OSSコミュニティの価値を損なうことはしない

「ノベルとは違う」、Red Hat幹部が明かすMSとの提携理由

2009/02/18

 米レッドハットは2月16日、仮想環境での相互運用性拡大を目標に、マイクロソフトとの協業で合意に至ったと発表した。レッドハットはRed Hat Enterprise Linux上で提供する仮想化環境で、ゲストOSとしてWindowsサーバの検証を行う。逆にマイクロソフトはWindowsサーバのHyper-V上でゲストOSとしてLinuxサーバの検証を行う。サポート契約を行っている顧客は、協調的な技術サポートが受けられるようになる。

redhat01.jpg 米レッドハットのバイスプレジデント、プラットフォームビジネス担当のスコット・クレンショウ(Scott H.Crenshaw)氏

 Linux系サーバとWindows系サーバの仮想化環境の相互運用性が保証されることになる。このことについて、来日中の米レッドハットのバイスプレジデント、プラットフォームビジネス担当のスコット・クレンショウ(Scott H.Crenshaw)氏は2月18日、都内で開いた会見で「2つのOSプラットフォームに中立なVMwareのようなソリューションによらずとも、Windows上でLinux、Linux上でWindowsという組み合わせが実現できる。これは仮想化関連市場にとって非常に大きな違いとなる」と語った。

 これまで仮想環境を含めたLinuxサーバとWindowsサーバの相互運用という面では、ノベルが先行していた。同社は2006年11月にマイクロソフトと包括的な業務提携を発表。この提携により、ノベルは優先的にマイクロソフトと技術協力を行い、例えばゲストOSでボトルネックとなるI/O関連のパフォーマンスを大幅に改善するプロプライエタリなWindows向けドライバを開発、提供している。

 両社の提携では、技術協力よりも知的財産に関する合意が重要だった。提携に先立つ2006年5月には、マイクロソフトはLinuxを含むオープンソースコミュニティが同社の特許235件を侵害しているというコメントを出していた。顧客企業にとっても無視できない訴訟リスクがあると騒がれる中で、ノベルは互いに訴訟を起こさないと合意することで、自社製品のSUSE Linux Enterprise Serverに関する、そうしたリスクをクリアしていた。

 長年の敵対的関係を打ち破ったマイクロソフトとノベルの提携は、異種混合が進むITシステムを抱えた企業からは歓迎された。その一方で、主に2社だけがメリットを享受する提携形態に対してOSSコミュニティから批判の声が絶えなかった。

 ノベルに遅れること2年9カ月、マイクロソフトと同様の提携を発表したレッドハットだが、この遅れの理由についてクレンショウ氏はこう述べる。「OSSコミュニティが活力を保って持続できるようにすることが、われわれの責務。OSSコミュニティが持つ自由が損なわれるような提携関係は、われわれは絶対に結ばない。今のタイミングでマイクロソフトとの提携を発表したのは、知的財産権条項に関わらない合意に達することができたというのが理由だ」。今回の合意では、顧客に対する協調的な技術サポートを確立するもの。合意に含まれる活動で知的財産の共有を必要としないのがポイントだという。特許権やオープンソースのライセンス権が一切含まれておらず、業界標準の認定・検証テスト料金のほかに財務条項も含まないという。

クラウド時代到来に布石

 クレンショウ氏は、マイクロソフトとの提携のほか、レッドハットが取り組む技術領域や、ミッションクリティカル分野での取り組みについても説明した。同社はLinuxカーネルやディストリビューションの開発をコミュニティベースのFedoraチームと協調する形で行っているが、仮想化関連やクラウド向けのプロジェクトに対して継続して投資しているという。「クラウドを実現できるのは標準化され、相互運用性の高いOSSのみ。大きなクラウドの実装例の多くはRed Hatを使っている」(クレンショウ氏)。同社が支援するプロジェクトには仮想化技術の「KVM」や、異なる仮想環境に対する抽象化レイヤ「libvirt」、Webブラウザだけで仮想OSのインスタンス起動や負荷分散の設定・監視が行える「oVirt」などがある。

 ミッションクリティカル分野での取り組みについては、富士通との業務提携やRed Hat Linux Enterprise LinuxベースのリアルタイムOSについて触れた。同社は2008年11月に富士通と提携。基幹系で求められる5年〜10年に及ぶ長期間のサポートや、導入したシステムを機能的なアップデートを加えずにセキュリティや重大な問題に対処するパッチだけ適用する運用のサポートを提供する。

 また、2月18日には米国で発表済みの「Red Hat Enterprise MRG Realtime」の国内提供を開始すると発表。メッセージング、リアルタイム、グリッドの頭文字を取ったMRG(マージと発音)は、従来、メインフレームやUNIX専用機で構築していた基幹系システムを、汎用PCと汎用OSで置き換えるソリューション。同社では、グリッドによる高い信頼性と、リアルタイムOS化による予測可能な応答時間といった特徴を備えたシステムを構築できるとしている。

※記事初出時にクレンショウ氏の発言引用として「知財や特許の問題がクリアになり、合意に達することができた」とありましたが、不正確でした。知的財産権に関する条項を含めることなく合意に達したというのが発言趣旨で、今回の合意は技術協力に限定したものです。関係者ならび読者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫びして訂正します。記事本文は修正済みです。(2009年2月19日12:40)

(@IT 西村賢)

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