2009 JavaOneレポート

動き出すJavaFX、Java Storeとの組み合わせで狙うのはモバイル?

2009/06/03

 オラクルによるサン・マイクロシステムズの買収発表後としては初めてとなる「2009 JavaOne」が2009年6月2日に米国サンフランシスコでスタートした。会場や会場規模は例年通り、パートナー企業の展示エリアがやや縮小している印象はあるが、特に買収予定であることの影響は感じられない。

 技術関連のセッション参加者の熱意は変わらないし、JavaやOpenSolaris関連の開発も活発だ。今年はRIA環境としては後発のJavaFX関連で注目すべき動きもあった(これを書いているのは、まだ初日なので、2日目にもっと大きな発表がソニー・エリクソンからある可能性がある。つまり、JavaFX Mobile対応のモバイル端末の発表だ)。

サンの経営陣にはそこはかとない寂寥感も?

 一方、基調講演に登壇するサンの経営陣には「これが最後のJavaOneかもしれない」という、そこはかとない寂寥感も感じられた。今年で14回目となるJavaOneだが、買収後はオラクル主催のイベント「Oracle OpenWorld」に吸収され、JavaOneというイベントが単独で開催されるのは今回が最後となるかもしれない。

 基調講演の後半には、Java誕生の歴史を振り返るコミカルな動画で、3Dアバターにサン関係者の顔を合成した映像に、会場には笑いがあふれた。ただ、これは見方によってはシュールだ。これまで長きにわたってJavaコミュニティおよびサンの「お祭り」だったが、そのJavaの歴史を総括する映像にも見えたからだ。

 映像は、Javaの生みの親であるジェームス・ゴスリング氏がJava誕生前夜に試行錯誤を繰り返していたところから始まる。やがて、当時CEOだったスコット・マクニーリ氏のオフィスのドアを叩く。Javaという言葉が世に出るやいなや、IT業界や一般メディアに一大センセーションが巻き起こる。カメラのフラッシュがたかれ続ける記者会見で戸惑うゴスリングがコミカルに描かれていた。

 公式には来年のJavaOneがどうなるかや、その主導権がオラクルに移るかなど、すべては「未定」となっている。そもそも買収が完了するかどうかもまだ分からない。サンの関係者に聞いても、自分たちも知りたいぐらいだと言いたげに軽く首を振るばかりだ。

「Mr.オラクル」と「Mr.サン」が登壇

 オラクルによるサン買収の影響はまだ読み取れない。

 サンの技術系経営陣は相変わらずだ。例えば自分が書いたJavaFXベースのゲームを、ステージ上で楽しそうにデモンストレーションするゴスリング氏に対して、現CEOのジョナサン・シュワルツ氏が軽口を叩く。「まさか仕事中にこのゲームしてるわけじゃないよね」。普通に考えたら経営トップに言われたくないセリフだが、言った方も言われた方も、それを聞いている聴衆も、ニヤリとする場面だ。サンでは、経営陣からしてTシャツにジーンズが多い。

 ステージ上にJavaで走る「Javaカー」の現物を持ち込んだり、毎年最終日にはゴスリング氏が「トイ・ショー」と題して、次々と楽しいハックを紹介するような、いい意味での遊びの文化がサンにはある。例えば、去年のトイ・ショーでは、いきなり会場に小型ヘリが登場した。何事かと思えば、それはリアルタイムJavaの応用例だった。ラジコンのヘリから超音波を地面に飛ばし、その反射時間から地面の形状をデジタイズする。ステージにいたゴスリングが仰向けに寝っ転がると、ラジコンヘリはステージ上を移動する。殺人事件の現場検証で地面に白いチョークで描かれる被害者のように、50歳を超えたかっぷくのいいゴスリング氏の縁取り映像が大写しにされる。シカケの大きさ、やっていることのバカらしさ、それでいてリアルタイム処理性能が向上したJavaの特徴を利用した優れたデモンストレーションであることに会場は沸いた。新しい技術が出てきたとき、あるいは生み出されるときに、それと遊ばずにいられないのが技術者で、そうした中からまた新しい何かが出てくる。そういう遊びを許容する文化がサンには感じられる。

tshirt.jpg 毎年恒例のTシャツシューティング。ゴムでびよよーんと会場に向かって丸めたTシャツ(プレゼント)を飛ばすときのゴスリング氏(中央)の楽しそうなこと。左は共同創業者で会長のスコット・マクニーリ氏だ

