著作権者への利益還元の手法を拡大

涼宮ハルヒのユーザー動画もマネタイズ、YouTube

2009/02/23

 グーグル傘下のYouTubeでは、1分間に15時間分という大量の動画がアップロードされている。この映像コンテンツを既存のデータベースと照合し、マッチするものがあれば著作権者に通知し、それをビジネスに結びつける仕組みを着々と構築している。

高精度の大量のコンテンツを照合

 グーグルは2009年2月23日に東京都内の本社で会見を開き、著作権対策に関するYouTubeの最新の取り組みについて説明した。YouTubeではこれまで、アップロード時のユーザーへの警告や、アップロード可能な動画を最長10分間にするという制限、3度の違反でIDを削除する方針、削除ファイルについてすべてMD5ハッシュを保存しておいて再アップロードを防ぐ方式などで著作権侵害に対応してきた。

 これらはいずれもユーザー側の動きに制限を加えるものだが、YouTubeでは、これらとは異なる方向で著作権とビジネスの問題に取り組んでいるという。その鍵となるのが「コンテンツIDシステム」の提供だ。コンテンツの同定による、コンテンツホルダーの追跡を可能とし、その先のステップとしてマネタイズの方法も提供し始めている。

youtube01.jpg YouTubeのシニアプロダクトマネージャーで日本およびアジア太平洋地域担当の徳生裕人氏

 YouTubeのシニアプロダクトマネージャーで日本およびアジア太平洋地域担当の徳生裕人氏は、同社が行うコンテンツマッチング処理について「これほど大規模で運用されているのは、YouTubeが初めてではないか」と指摘する。

 YouTubeでは公式パートナーとなっているコンテンツホルダーは、あらかじめ動画や音楽などのコンテンツを登録しておくことで、ユーザーがアップロードするコンテンツに自社のコンテンツが含まれていないかを追跡することができる。各コンテンツは、特徴を抽出して照合する「コンテンツIDシステム」で管理されている。

 コンテンツの同定アルゴリズムは日々改良中だが、すでに十分な精度を達成しているという。同社は具体的な数値を明かしていないが「マッチングを間違うことはほぼない。驚くほど精度は高い」(徳生氏)という。例えばテレビのニュースクリップのような動画の場合、オリジナルの動画と、ユーザーが手持ちのカメラで撮影したような動画でもほぼ確実に照合できる。最短20秒以上のコンテンツであれば同定可能という。

 動画であれば、画面中の明暗の分布や時間変化などの特徴を抽出した「特徴ファイル」が生成される。この特徴ファイルは、元映像が100〜200MB程度の動画データあれば、数十KBとなるという。アルゴリズムの効率化と分散処理により、現在ではアップロード後15分以内でアップロード動画のマッチングを済ませて公開されるようになっている。著作権者が公開を“ロック”しているコンテンツであれば「YouTube上に出てくることはない」(徳生氏)。こうした処理の迅速化は、YouTubeがグーグルに買収された後に可能になったことで「グーグルと組んで一気に進んだ部分」(徳生氏)だという。コンテンツホルダーは、著作権を保有するコンテンツについて、過去にさかのぼって著作権を侵害した動画がないかを特定できるという。

youtube02.jpg 手ぶれの有無や明るさの違いなどがあっても、同一コンテンツを同定できるという

コンテンツホルダーにマネタイズ手法を提供

 YouTubeのコンテンツIDシステムは、コンテンツの同定や追跡を可能とするが、必ずしも当該コンテンツの削除を目的としたパトロールシステムだけを目指したものではない。YouTubeの公式パートナーは、システムによって自社コンテンツと照合すると認められたコンテンツについて「ブロック」「トラック」「マネタイズ」の3つのオプションを選択できるという。

 ブロックは、マッチしたユーザー動画を公開前にブロックして視聴不可とする機能。トラックは、ブロックはせずにトラフィック情報などを詳細に取得して知らせる機能。「どういうコンテンツがどの程度のトラフィックを稼いでいるのかを知りたいパートナーもいる」(徳生氏)。最後のオプション、マネタイズはマッチしたユーザー動画に広告を表示する機能。

 1つの例として徳生氏は、角川グループの人気コンテンツ「涼宮ハルヒ」のユーザー動画を挙げる。従来であれば、こうしたコンテンツは黙認するか削除要請するというオプションが一般的だった。YouTubeでは、ここから一歩進み、ユーザー動画に広告を表示するオプションをコンテンツホルダーに提供する。「再生回数は300万回を超え、1700以上のコメントを集めている。これを単純に消すだけではユーザーの熱意を裏切る話にもなる」(徳生氏)。こうしたコンテンツでは公式の動画よりも先にアップロードされることの多いユーザー動画のほうが人気を集め、結果的により多くの広告収入につながるケースもあり得るという。広告の収益はコンテンツホルダーのものになる。また、広告表示の際には事前にユーザー側に通知が送られる。

youtube03.jpg コンテンツホルダーが権利を持つ映像を利用したユーザー動画に対して、コンテンツホルダーが広告を表示している例

 マネタイズのもう1つの方法は、BGMなどで使われる音楽素材について、ユーザーとコンテンツ提供者を結ぶ一種のオンラインマーケットを作り出すというものだ。「AudioSwap」と呼ぶ機能では、コンテンツホルダーがユーザー動画でのBGM利用を認めたコンテンツをリストアップ。ユーザーは、自分の動画に合わせる音楽を自由に選択できる。こうして作成されたユーザー動画には広告が表示される。

youtube04.jpg コンテンツホルダーが許可した楽曲を利用して、ユーザーは動画にBGMを付けることができる「AudioSwap」の画面

 広告だけでは十分な収益がない可能性もあるため、楽曲であればAmazonのMP3販売サイトへの購入リンクを表示するなど、「パートナーがビジネスにつなげる方法を次々と開発している」(徳生氏)。広告マッチングでは、同社のコンテンツマッチ広告「AdSense」と同様に収入の半分以上をコンテンツ提供者へ還元する仕組みで、「YouTubeがもうけるというより、パートナーがもうかり、ユーザーの皆様に選んでいただいて、より多く使ってもらえるプラットフォームを目指す」(徳生氏)という。

 現在、YouTubeのコンテンツIDシステムを利用しているパートナーは米国を合わせて約300。AudioSwapなど一部の仕組みは米国でのみ事例がある段階だが、これらパートナー各社は「90%以上のマッチについてマネタイズを選択している」(徳生氏)という。

 「著作権者がより多くのコントロールを持つことはいいこと。今後は、例えば着うたビジネスとのかねあいから“モバイル不可”などきめ細かなオプションをコンテンツホルダーに提供していく」としている。「全コンテンツについてパートナーがコントロールしていて、YouTubeに上がっている動画のすべてに広告が出ているのが理想」(徳生氏)。

 YouTubeは著作権を侵害したコンテンツの比率が高いと言われている。同社では、こうした現状について、システム開発や、パートナー各社に対する説明のためにタイムラグはあるとしながら、「1年後もこの状態というのは問題だと考えている」と話した。

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(@IT 西村賢)

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