Startforceの創業者のジン・コウ氏に聞く
“WebOS”は仮想デスクトップ市場で復活するか?
2009/07/08
YouOS、eyeOS、G.ho.st、Glide、AjaxWindows……。今から2、3年ほど前、Webブラウザ上でJavaScriptやAjaxを使ってデスクトップ環境を実現する“WebOS”(WebtopとかWebデスクトップとも呼ぶ)が話題を呼んだ(例えば、AjaxWindowsの参考記事)。Windowsのスタートメニューに相当するランチャーを備え、簡単なGUIを備えたWebアプリケーションが起動するといった製品・サービスだ。
ネイティブOSからWebブラウザへとアプリーションプラットフォームの比重が移る中、こうしたアプローチが技術的必然に感じられた一方、「結局ネイティブアプリケーションが不可欠」、「WebアプリケーションならWebブラウザだけで済む」といった理由から、この領域で成功しているベンチャーは、これまでない。やや重たいながらもWebブラウザ上でデスクトップ画面らしきものが動くのは技術ショーケースとして一見の価値はあるものの、実用上の意味は疑問だ。
ところがここに来て、ベンチャー企業の「Startforce」が、異なる技術的アプローチでエンタープライズ市場に、“仮想デスクトップソリューション”として売り込みをかけようとしている。同社創業者で代表取締役のジン・コウ(Jin Koh)氏に話を聞いた。
ライバルはVMwareやCitrixの仮想デスクトップ
「Startforceは、Webブラウザ上の仮想デスクトップです」。WebOSやWebTopという呼び名よりも、むしろコウ氏はStartforceを、こう位置付ける。
VDI(Virtual Desktop Infrastructure)と呼ばれる仮想デスクトップソリューションは現在、ヴイエムウェア、シトリックス、レッドハットなど仮想化技術を持ったベンダが取り組んでいる分野だ。サーバ側で仮想化技術を使ってデスクトップOSを稼働させ、そのデスクトップOSの画面だけをRDPやICA、RGSといったプロトコルで転送、これを対応するシンクライアントで表示する。セキュリティ向上やコンプライアンス対策など、個別に行うと管理コストのかさむデスクトップクライアントの運用コストを下げるソリューションとして市場の伸びが期待されている。
「非常に大きな伸びが期待される分野ですが、ヴイエムウェアやシトリックスとわれわれのアプローチの違いは、CRMで言えばSiebelとSalesforce.comの関係に似ています。前者は非常に高価な初期投資と6カ月にわたる導入期間が必要なオンプレミス型。一方Salesforceならすぐに使い始められて、月額18ドルだけとシンプルです」(コウ氏)。シトリックスなどはサービスプロバイダへの働きかけを強め、SaaSモデルの確立も視野に入れているが、現在のところはオンプレミス型だ。
アプリケーション | オンプレミス型 | SaaS型 |
---|---|---|
CRM | Seibel | Salesforce.com |
VDI | ヴイエムウェア/シトリックス | Startforce |
Startforceの位置付け
ヴイエムウェアやトリックスが提供する仮想デスクトップインフラでは、自社運用のサーバが必要で、導入のための準備期間やハードウェア調達コストが必要となる。これに対してStartforceはSaaSとして仮想デスクトップ環境を提供できるため、「クリックして即使い始められる」(コウ氏)のが魅力だという。現在、ワールドワイドでユーザー数は6万5000人。東京とサンノゼでサーバを運用し、99.99%のアップタイムを保証する。
RDPの圧縮や動画再生も可能にするプロトコル拡張など、オンプレミス型の仮想デスクトップでは遅延低減の工夫が続けられているが、StartforceはAjaxベースであるため、この点でも有利だ。特にJavaScript処理エンジンが高速な、モダンなWebブラウザ上では動作が軽快だ。
ターゲットは法人ユーザー
Startforceは試用版としてコンシューマ向け無償サービスを提供しているが、ターゲットは法人ユーザーだ。VMwareのVDIを入れるには規模が小さい、200人から1000人規模の企業が適しているという。「モバイル環境で働く専門職スタッフ、日々同じ業務を同じアプリケーションで行っている事務スタッフ、工場など作業現場で1つの端末を複数人で共有する人などにメリットがある」(コウ氏)。OSやアプリケーションのほか、セキュリティ関連ソフトウェアのインストールなどで導入に時間のかかるPCのプロビジョニングに比べて、IE/Firefox/ChromeといったWebブラウザさえあれば利用できることから、Startforceは一時的なスタッフに提供するようなケースにも適するという。ユーザーの追加・削除は管理者向けのダッシュボードから行える。
ネイティブアプリもWebブラウザ内で
従来のWebOSのアプローチとStartforceが異なるのは、オフィスアプリケーションをはじめとするWindows上のネイティブアプリケーションも取り込んだ点だ。Javaアプレット上で仮想デスクトップを起動し、サーバ上で本物のMicrosoft Officeを稼働させる。現在、利用可能なネイティブアプリケーション数は自社アプリケーションを含めて約80というが、今後はApp Storeとして開放し、サードパーティのアプリケーションも取り込むという。APIを利用すれば、既存WebアプリケーションをStartforceのデスクトップに統合した形で提供できるようになる。シングルサインオンを実現した形で複数のWebアプリケーションを統合することもできるだろうという。
Startforceが提供するのは、Microsoft Office(オプションで提供予定で価格は未定)、OpenOffice.org、KingSoft Office2007、PDFビューアといったプロダクティビティ製品、メッセンジャー(Yahoo、Google、MSNなどに対応)、コンタクトマネージャー(連絡先)、IMAP対応メールクライアント、フォーラムなどのコラボレーションツール、Webブラウザ、カレンダー、テキストエディタ、ニュースリーダー、メディアプレーヤーなど。ファイルはアップローダーを使ってローカルPCから転送できる。ストレージは標準で1GBが利用できる。ファイルの共有では、社内/社外での共有のほか回数制限やパーミッション制御、共有パスワードの設定、QuickURLなどきめ細かく利用できる。これまで会社間でデータ共有基盤を持たなかったような中小規模ユーザーにとって、ファイル共有という課題も解決できるという。PCの持ち出しを制限しつつ、セキュアに情報共有が行える。
Google Appsのような純粋なWebサービスと比べて「デスクトップUIがあることが重要で、従来のPCを置き換えて年間20万円かかっていたコストを3万円に抑えられるというのがポイントです」(コウ氏)と説明する。Startforceの利用料は1アカウント当たり年間360ドルで、1GBのオンラインストレージが使える。
ログイン画面にはソフトウェアキーボードを備え、キーロガー対策をするなどセキュリティにも配慮している。誰がどういう操作をしたかアクセスログも取れる。セキュリティやコンプライアンス、災害対策という観点で仮想デスクトップソリューションに注目が集まる中、StartforceのようなSaaSモデルにも勝機があるか。キワモノ的存在として注目を集めたWebOSだが、時代が追いつく可能性もあるかもしれない。
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