 オラクルとサンの違いは企業文化だけではない。例えば次期バージョンのJava 7ではメモリが豊富なマルチプロセッサ環境でリアルタイム性を上げる新しいガベージ・コレクタ、通称「G1」が入ることになっている。証券取引のトランザクションのようなケースで性能向上が見込まれる。ところが、このG1のライセンスが商用プロダクトにのみに限定され、オープンソース版のOpenJDKには入らないのではないかという騒ぎが起こったことがあった。オラクルがオープンソースコミュニティとどう付き合っていくつもりなのか、この辺りのライセンスモデルをどう変えるのかといったことは、まだ誰にも分からない。

 来場者やJava関係者のそうした心配を見越してか、基調講演の最後には、サンの共同創業者で現会長のスコット・マクニーリ氏が登壇して、開発者コミュニティの心配を杞憂だとしてジョークで笑い飛ばした。「これはサンにとっても、非常に良いことだ」というと、数枚の写真を大写しにして会場から次々と笑いを取った。

pic01.jpg オラクル CEOのラリー・エリソン氏はヨット好きで知られている。世界最大のヨットレース、アメリカズカップにも出場するエリソン氏所有のヨットで、「タダでJavaの宣伝をしてくれるかもしれないよね」とマクニーリ氏
pic02.jpg あるいはスタジアムに、こんな名前が付くかもねと写したのは「Ultra SPARC」のロゴ付きのスタジアム
pic03.jpg ついにアップルのiPhoneにJavaを載せる話を付けてくれるかもしれないじゃないかとジョーク

 一連のジョークが終わるとステージにはオラクルのCEO ラリー・エリソン氏が登壇した。両者がにこやかに話す場面もあったが、エリソン氏はジョークに絡むでもなく、あまりマクネリ氏と目を合わせないまま一方的に準備していた発言をしたという印象だ。「われわれはデータベースを除いて、ERP、CRM などすべてのミドルウェアでJavaを使っている。今後もJavaへの投資は継続する」と明言したほか、「JavaFXがあるので、もう技術者はAjaxを使わずに済む」と発言した。

ellison.jpg 開幕初日に登壇したオラクルCEOのラリー・エリソン氏(左)と、サン・マイクロシステムズ会長で共同創業者のスコット・マクニーリ氏(右)

 いくらサンがJavaFXを強力に推進しているとはいえ、まだ実績はゼロ、オーサリングツールも今回ようやく出たばかりだ。確かにJavaScriptの扱い、特にブラウザ互換性の問題に頭を抱えている人も多いかもしれないが、今の状況でAjaxを頭ごなしに否定する感覚は現場の技術者には違和感が強いのではないか。サンは今までこうしたメッセージの出し方をすることはなかった。これが、オラクルを世界的IT企業に育てたエリソン氏の押しの強さに由来するのか、オラクルとサンという2社の文化的違いを象徴しているのか、私には分からない。

オーサリングツールが初のお披露目

 オラクル買収の影響やJavaOneの存続については不明だが、Java、JavaFX回りでは開発が活発で、特にバージョンが1.2となったJavaFXは要注目だ。

 基調講演では、これまでJavaFXに欠けていたオーサリングツール「JavaFX Authoring Tool」を披露した。JavaFXは文法がシンプルで記述量も少ないため、NetBeansのような統合開発環境で書いてもいいが、ボタンの位置やアニメーションの動きを指定するのに、オーサリングツールは欠かせない。特に開発者とデザイナーの協業を考えると不可欠といってもいい。RIA環境として見ると、この点ではJavaFXはSilverlightやAdobe AIRに大きく遅れを取っている。

 今回デモンストレーションが行われたのは、画像、動画、オーディオなどをタイムライン上で並べて1つの動的なコンテンツを作るという例だった。ドラッグ&ドロップでボタンをアプリケーション画面に落とし、それにアクション(例えばメディアの再生)やプロパティ(例えばスライダーバーに現在の再生時間)といったプロパティをひも付ける。デモでは、これらがマウス操作だけでできる様子を示して見せた。

fxauth.jpg 初のお披露目となったJavaFXのオーサリングツール。画像や動画、ボタンなどを配置できる

 マイクロソフトのSilverlightオーサリングスイートであるExpression Studioに比べるとプリミティブな印象だ。逆に、JavaFXを支えるランタイムには目を奪われるものがある。JavaFXプラットフォームアーキテクトのジョン・バーキー(John Burkey)氏が行ったデモンストレーションはJavaFXの可能性を強く感じさせてくれるものだ。

