「ネットワークこそコンピュータ」

サン・マイクロシステムズ:革新者のジレンマ

2008/12/03

 サン・マイクロシステムズはコンピューティングビジネスにおいて最も革新的な企業であり続けたが、その革新性から利益を生み出すことには苦労してきた。一新されたNetBeans開発プラットフォームとJavaFX RIAプラットフォームの出荷を控え、それらの技術が開発者たちとの関係にどのような意味を持つか、サンは答えを見つけることができるだろうか。

 サン・マイクロシステムズが明らかにした最大6000人に上る人員削減計画は、景気後退が予想以上の厳しさにあることを人々に実感させた。と同時に、革新的な技術を切り拓いてきた輝かしい歴史を持つサンでさえ、革新性から利益を上げることがいかに困難であるかを広く知らしめるものとなった。

 いや、Javaだけの話ではない。この会社のすべてがそうなのだ。「ネットワークこそコンピュータ」。これはその昔、サンがキャッチコピーにしていた言葉だが、いままさにそれが現実のものになりつつある。サンは確かにそこから利益を得ることができた。だが、もっと貪欲に、利益をむさぼる会社のように稼ぐことはできなかったのか。サンには、どことなく上品な会社というイメージが漂う。

 例えば、Javaがその典型だ。Javaで稼ぎ出した金は、もしかするとサンよりIBMのほうが多かったかもしれない。

 1995年にJavaが初めて姿を現したとき、まさにそれは技術革新だった。先進的なプログラミング言語というだけでなく、“write once, run anywhere(一度書けばどこでも動く)”という、うたい文句は、マイクロソフトの閉鎖的な開発環境に対するオールタナティブを開発者たちに与えた。 Javaの重要な特性は、ポータビリティだ。Javaコードはマシンコードにコンパイルされるのではなく、Javaバイトコードにコンパイルされ、アプリケーションが実行するプラットフォーム固有のJVM(Java仮想マシン)にインタープリットされる。

 Javaは非常に革新的であったため、マイクロソフトはその脅威を直ちに吸収しようと試みた。つまり希釈しようとしたのだ。サンはその動きに反撃し、マイクロソフトを相手取って法廷闘争とキャンペーンを繰り広げた。しかしその過程で、サンはJavaの本来の目標を見失ってしまったのかもしれない。

 そしておそらくは、当時のリーダー、スコット・マクニーリ氏のマイクロソフトに対する異常な敵がい心が、ドットコムバブルの崩壊よりも大きな不幸をサンにもたらしたのではないだろうか。テクノロジ帝国の興亡は、ボーランド・ソフトウェアのフィリップ・カー氏やノベルのレイ・ノーダ氏、ロータス・デベロップメントのジム・マンジ氏など、マイクロソフトとの激烈な戦いに敗退し、市場から姿を消した企業リーダーの名前とともに書き綴られる。

 ところが、先見の明があったサンと同社の新しいリーダー、ジョナサン・シュワルツ氏は、オープンソースに新たな価値を発見した。そう、オープンソースこそ、サンの救世主になるはずだ。もっとも結論はまだ出ていないが。

 サンには何ができるのだろう。この会社は呪われているのだろうか。サンの問題はビジネスサイドのリーダーシップにある、と指摘する声がある。だが、そうとも言い切れない。サンには、技術サイドにもビジネスサイドにも、有能なリーダーが絶えず存在したからだ。

 たとえリーダーだった人々の数がそれほど多くないにしても、そのリストには業界の有名人がずらりと名を連ねる。例えばマクニーリ、シュワルツの両氏に加え、現グーグルCEOのエリック・シュミット氏はサンの元CTOだ。モトローラのCEO兼会長に就任したエド・ザンダー氏は、前COOで社長だった。サンの共同創立者でソフトウェアの天才児と呼ばれるビル・ジョイやJavaの生みの親であるジェームズ・ゴスリング、共同創立者でワークステーションを創造したアンディ・ベクトルシャイム、CTOで研究開発部門の上級副社長であるグレッグ・パパドプラスの各氏などは、誰もがその名を知っている。

 メジャーな標準化団体の作業部会を眺めても、World Wide Web Consortium、 OASIS、IETF(Internet Engineering Task Force)など、サンの技術者たちが革新的なプロジェクトのリーダーシップを握っている。

