無用の恐れを与える害悪のほうが大きい
「GPLはもう要らない」、OSSの伝道師が異説
2009/03/25
オープンソースムーブメントの立役者の1人で、その開発モデルを分析した論文「伽藍とバザール」の存在で知られるエリック・S・レイモンド氏が、われわれ(オープンソースコミュニティ)は、「もはやGPLを必要としていない」という論議を呼びそうな自説を主張している。
GPLはデメリットが大きい
GPLは、もはやメリットよりデメリットが大きいという持論を「異端の説」としてレイモンド氏が唱えたのは「LILUG」(ロングアイランドLinuxユーザー会)での講演。レイモンド氏を招いたLILUGが、2009年3月10日の講演内容をブログで伝えている。ブログには講演の動画へのリンクがあるほか、主張のポイントとなる個所が全文引用されている。
レイモンド氏は、オープンソースコミュニティ全体を代表しているわけではないが、優秀なハッカーとして、また文筆家として広く尊敬を集めている。レイモンド氏は、1998年にOpen Source Initiativeを共同で創立し、オープンソースの開発モデルや経済的価値を一般社会に認知させる役割を担ったことで、オープンソース会のスポークスマン的立場にある1人だといっていい。
そのレイモンド氏は、こう言っている。「もし自分自身のムーブメントに異説を唱えることができないんだとしたら、有名であることや尊敬されているといったことに、いったい何の意味があるというのだ?」
こう前置きして開陳したのがGPL不要論だ。より正確には、GPLのような「互恵的」(reciprocal)なライセンスで、これは「寛容な」(permissive)なライセンスに対置して論じられている。
寛容なライセンスで十分
互恵的なライセンスとは、ソースコードの利用者に対して派生物のソースコード開示を求めるライセンスだ。他人の成果を使うのなら、自分が何か付加価値を付けたら再びコミュニティに還元せよ、そうすることでコミュニティ全体が豊かになるのだとする文字通り相互互恵的な、ある意味ではオープンソースの理念を純粋に表したようなモデルだ。
一方、寛容なライセンスとは、Apacheライセンス、BSDライセンス、MITライセンスのように派生成果物のソースコード開示までは求めない、緩やかなライセンス。
オープンソース界でも、GNUプロジェクトで知られるFree Software Foundation(FSF)のリチャード・M・ストールマン氏のように、GPLがベストな選択だとする立場の人がいる一方、これを原理主義的だと嫌う人々もいる。特に商業的にソースコードの利用を考えている人々の間ではいったんGPLを利用すると、次々と自社のソフトウェアのライセンスがGPLの影響下に入ってしまうのではないかというおそれから「GPL汚染」という言葉まである。
レイモンド氏は、そもそも論として、人々がライセンスを気にしすぎだと主張した上で、GPLには法律家やビジネスパーソンに対して「おそれ」を抱かせるデメリットがあるとする。つまり、企業秘密やビジネス上のノウハウ、あるいは“自家製の特殊な味付け”などといったものが、うっかり内部のソースコードを漏らしたことであるとき突然外部に明るみになってしまうのではないか、というおそれだ。
こうしたおそれによるオープンソースコミュニティへのネガティブな効果は、メリットを上回っているのではないかといいうのがレイモンド氏の主張だ。
GPLはソースコード開示を法的根拠に基づいて義務化している。FSFはGPLに基づくソースコード利用でライセンス違反があった場合、法的手段を講じることもある。実際これまで、ネットワーク機器やSTBなどの組み込み機器で、GPL違反を理由にFSFが提訴という強硬手段に出た例がある(参考記事:FSFがシスコをライセンス違反で提訴)。
オープンソース化しないと市場競争で負ける
では、誰もが他人のソースコードを利用するだけ利用して、自分が開発したものはコミュニティに成果として還元しようとせず、どんどんクローズドソースのソフトウェアが増えていくことはないのだろうか。それはオープンソースムーブメントの主唱者としてのレイモンド氏の主張と矛盾する。
レイモンド氏がGPL不要だとする論拠は、GPLが悪いというよりも、GPLがなくても人々(企業)にはソースコードを開示するインセンティブがあるだろうというものだ。クローズドな開発モデルは、もはやオープンソースに人的リソースの点で勝ち目がない。FSFによる訴訟沙汰とかコミュニティからの非難という懲罰ではなく、市場競争で負けるという懲罰があるから、GPLのような法的な拘束力は、もはや必要ない、というわけだ。
ライセンスの問題は、立場の異なる人々の間で常に議論を呼ぶが、今回のレイモンド氏の“異説”もまた波紋を呼びそうだ。
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