1台売れたら50ドルの損失?
ネットブックが売れてもマイクロソフトは大丈夫
2009/09/03
もしあなたが今、この記事をノートPCで読んでいるとすれば、そのPCはネットブックではないだろうか――米DisplaySearchの8月31日付の調査メモを読むと、そんなふうに推測したくなる。2009年4〜6月期は、ノートPC市場全体で昨年同期と比べて22%増加の力強い成長を示したが、ネットブック(同調査メモでは「ミニノートPC」と表現している)は同時期に40%増という飛躍的な成長を遂げた。
同調査メモによると、全世界のポータブルPC市場に対する北米市場の比率は29.4%で、その内訳はネットブックが26.6%でノートPCが30.2%となっている。ネットブック市場に参入する企業も増えており、米エイサー、米デル、東芝、中国のレノボ、米ヒューレット・パッカード(HP)といった大手メーカーも相次いでこの市場で名乗りを上げている。これは当然の流れだ。不況の影響でPC市場全体が冷え込む中、ネットブックの販売増加はメーカー各社の収益の短期的な底上げにつながるからだ。
しかし一部の専門家の間からは、ネットブックの市場拡大は米マイクロソフトにとって世界の終焉(しゅうえん)を意味するという声も聞こえてくる。
「これは大変なことだ」と彼らは叫ぶ。「ネットブックの販売が増えればマイクロソフトはますます多くのマシンにWindows 7の廉価版を提供しなくてはならなくなり、同社の利益率が低下する。このマクロトレンドが続けば、来年の今ごろはスティーブ・バルマーCEOがスターバックスのコーヒーをテイクアウトするような羽目になるだろう」
私はここでマイクロソフトを称賛するつもりはないが、同社を歴史の墓場に葬ろうとも思わない。
確かに、ネットブックはマイクロソフトの利ざやを大幅に減少させる可能性がある。米調査会社NPDが先ごろ公表したデータによると、コンシューマーが派手なノートPCよりも超小型ポータブルの方を選ぶたびに、マイクロソフトは約50ドル損をすることになる。この数字に3800万台(DisplaySearchの調査による2009年4〜6月期のネットブック市場の規模)を乗じると、19億ドルという金額になる――これらのコンシューマーがすべて、ネットブックを買わなかったとしたら本格機能を搭載したノートPCを購入していたであろうと仮定した場合だが、この仮定には疑問を感じる。
仮にこの金額から10億ドルを削ったとしても、マイクロソフトにとって決して“はした金”ではない。同社の2009年第4会計四半期の売上高は131億ドルで、昨年同期と比べて17%の減少となった。しかしネットブックの普及でマイクロソフトの利益が大きく減少したとしても、同社が深刻な経営危機に陥るというわけではない。ほかにもさまざまな部門からの収入があり、マスターチーフ(訳注:マイクロソフトのゲーム機Xbox 360で人気のゲーム「Halo」シリーズの主人公)の活躍も続いている。
それに、ネットブック自体が同社の影響力の拡大につながる可能性もある。
マイクロソフトのクリス・リデルCFO(最高財務責任者)は7月23日の決算発表の電話会見で、同社の厳しい状況が来年には好転する可能性があることを示唆した。SMB(中堅・中小企業)および大企業においてIT機器の一斉更新が予想されるからだという。
「企業向けPCの市場は、コンシューマー市場を上回るペースで成長すると期待される」とリデル氏は会見で語った。「販売台数の成長率が高まるのに伴い、平均販売価格も上昇するだろう」
さらに重要なのは、販売担当者などの外勤ワーカー向けの超小型デバイスを除けば、企業でのネットブックへのニーズは比較的低いということだ。企業ユーザーが必要としているのは、電子メールとWebブラウザだけでなく、プロダクティビティスイートや、大量のメモリを消費する専用アプリケーションが動作するデバイスなのだ。また、企業のPCの現在の使用年数は平均すると6年で、日増しにPCの老朽化が進んでいる。そして企業がPCのアップグレードを決断したとき、専用のシンクライアントを採用する場合を除けば、ほとんどの企業は、マイクロソフト Wordとビジネス分析アプリケーションを同時に実行しても、処理能力の限界を超えたプロセッサから煙が上ったりしないようなマシンを購入したいと思うだろう。
またPC製造業界が、安価なネットブックのパーティーを終えようとしている点も見逃せない。
7月31日に開催されたマイクロソフトの財務アナリストミーティングでバルマー氏は、今年中にはメーカー各社が大型画面を搭載した高価格のウルトラポータブルPCを投入し始めるとの見通しを示した。
「ユーザーが軽量という利点を手に入れるとともに、当社にお金を払ってくれるのを望んでいる」とバルマー氏は語った。
近く登場する「Nokia Booklet 3G」は、従来のネットブックよりも高い価格に設定されると伝えられており、こういったミニノートPCの登場は、高価格・高性能タイプのネットブックへのトレンドがすでに始まったことを示している(訳注:このコラムはBooklet 3Gの価格が発表される前に執筆された)。メーカー各社も高マージンを求めているのだ。そしてこれらのミニノートPCで高速なプロセッサが採用されれば、マイクロソフトは当然、その機に乗じて、より強力なWindows 7バージョンをOSとして組み込むよう促すことだろう。
(eWEEK Nicholas Kolakowski)
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