権の問題でこの中継サイトは北米からのみアクセス可能となっていたが、技術的にもCDNの容量的にも世界展開は可能だったという。世界中が注目した11月の米大統領選では、ニュースサイトが記録的なアクセス数を全世界から集め、動画系コンテンツも多く見られたという。

インフラに特化し、パートナーと分業

 同社の強みはCDNというインフラ技術に特化していることだとハットフィールド氏は強調する。国内大手のJストリームは動画配信ビジネス全般をサポートするビジネスを展開しているが、塚本氏は同社を競合と見てはおらず「モデルが違う」という。

 CDNは単にオブジェクトを配信・キャッシュするだけでなく、メディアのエンコード、メタ情報管理、CMS、視聴動向分析、地理情報による配信コントロール、メディアプレーヤーやRIA技術との連携など多くの技術がその上に乗って初めて意味を持ってくる。こうしたレイヤでは、「まだまだ多くのイノベーションがある」(ハットフィールド氏)という。ライムライト自身は大容量配信のCDNに特化し、それぞれのジャンルでリーダー的存在のパートナーと組むことで顧客ニーズに応えていくのだという。

 米国では150社以上のパートナーと提携しているが、「日本でも、こうしたパートナー企業を見つけ、自前ですべて提供するのではなく、顧客がベストのものを選んで使っていけるようにする」(塚本氏)という。例えばケータイ向けコンテンツでは、「800機種とか900機種、3キャリアすべてに対応するなど自前では難しい」からだ。

(@IT 西村賢)

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