企業にネットブックの居場所なし

ネットブックは企業市場に食い込めるか?

2009/05/25

 かつてはオタク専用のポータブルな小型ノートPCと思われていたネットブックが、ここにきてPC市場で重要なセグメントになりつつある。米調査会社ABI Researchのアナリストによると、今年末までに3900万台のネットブックが出荷される見込みだ。一方、米市場調査会社IDCでは、今年のネットブックの販売台数は2100万台になる見通しだとしている。いずれにせよ、この市場が急拡大しつつあることは確かなようだ。その一方で、2008年はノートPCとデスクトップの販売が落ち込み、多くのアナリストは2009年もこの傾向が続くとみている。

 ネットブックがPC業界の救世主になるかもしれないという期待が高まる中(話題だけが先行している感もあるが)、全世界の企業がデスクトップとノートPCをどのような形でリプレースするのか(リプレースするかどうかではなく)という点に注目が集まっている。

 ネットブックは会社から客先へ手軽に持ち運べるので、企業に向いていると主張する人もいる。また、企業ユーザーが本当に求めているもの、すなわち、ヒューレット・パッカード(HP)、デル、レノボの高価格ノートPCに代わる安価な選択肢をネットブックが提供するという人もいる。しかしこれらは、企業の重要なニーズを考慮していない議論だ。コンピュータをオフィスからオフィスへと持ち歩けるかどうかは、企業にとってそれほど重要な関心事ではないのだ。安価というのも確かに重要なポイントだが、それよりも重要なのはその投資の効果だ。

 ネットブックに関していえば、投資効果はあまり高くない。

Windows搭載だが……

 ASUSやAcerなどのメーカーが提供するさまざまなネットブックが市場に出回っている。これらのメーカーの多くはWindowsを搭載したネットブックを販売しているが、Linuxが標準で搭載されているネットブックもある。Linuxモデルと比べると、Windowsモデルはやや割高だ。その差は大した金額ではないが(通常、WindowsマシンとLinux搭載ネットブックの価格差は50ドル以下)、多くの企業にとって困るのがWindowsのバージョンだ。ASUSの「Eee PC」にバンドルされているのはWindows XP Homeエディションだ。Windows XP Professionalがバンドルされているのは、Acerの「Aspire One」シリーズの1機種(Aspire One Pro)だけだ。それ以外のエディション(Windows Vista Businessエディションなど)を必要とする企業の場合、ネットブックは考慮の対象外とならざるを得ない。

力不足

 ネットブックにはもう1つ問題がある。Windows Vistaのようにリソース要求の高いOSを動作させるパワーがないのだ。ネットブックはパワーがはなはだしく不足しているのだ。例えば、ASUSのEee PCシリーズの最上位モデルは、1.6GHzのインテル Atomプロセッサとインテルの統合グラフィックスチップを搭載する。メモリは1GBでハードディスクは最大160GBという構成だ。しかしDVDドライブは備えておらず、OSはWindows XP Homeエディションが標準となっており、リソースを酷使する各種のエンタープライズアプリケーションを動作させる力はない。

 これはパワー不足に起因する深刻な問題だ。確かに、ネットブックはWebサーフィン用としては素晴らしいデバイスだ。また、電子メールの送信や簡単なドキュメントの作成といった基本的なタスクを実行することもできる。しかし重要なエンタープライズアプリケーションを開こうとする段になったとき、ネットブックの実用性は著しく低下することになる。ノートPCやデスクトップのような能力を提供できないのだ。ビジネスの世界ではノートPCはWebサーフィン用のオモチャではない。

 企業にとってネットブックにはもう1つ問題がある。ネットブックの居場所がないのだ。企業でのインターネット利用が広まるのに伴い、従業員はますますスマートフォンに依存するようになってきた。プロフェッショナルワーカーたちはオフィスのコンピュータのそばにいないときには、iPhoneやBlackBerryなどの携帯端末を使って会社と接続している。従業員たちがコンピュータを使える環境にあるときに必要なのは、彼らのニーズを処理する能力を備えた製品――例えば、2.4GHzプロセッサとDVDドライブを搭載したノートPCだ。業務をきちんと処理できるOS――例えば、Windows XP Professionalも必要だ。早い話、オフィスではノートPCかデスクトップが必要とされるのだ。

 ネットブックはこの2つのニーズのちょうど中間に位置する中途半端な存在なのだ。ASUSのEee PCはBlackBerryほど小さくはなく、携帯性に劣る。AcerのAspire OneはHPのノートPCほどパワフルではない。それにネットブックは本来、よりポータブルなコンピュータという位置付けの製品なので、企業にとってはそれを従業員のために購入する理由が分かりにくい。要するに、モバイルアクセス用の小型デバイスおよび本格業務用のパワフルなデバイスがすでにあるのであれば、ネットブックが入り込む余地はどこにあるのか、ということだ。この疑問にはまだ答えが出されていない。

生産性

 ネットブックの支持者たちは、ネットブックがユーザーの生産性低下を招くことはないと主張する。しかしほとんどのネットブックのキーボードが標準のキーボードよりも小さいことを考えれば、そういった議論は成り立たないだろう。これまで私は何度もネットブック上で長い文章を入力しようとしたことがあったが、手が引きつってしまい、非常に多くのタイプミスをしてしまった。キーボードが小さ過ぎるので、こういった長文入力には向いていないのだ。私はネットブックのキーボードに慣れることはできなかった。この点を認識すれば、企業がノートPCの代わりにネットブックを導入して同じ生産性を実現できるとは言い難い。従業員は文書を入力するのに苦労し、基本的な作業でも快適には実行できないだろう。もちろん、ネットブックのパワー不足のスペックが能率低下を招く恐れもある。ネットブックが仕事の足手まといになりかねないのだ。

 これは、企業でネットブックを検討する際に忘れてはならないポイントだ。ネットブックは一部の人にとっては便利かもしれないが、ことビジネスに関しては厄介な邪魔者にほかならない。

 企業にはネットブックの居場所はない。

原文へのリンク

(eWEEK Don Reisinger)

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