北米、ヨーロッパよりも早く日本で実現

BBCのフルHD映像を配信開始、ビデックスJP

2008/12/04

 悪貨は良貨を駆逐する。オンライン動画の世界でもそれが起こっている――。こう主張するのは有料の動画コンテンツ配信ビジネスに取り込むビデックス 代表取締役社長の柳下洋氏だ。流通する市場で同じ価値を持つものなら、製造コストの安い“悪貨”が増え、“良貨”は退蔵される。

videx01.jpg ビデックス 代表取締役社長 柳下洋氏

 ネットの世界で貨幣価値をアクセス数に置き換えると、ネット上には「苦労して生み出したものより、労せずに生み出したものがはびこってしまう」(柳下氏)。現在、オンラインコンテンツビジネスは広告収入に頼るモデルが多いため、コンテンツの市場価値はアクセス数だけで決まりがちだ。このためコストをかけて制作したドキュメンタリー(良貨)よりも、手軽に作られたコンテンツ(悪貨)ばかりが出回ってしまう、というわけだ。

 柳下氏はオンラインの動画配信ビジネスの現状をこうまとめる。

 「これまで動画コンテンツの流通はテレビが9割以上を占めていた。これが当然インターネットに移ってくる。テレビはチャンネル数が限られていて、ブロードキャストしかできない。ネットならオンデマンドの配信ができる。そこまでは誰でも分かるが、では、どういう時代になるのかというと予想がつかない。それで各社とも悪戦苦闘しているのが現状だ。この状況に対して何らかの答えを出していかないといけない。映像流通インフラとしてのインターネットの真価が問われている」。

ネット上に良質の映像流通インフラを

 2004年に設立されたビデックスは、P2Pの自律分散システムを組み込んだ独自のCDN網(VIDEX CDN)を持つ技術系ベンチャーとして事業に取り組んでいる。「1本の配信で100円かかると事業にならない。10円以下に抑えるために、(ホップする)ルータ数を減らす、高品質でない光回線を束ねて安定させるなど工夫してきた」(柳下氏)。2006年に立ち上げた有料配信サービスは、自社ブランドのサービス以外に楽天ビデオダウンロード、東映アニメーション、セントラルスポーツなどで利用されているという。

 同社が使命として掲げる目標は、技術面のインフラ整備ではない。「粗悪な映像があふれるネット上で、良質な映像が流通できるインフラを作る」(柳下氏)。そのために有料配信、高画質、グローバル展開にこだわるという。

 「有料配信と無料配信ではアクセス数に100倍の開きがあるが、われわれは一貫して有料配信をしてきた。(アクセス数を増やして広告収入を得る無料配信モデルでは)苦労して作ったものと、労せずして作ったものが同じになってしまう」。

 広告による収入は1視聴当たり3円から5円程度。一方、画質を上げると事業者側の負担は100円、さらにいわゆる“ただ乗り”の帯域費用を加えると1000円程度になるという。コンテンツ制作費を含めると、優良なコンテンツを広告モデルで配信するのは非現実的だという。

BBCと提携し、高品質の映像コンテンツを配信

 同社は、これまで「ビデックスJP」で提供してきたコンテンツに加えて、2008年12月4日からは英BBCが提供するドラマ、ドキュメンタリーのうち245本、約200時間相当のコンテンツの配信を開始する。「BBCは世界最高品質の映像の宝庫だと思っている。これだけの本数をそろえてHD映像で配信するのは国内では初めてではないか」(柳下氏)。価格は1話当たり210〜420円で、視聴期限は7日間。配信フォーマットはDRM付きのWMV9形式で視聴期限後は再生ができなくなる。第1弾として「ブルー・プラネット」「リトルブリテン」「アガサクリスティのミス・マープル」など76作品を配信。以後毎月20〜40作品を追加して2009年4月に245本がそろう予定という。コンテンツは一部吹き替えもあるが、基本的に字幕付きとなる。

bbc01.jpg ビデックスJPに新たに加わったBBCコンテンツの照会トップ画面

 現在同社サービスの利用者数は22万人。コンテンツはアニメ、ドキュメンタリー、ドラマ、映画などで4万2000タイトル(契約交渉中のものも入れると5万5000タイトル)、1日に30万本の利用があるという。価格は105円から1780円でレンタルタイプが2日間から2週間の視聴が可能で、無期限に視聴できるダウンロード動画もある。「国内では最大規模。2009年には北米、ヨーロッパ向けの配信、テレビやケータイ向けの配信も始める。当初から目標としてた利用者数100万人も2011年に十分達成可能と考えている」(柳下氏)。

videx03.jpg BBCワールドワイド グローバルTVセールス・アジアのシニアバイスプレジデント&ジェネラルマネージャのジョイス・ヨン氏

 コンテンツ提供で提携した英BBCの配信事業部門、BBCワールドワイドはPC向けオンライン配信をはじめ、ケータイへの配信などを“デジタル・メディア”と位置付け、今後成長が見込める中核事業として据えているという。同社はこれまでYouTube上に専用チャンネルを開設してショートクリップを提供する提携を行っているほか、MySpaceともグローバル契約し、今後配信を予定している。英国ではiTunes Store上でのダウンロード販売が決定しており、米国、ドイツでも同様の契約を締結したという。BBCは、多様なジャンルで約3万時間強のコンテンツ、HD映像で575時間分の用意があるという。今後はPC向けだけでなく、携帯電話などのデバイス向けやテレビ放送局のWebサイトでの配信ニーズに応えるなど事業拡大を狙う。アジア地域を担当するBBCワールドワイド グローバルTVセールス・アジアのシニアバイスプレジデント&ジェネラルマネージャのジョイス・ヨン氏は、「今後6カ月で黒字化できるかというと、まだ結論を出す段階にはない。われわれはもっと長期的に見て、事業を拡大している」と語り、シンガポールの動画配信サービスとの提携や、ノキアとの提携による携帯電話への配信などを例として挙げた。

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(@IT 西村賢)

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