 一方、社内でも、技術革新は継続的に勧められている。サンは最近、オープンソースIDE(統合開発環境)「NetBeans」のバージョン6.5を発表した。

 サンのデベロッパツール部門マネージャ、デビッド・フォーク氏によると、NetBeans 6.5は、PHPに直感的かつ多機能なIDEを提供するとともに、Web、Javaソフトウェア開発のサポートをいっそう強化したという。また NetBeans 6.5には、中国語、日本語、ポルトガル(ブラジル)語対応の完全ローカライズ版が含まれる。さらにサンは、Pythonアプリケーション向けの早期アクセスバージョンもリリースした。このバージョンにはエディタ、デバッガに加え、Pythonランタイムが含まれる。

 フォーク氏によると、NetBeans 6.5には、CSS/HTMLコードコンプリーションや、Mozilla FirefoxおよびMicrosoft Internet Explorer内でクライアントサイドJavaScriptコードのデバッグができるJavaScript開発用エディタが搭載されているという。 NetBeansの新バージョンは、Spring、Hibernate、JSP(JavaServer Pages)、そしてJava Persistence APIのサポートも強化した。さらに、エディタではGroovyやGrailsをサポートし、Rubyのサポートも拡張された。

 もっとも「Java開発者がわれわれにとって非常に重要な存在であることに変わりはない」とフォーク氏は強調する。NetBeans 6.5には、Java用マルチスレッドデバギング機能が搭載されている。

 「開発の分野では、混合言語プログラミングが主流になりつつある」と語るのは、nbPythonの開発リーダー、アラン・デービス氏だ。同氏はステートメントの中でこう述べる。「われわれはツールを一カ所にまとめる必要があった。NetBeansプロジェクトにPythonの早期アクセスバージョンが追加されることで、より生産的な開発が可能になるはずだ。このプロジェクトでサンと協力できたことは大きな経験になった。エンジニアたちはみんな超一流で、NetBeansコミュニティも神の恵みと霊感に満ちていた。この製品の開発に参加できたことをうれしく思う」

 一方、サンは比較的新しい分野でも技術革新に取り組んでいる。それはRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)である。JavaFXで、サンはJavaプラットフォームをベースとする新しい技術を導入する。それはデスクトップ、モバイル、テレビ、そのほかのコンシューマプラットフォーム上で一貫したユーザーエクスペリエンスを実現するものだ。

 最近開催されたAdobe MAXカンファレンスで、サンのJavaマーケティング担当上級ディレクター、パラム・シン氏は、開発の最終段階にあったJavaFXのデモをわれわれに披露した。

 シン氏によると、JavaFXにはJavaFX SDK(ソフトウェア開発キット)用のほかに、NetBeansとEclipse用のプラグインが用意されるという。JavaFXを利用すれば、ユーザーはAdobe PhotoshopやIllustratorなど、ほかのアプリケーションからグラフィカル資産やメディアをインポートすることが可能になる。シン氏は、 JavaFX技術が設計者と開発者の間にどのようにスムーズなワークフローを作り出すかをデモで示した。設計者が設計変更を行ったとき、その変更がIDE の中に示され、開発者が認識できる仕組みになっている。

 「JavaFXはJavaの上にプレゼンテーション層を提供する」とシン氏は説明する。設計者や開発者のプロダクションスイートに加え、「われわれはモバイルエミュレータも開発する方針だ」(同氏)という。さらにシン氏は、「コントロールの開発手段として(Adobe)Flexを検討している Java開発者は、JavaFXが1つの選択肢になるだろう」としている。

 いずれにせよ、サンは今後も革新的であり続けるだろう。革新的であることが、同社で問題になったことはない。

 実はAdobe MAXで、アドビのクリエイティブソリューションビジネス部門上級副社長、ジョン・ロイアコノ氏と話をしたとき、私はアドビの将来性を示すキーワードとして、「Flash Platform」という言葉を冗談めかして使った。そして以前、サンのソフトウェア部門の重鎮であったロイアコノ氏に、サンがユビキタスなJava プラットフォームとの関連性を強調するために株価のティッカーシンボルを“SANW”から“JAVA”に変更したが、アドビも追随してティッカーシンボルを“ADBE”から“FLSH”に変更するつもりはないかと聞いた。

 ロイアコノ氏はクスクス笑った後、すぐに真顔になって、「サンにそうした革新性が尽きることはないだろう。ジョナサン(・シュワルツ)は困難な仕事はこなしているが、今回の件もサンを絶えず前進させるための仕掛けの1つに過ぎない」と語った。

 景気後退の直撃を受けながらも、サンは依然として業界の注目を集め続けている。はたしてサンは、その革新性から利益を生み出すために、いま何をすべきなのだろうか?

原文へのリンク

(eWEEK Darryl K. Taft)

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