 1つは写真共有サイトの「Flickr」の写真を取ってきて球面上に張り付け、それをぐるぐる回すというもの。いかにもJavaっぽいデモで、それほど目新しくはないが、その動きのスムーズさは特筆すべきだろう。

 これはJavaFXで現在取り組んでいるPrismと呼ぶプロジェクトの成果を示すもので、バーキー氏が示したブロック図を見ると、滑らかさの理由がよく分かる。メディア関連処理のスレッド、GPUスレッド、レンダリングスレッド、それらの上にシーングラフのスレッドが載っている。つまり、JavaFXはスクリプティングのような環境でありながら、マルチコアCPUやGPUの力を引き出すインフラとしては、非常に有望だということだ。

sphere.jpg 球面に画像を貼り付けてぐるぐる回すデモ。非常に動きが滑らかだ
block.jpg JavaFXの強みはランタイムがマルチコアやGPUの性能を引き出せるように最初からマルチスレッド化されていること

 オーサリング環境の充実については、まだ先が長そうだが、現在RIAの1つの応用分野として注目されているWebサービスのクライアントを実装するデモンストレーションを見ると、開発者にとってはJavaFXはすでに利用価値の高いプラットフォームであることが分かる。

 下の画面はFacebookのAPIを使ったRIAのデモンストレーションだ。Facebook は最近、タイムライン(ライフストリームなどとも呼ばれる、ユーザーのアクティビティ情報のリアルタイムアップデート)を外部から取得できる「Stream API」を公開した。デモでは、これを使ってデスクトップ向けのFacebookクライアントを動かしてみせた。実装にかかった時間は2日、時間にすると18時間だったという。

facebook01.jpg JavaFXで書かれたFacebookクライアント。2日間、18時間で実装したという
facebook02.jpg 上と同じFacebookクライアント。こうしたビューはJavaFXの得意とするところ

デジタルTVにも「JavaFX」、コンセプトデモ

 どこまで機能を盛り込んだかは不明だが、Facebookクライアントが18時間で実装できるというのは開発者にとってはありがたいだろう。さらに重要なのは、今さらのようだが「Write Once, Run Anywhere」というJavaのプラットフォーム非依存性だ。「JavaFX Mobile」や「JavaFX TV」で、モバイル端末やテレビの画面で、同じアプリケーションがほぼそのまま走る可能性が高い。

 初日の基調講演ではJavaFX Mobileについての言及はなかったが、JavaFX TV については、コンセプトデモが行われた。MIPSベースのデジタルTVを使い、メニューから天気予報、株情報、ゲームなどのほか、ビデオオンデマンドやFlickrクライアントが使えるテレビだ。インターフェイスは滑らかで、例えばビデオオンデマンドではリモコンを使ってジャンルを選んでコンテンツを選んだり、視聴済みの映画のレーティングをしたりといった操作をして見せた。

fxtv.jpg JavaFX TVのコンセプトデモ。かなり動的で滑らかなUIだ

 これまでにもデジタル家電向けでは、Blu-ray製品でJavaを採用した例がある。動的なメニューやオンラインコミュニケーションといった簡単なアプリケーションが実現できている。今後ディスクからネット配信へとコンテンツのインフラがシフトすることを考えるとJavaFX TVは自然なステップだが、日本をはじめとするアジアの家電メーカーがJavaFX TVを採用する可能性があるかどうかは未知数だ。

