オープンソースコミュニティーにも脅威に
Word販売差し止め判決、ODFに悪影響を及ぼす可能性も
2009/08/17
カナダの小さな企業i4iが保有する特許を米マイクロソフトが侵害したとする米地裁判決は、マイクロソフトのみならずオープンソースコミュニティー全体にとって脅威となる可能性がある。
米調査会社Gartnerのアナリスト、ブライアン・プレンティス氏は8月12日付のブログ記事で、「この特許の有効性が支持された場合、ODF(Open Document Format)にもその影響が及ぶのだろうかという疑問が生じる。ODFに影響するとなれば、これは非常に深刻な問題であり、特許反対派の怒りが噴出するだろう」と述べている。
XMLベースのODFはもともと、表計算ソフトやワープロなどのプロダクティビティスイート用のオープンソースフォーマットとして開発されたものだ。その開発の過程で、ODFはオープンソースソフトとプロプライエタリソフトの両方で採用されるようになった。マイクロソフトでは、Office 2007のSP2で初めて追加したODFのサポートを「Office 2010」に移植し、Word、Excel、PowerPointなどのOfficeアプリケーションでファイルをODF形式で保存したり、ODFドキュメントを開いたりできるようにする計画だ。OpenOffice.orgなどのオープンソースベースのプロダクティビティスイートも同フォーマットを採用している。
XMLはパブリックドメインのフォーマットであり、i4iの特許は「カスタムXML」を中心としたものだが、同技術の活用企業としてのi4iの立場を強固にする裁定は、開発中の「ODF 1.2」などの技術に対する特許侵害訴訟を同社が提起することを可能にする。ODF 1.2は、Microsoft Office 2007アプリケーションで採用されているのと同様のカスタムXMLフォーマットを採用すると伝えられている。
このため、ODF 1.2あるいはそれに類似した技術を利用する企業は、マイクロソフトを脅かしているのと同様の訴訟に巻き込まれる恐れがある。米テキサス州東部地区連邦地裁は8月12日、マイクロソフトが「カスタムXMLを含む.XML、.DOCX、.DOCMなどのXMLファイルを開くことができるMicrosoft Word関連製品の米国内での販売および米国への輸入」を禁じる差し止め命令を下した。
この判決により、マイクロソフトは60日以内にMicrosoft Word 2003とMicrosoft Word 2007の販売を停止する必要がある。さらに同裁判所は、マイクロソフトに対して3億ドル近くの賠償金の支払いを命じた。四半期収益が悪化している同社にとって、これははした金ではない。しかしマイクロソフトは、この判決と差し止め命令に対して控訴する意向を表明しており、2カ月間の差し止め猶予期間よりも裁判が大幅に長引く可能性が高い。
マイクロソフトには逃げ道もあるようだ。それは、8月4日に米国特許商標局が同社に認可した特許(特許番号7,571,169)だ。この特許は「XMLを理解するアプリケーションによって操作することができる、XMLファイルに保存されたワープロ文書」について記述している。この技術がWordに組み込まれていれば、マイクロソフトはi4iの訴えを回避できるかもしれない。
「この問題については別の見方もあるが、それはこの騒ぎの中でかき消されてしまうだろう」とプレンティス氏は記している。「他社の知的財産を無視する風潮がソフトウェア業界にはびこっているのではないかという懸念だ。.docxだけでなくODFも特許を侵害しているのであれば、マイクロソフト、サン・マイクロシステムズ、OASISの側にかなり重大な不注意があった可能性があり、そこにはごう慢な姿勢すら感じられる」(同氏)。
「マイクロソフトがi4iの特許の存在を認識していたとすれば、なぜマイクロソフトはこれらの特許を(訴訟で命じられた賠償金よりもずっと少ない金額で)買い取り、同社がLinuxに対する特許侵害訴訟でやっているように、ODFを対象としたライセンス契約を要求しようとしなかったのかという疑問が生じる」とプレンティス氏は付け加える。
テキサス州東部地区は、これまで多くの小規模企業が巨大IT企業を相手取って特許侵害訴訟を提起する場所となってきたが、これらの訴訟のほとんどはいつの間にか立ち消えになった。しかしi4i訴訟の判決が、当初予想されたよりもはるかに広範な影響を及ぼすことを予感させる兆候もある。
(eWEEK Nicholas Kolakowski)
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