情報処理学会が新たに制度を発足
パラメトロンからPC-9801まで、技術遺産に認定
2009/03/02
1950年代にスタートした日本のコンピュータ開発の歴史は50年に及ぶ。手で多数の歯車を回転させて計算結果を得る機械式計算機となると、その歴史は1902年にまでさかのぼる。そんな日本の計算機・コンピュータの歴史に輝く技術的成果・製品を「情報処理技術遺産」として認定する――。情報処理学会は3月2日、東京・上野の国立科学博物館で「情報処理技術遺産および分散コンピュータ博物館」の認定式を行った。
自動ソロバンからパラメトロン、PC-9801まで
「米国にはコンピュータに特化した博物館があるが、日本は寂しい状況にある」。情報処理学会会長の佐々木元氏は技術遺産を取り巻く日本の状況について、こう説明する。学会ではこれまで博物館の必要性を提言するとともに、各方面に働きかけを行ってきたが、現在の経済状況からすると実現は厳しい。また、「たとえ何年か後に実現したとしても、そのときまでに遺産が廃棄、紛失している可能性がある」(佐々木氏)。こうした状況から、少しでも遺産を保存する助けとするのが認定制度発足の狙いの1つという。
これまで歴史的価値のある技術遺産は、博物館や大学、省庁、研究機関、個人など各方面で保存されてきた。こうした遺産を公式に認定することで「保存の努力に感謝させていただくとともに、広く知ってもらう」(佐々木氏)という。
日本の計算機研究の歴史には、世界的に見ても輝くような独創的なアイデアや製品などがあった。
例えば現存するもので日本最古の計算機と言われるのは1902年に矢頭良一が発明し、1903年に製造が開始された「自働算盤」。これは、実際のそろばんと同様に2-5進法を採用した機械式の卓上計算機だったが、乗除算での自動桁送りや計算終了時の自動停止ができたことなど、海外製の計算機より優れた特徴も備えていたという。
機械式を別とすると、計算機の歴史はリレー式スイッチから真空管、真空管からLSIやトランジスタの世界へと段階的に移行してきた。真空管からトランジスタへ移行する端境期にも、世界に例を見ない独創的な演算素子「パラメトロン」があった。1954年に後藤英一氏が発明したパラメトロンは、安価で信頼性が高い論理素子として多くの計算機で使われたという。「その後、LSIやトランジスタの発明で使われなくなったが、パラメトロンは独自技術として世界に誇れるものだ」(佐々木氏)。日本はトランジスタ化でも、開発競争で欧米に先行し、「重要な成果を上げてきた」(同)。
見て分かりやすいアナログ式機械計算機も
学会では技術遺産を、史料としてだけでなく、教育の材料としても貴重だと見ているという。「最新のコンピュータは微細化されていて、それを見ただけでは動作原理が分からない。古い装置はシンプルで寸法が大きく、動作原理を理解するのに適している」(佐々木氏)。例えば、国立科学博物館で常設展として展示されている「九元連立方程式求解機」は、日本初の大型のアナログ計算機だ。フレームに取り付けられた金属製のバーの傾きが方程式の各未知数を表しているといった具合だ。
学会では発明当時の独創性や性能の良さ、技術的波及効果の大きさなどから部品、基板、装置、システム、設計図、ソフトウェアなどを認定対象とする。また、認定された技術遺産などを多く収集・保存している組織は「分散コンピュータ博物館」として認定していくという。
今回、学会では100余りの候補から、実際に所有者のところを訪ねて保存状態などを確認の上、2008年度分を認定した。制度発足と同時に認定された技術・製品は、自働算盤(1904年頃)、川口式電気集計機及び亀の子型穿孔機(1905年)、タイガー計算器No.59(1924年)、大阪大学真空管計算機(1950年代)、パラメトロン素子(1954年)、ETL Mark II(1955年)、FUJIC(1956年)、FACOM128B(1959年)、NEAC-2203(1961年)、JW-10(1978年)、PC-9801(1982年)などで、機械式計算から真空管計算機、ミニコン、ワークステーション、パソコンまで含んでいる。
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