ドラッグ&ドロップでインストールできるJava Store

 もう1つ、JavaFXにからんで大きな発表があった。JavaFXおよびJavaアプリケーションをオンライン販売できる「Java Store」だ。開発者は自分のアプリケーションをWebページのフォームを使って登録できるようになる。申請後に審査を経て承認されると(サンは基本的に拒絶はしないとしている)、後は好きなタイミングで開発者は公開状態とすることができる。まだ登録料や販売価格に対する開発者の取り分など詳細は明かされていない。

javastore.jpg
dnd.jpg Java Storeではドラッグ&ドロップでJava/JavaFXアプリケーションをインストールできる

 公開されたアプリケーションは、JavaFXで書かれたJava Storeのデスクトップクライアントでダウンロードできる。ダウンロードといっても、デスクトップへのドラッグ&ドロップのみであるほか、プレビュー機能も備えているため、インストールの心理的ハードルは低そうだ。プレビュー機能は名前がプレビューとなっているだけで、実際にはアプレットのダウンロードと消去と思われる。有料アプリでは機能限定版ダウンロードや有効期限付きとする機能が入るのかもしれない。

 Javaアプリケーションのネットワーク販売で成功したのは日本のNTTドコモぐらいしかない。Java Storeは現在、デスクトップ向けとしてアナウンスされているが、これをモバイル端末向け(あるいはテレビ向け)として提供していく可能性もあるだろう。そうなれば、NTTドコモにとってのiモードに似たインフラとなる可能性もありそうだ。

 基調講演には米国スマートフォン市場でシェアを持つBlackBerryシリーズを擁するRIMのバイス・プレジデント、アラン・ブレナー(Alan Brenner)氏が登壇。BlackBerryの端末が「Xobni」と呼ぶUIフレームワークがJavaで拡張できるようになることを紹介していた。例えばアドレス帳の中からダイレクトにFacebook上のコンタクトリストをインクリメンタルサーチするというデモを行った。日本でいえば、ケータイのアドレス帳からmixiのマイミクの連絡先を取得するような感じだ。

 JavaFX Mobileについてはまだ動きはないが、少なくともJavaアプリケーションについては、既存のキャリアにとってJava Storeがアプリケーション販売のインフラとなるかもしれない。オンライン販売ストアを備えた、あるいはこれから備えるスマートフォンには、iPhone、Android、Symbian OS(Nokia)、Windows Mobileなど競合が多い。iPhoneに続いたAndroid Marketはまだ見るべきアプリケーションが少ない(数は多いが)など、市場は立ち上がったばかりだ。iPhoneのApp Storeに続く市場を誰が形成できるかが注目される中で、サンが「JavaFX Mobile+Java Store」を打ち出してくる可能性はあるだろう。

【追記】この記事が出た後、JavaOne2日目夕方のセッションで、サンはJava Storeにモバイル向けの「Mobile Store」とデジタルテレビ向けの「TV Store」を追加した「Java Warehouse」を発表した。「Submit Once, Sell Everywhere」(一度の登録で、どこでも売れる)がコンセプト。開発者は登録したJava/JavaFXアプリケーションをPCデスクトップ、モバイル端末、テレビ向けに販売できるようになるという。

warehouse.jpg 追加で発表されたJava Warehouseは、1度の登録で同じJava/JavaFXアプリケーションをPC、モバイル、テレビに売ることができるようになるという

 Java Storeのようなチャンネルは、よほどのキラーアプリケーションがない限り、PCやデバイスを買ったときに標準で分かりやすい形でインストールされていないと市場形成は難しい。基調講演にはJavaで書かれたMMORPGの「Rune Scape」というアプリケーションを作った開発者が登壇し、アワードまで受け取っていた。つまり、サンとしてはRune Scapeが今のところ一番マスに訴えるようなJavaアプリケーションということなのだろうが、正直、私は聞いたことがなかった。アクティブユーザーが800万人、うち20%が有料会員ということで規模は大きいが、SNSのようなマスではない。この意味ではデスクトップ向けJavaアプリケーションのオンライン販売市場としてのJava Storeは、立ち上げに苦労しそうだ。むしろ業務系アプリケーションのフロントエンドを配布するインフラとしてのほうが説得力があるかもしれない。開発者にとってはJava Storeには、これまでにない魅力もある。それはユーザーのアクティビティについての統計情報が取得できることだ。どのウィンドウをどのぐらいの時間開いているかなどを把握して、それに基づいてアプリケーションを洗練させることができる。

 JavaFX、Java Store関連の発表やデモンストレーションで開幕したJavaOneだが、ほかに大きな動きとしてはJavaSE/EE関連のアップデートや、JRubyやScalaといったJVM上の開発言語のサポート強化などがある。これらについては別にレポートしたい。

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(@IT 西村賢)

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