同類のプロダクトを自社開発中か
アップルがGoogle Voiceを拒否した真の理由は?
2009/08/05
アップルのApp StoreからGoogle Voiceアプリが却下されたことをめぐる騒動は、米連邦通信委員会(FCC)が首を突っ込む事態に発展した。アップル、あるいはAT&Tが波風を立ててまでGoogle Voiceを却下し、FCCと重要なパートナーの1社を怒らせるリスクを冒したのはなぜなのか、両社のスタンスが矛盾に満ちているのはなぜなのか、私はずっと考えていた。
少し考えた後、答えがひらめいた。アップルはMobileMeに、Google Voiceと似たようなサービスを加えるつもりなのだ。
まず、Google Voice――旧称「GrandCentral」――がどんなものかを説明しよう。
現時点での構成では、グーグルはVoIP対応の中継ポイント兼ボイスメール受信箱で、複数の電話で1つの番号を使えるようにする。
グーグルはユーザーに電話番号を1つ割り当て、ユーザーはその番号にかかってきた電話を、好きな電話番号に転送するよう設定できる。自宅、オフィス、携帯電話の番号を設定すると、Google Voiceはユーザーにつなぐために、かかってきた電話を設定したすべての番号に同時に転送する。電話に出なかった場合、Google Voiceは留守録メッセージを受け取る。留守録メッセージは自動的にテキストに変換して、SMS(ショートメッセージサービス)や電子メールで送信することができる。あるいは、Google Voiceサイトにログインするか、電子メールのリンクをクリックしてメッセージを聞くことも可能だ。
Google Voice経由で電話をかけることもできる。発信したい番号に加えて、通話を受ける電話も指定することが可能だ。
Google VoiceはSkypeやGizmoとは違って、従来的な意味でのVoIPクライアントではない。同サービスはどこにでも通話を転送できるため、VoIPを使ってグーグルのネットワーク上で通話を転送するが、すべての通話は指定された通話先でPSTN(公衆電話網)あるいは携帯電話ネットワークに接続する。確かに、これにより携帯キャリアが課金できる通話は減るかもしれないし、ボイスメールシステムの利用にも影響するかもしれないが、実際はユーザーがどういう設定をして、どこで電話を受けるか次第だ。
Google VoiceアプリがApp Storeから却下された件で、AT&Tがスケープゴートにされたのは自然な流れだ。このアプリがiPhoneにインストールされれば、いずれAT&T加入者の通話時間の減少につながるのは確実だ。だが、AT&TはGoogle Voiceに関してアップルに不満を言ったかもしれないが、自社のネットワークから完全にGoogle Voiceを追い出すようなことはしていない――同社はほかのデバイス(BlackBerry)のGoogle Voiceアプリを拒否していないし、Google VoiceのWebアプリ(www.google.com/voice)へのアクセスを遮断してもいない。
長くGrandCentralを使ってきたユーザーなら知っているだろうが、GrandCentralのサイトはFlashを多用していたため、モバイルブラウザではほとんど使えなかった。モバイルユーザーは同サイトではメッセージをチェックできなかったし、iPhoneユーザーは留守録メッセージをダウンロードすることができなかった。iPhoneがその機能に対応していなかったからだ。
しかし、今年の春にGoogle Voiceが公開され、iPhoneのブラウザでもサイトがまともに動くようになった。メッセージをチェックしたり、設定を変えたり、電話をかけることができるようになった。デバイス上で動く(Google Voice)アプリがあれば、ユーザー体験はさらにすっきりと簡単になるはずだし、このアプリは電話帳とも統合されるだろう。ただ、Google Voiceをモバイルで使うのに、アプリが必須というわけではない。
だが、Google VoiceがApp Storeに登場するのを阻止したいのがAT&Tだけなら、アップルは米国外で同アプリを承認し、米国ではリリースしなければいいだけではないだろうか。アップルが米国で承認したアプリを他国ではリリースしないケースはたくさんある(カナダでのSkypeとか)。アップルにその気があれば、逆のこともできるはずだ。
その代わりに、アップルはGoogle Voiceアプリを「既存サービスとの競合」という理由で全面的に却下した。どのサービスと競合しているのかという具体的な説明もなしに。これまで(PodcasterアプリやNullRiverのテザリングアプリ「NetShare」で)見てきたように、アップルは、たとえ却下の時点で類似のサービスを提供していなくても、遠慮なくこの口実を使っている。
後で分かったことだが、アップルはこれらアプリを却下したとき、競合する機能を開発中だった。却下してからかなり後、同社はポッドキャストのダウンロードを昨年11月のiPhone OS 2.2で追加し、テザリングを今夏リリースの3.0に盛り込んだ。AT&Tが米国内でテザリング対応を表明していないのに、だ。
こうした経緯を考えると、アップルこそがGoogle Voiceとサードパーティーの関連アプリ(GV Mobile)を拒絶した「主犯」であり、その理由はアップル独自のワンナンバーツールを開発しているからだと考えていいだろう。アップルは、こんな騒動が起きる前は、来年初めにそのようなツールを発表するつもりだったのだろうと思う。
今のMobileMeはつまらないし、高い。その現実を受け入れよう。ストレージ容量は限られているし、無料のほかの通信サービスと似たり寄ったりだ。MobileMeの一番面白い機能――iPhone OS 3.0で導入された追跡サービス「Find My iPhone」――でさえ、Microsoft Exchangeも併用したい人にはまったく役に立たない。iPhoneではExchangeかMobileMeのどちらかしか使えないからだ。
ワンナンバーサービスを加えれば、MobileMeの価値と使いやすさは大きく高まるだろう――市場での存続能力もだ。この市場はまだ新しいため(Google Voiceは招待制でしか利用できない)、アップルが増え続けるiPhoneユーザーを取り込めれば、すぐにかなりのシェアを取れるだろう。
だがまず、アップルは一番得意なことをちょっとやっておかなくてはならない――エコシステム内の競争を抑えることだ。
(eWEEK Andrew Garcia)
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