新たな「経済圏」は生まれるのか
アプリ開発者から見たmixiとFacebookの違い
2009/05/08
ミクシィは、個人の外部開発者がmixi向けアプリケーションを構築できる「mixiアプリ」オープンβの詳細を4月23日の「mixiアプリ カンファレンス 2009」で発表した。海外では「Facebook」がアプリケーションプラットフォームの開放によってユーザー数を急増させ、わずか1年で「MySpace」を抜き去った。ミクシィの代表取締役社長 笠原健治氏が「今後5年の中核事業」と位置付けるmixiアプリ。成功の鍵はユーザーだけでなく、アプリケーションを提供する開発者をいかに巻き込めるかにかかっている。Facebookとmixiは何が違い、その違いは開発者に何をもたらすのか。
開発者支援制度の違い
Facebookは2007年5月にプラットフォームの開放を宣言し、個人向けにアプリケーションの開発環境を提供し始めた。月ごとのFacebookへの訪問者数(ユニークユーザー、UU)は伸び続け、Facebookの2倍以上のUUを誇っていたMySpaceを1年で抜き去り、世界最大のSNSとなった。これまでに開発されたアプリケーションの数は2万5000種以上で、ユーザー数が1000万人以上のアプリケーションは複数ある。日本のアプリケーション開発者にとって、mixiがFacebookのような発展を遂げるかどうかは興味深いところだろう。
アプリケーション開発者から見て、Facebookとmixiの違いは大きく分けて2つある。1つは開発者にとってのビジネスモデルの違い、もう1つはアプリケーションの評価方法の違いだ。
Facebookは、有望なアプリケーションケーションを開発しているとFacebookが認めた開発者に補助金を提供するシステム「fbFund」を用意している。2008年度は25組の開発者が計200万ドルの補助金を受け取った。そのうちユーザー投票によって選ばれた上位5名は、1人当たり25万ドルを手にしている。
ミクシィは複数のモデルを提供する予定だ。「mixiオフィシャル・アドプログラム」は、アプリケーション上にmixiが広告を表示し、mixiが広告主から得る収入をアプリケーション開発者と分け合う仕組み。アプリケーションが閲覧された回数(ページビュー、PV)当たりの広告収入は0.01円からで、PVが多いアプリケーションほど、広告収入の単価も上がる。
またmixi内で通用する仮想通貨システム「mixiペイメントAPI」も用意する。ユーザーは何らかの形でmixiにお金をチャージし、仮想通貨(ポイント)を受け取る。ユーザーがアプリケーションにポイントを支払うと、アプリケーション開発者はその売上の一部をミクシィから受け取る仕組みだ。
ミクシィと開発者の配分率は2:8となっており、開発者が8割を受け取ることができる。「開発経費などを考えると、ほとんどミクシィ側の利益はない」(ミクシィのmixi事業本部長 原田明典氏)という。「mixiファンド」は、アプリケーション開発者に対し出資・融資・アプリケーションの買い取りなどを行う。第一弾として、大学生向けSNS「LinNo」を開発するコミュニティファクトリーへの出資を決めた。
fbFundが開発者にとって一攫千金を狙える制度なのに対し、mixiオフィシャル・アドプログラム、mixiペイメントAPIは開発者が恒常的に収入を得られる制度であるといえる。mixiアプリのユーザーが増えれば、アプリケーション開発者の収入も増える。アプリケーション開発者は安定した収入を見込めるため、新規参入も増え、優良なアプリケーションも増えるだろう。この2つの制度がうまく機能すれば、ユーザー・開発者の両方にとって望ましい好循環が生まれる。
「おすすめアプリ」を紹介
しかし、いくらアプリケーション開発者への魅力的なフィードバックが用意されていても、開発者からすれば自分たちの作ったアプリケーションがユーザーの目に触れなければ意味がない。「Web2.0」という言葉の生みの親としても知られるTim O'Reilly氏は、プラットフォーム開放から半年もたたないうちに、Facebookのアプリケーションは一握りのアプリケーションやその開発者の寡占状態にあると指摘している。
このような状況になった理由は、Facebookのアプリケーション評価システムに一因がある。ユーザーはよいと評価を受けているアプリケーションを使いたがるのが一般的。Facebookの場合、アプリケーションを評価する基準が、ユーザー数のランキングのみだった。ユーザー数の多いアプリケーションほどランキング上位にくるため、もともと人気のあるアプリケーションがさらにユーザー数を増やしやすい構造となっていた。
Facebookは2008年11月に「アプリケーション検証プログラム(Application Verification Program)」を発表した。Facebookがアプリケーションを一定の基準に従い審査するという制度で、アプリケーションを評価する新しい基準として注目された。しかし構想が発表されただけで、実施はまだ。人気のあるアプリケーションがさらに人気を呼びやすい構造は変わっていない。
mixiはこの点でFacebookと違う制度を用意している。「おすすめアプリ」だ。mixiのアプリケーション用ページを見ると、ユーザー数でアプリケーションを表示する「ランキング」やミクシィの定めた基準を守っているアプリケーションを表示する「認定」といったカテゴリのほかに、「おすすめアプリ」というカテゴリがある。これはそのユーザーのマイミクの間で流行しているアプリケーションを表示するカテゴリで、笠原氏は「『おすすめアプリ』カテゴリを用意することで、継続して人気のあるアプリケーションだけでなく、より多くのアプリケーションを目立たせたい」としている。
Webの新しい経済圏になれるか
ミクシィの原田氏は、mixiアプリ カンファレンス 2009で、「mixiは『マイミク大会』を目指す」と述べた。大規模にユーザーを集めることで成り立ってきた従来のCGMサイトや掲示板は「全国大会」であり、mixiはユーザーが身近な人と小さなコミュニティの中で盛り上がる「マイミク大会」にしたいという。
Facebookは、ユーザー、開発者両方にとっての「全国大会」であるといえるだろう。大半のユーザーが目にするのはごく人気アプリケーションであり、ビジネスチャンスがあるのも一部の開発者だけ、と現状ではいえる。
mixiはFacebookとは違い、小さな関係性の中でさまざまなアプリケーションがユーザーの目に触れるチャンスがある。アプリケーション開発者にとっても、mixi全体の規模が拡大すればするほど、安定して収入を得るチャンスがある「マイミク大会」だ。
mixiアプリの場合、RockYou Asiaのように、FacebookやMyspaceなどの海外SNSでの実績を武器に参入する企業もいる。技術や経験の差から、しばらくの間はそうした企業のアプリケーションが多くのユーザーを獲得するだろう。だが、mixiアプリそのものの認知度が上がれば、ユーザー数の上昇と共に開発者の新規参入も増え、友人同士の小さなコミュニティの内部でだけ流行するアプリケーションがいくつも生まれるかもしれない。それは小規模ながらも開発者に安定した収入をもたらし、さらなる開発者の参入を呼ぶ。「マイミク大会」の一部としてmixiアプリが成功すれば、日本のWeb上に新しい経済圏を作り出すことになるのだ。希望の持てる話ではないだろうか。
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