社内と外部のクラウドを統合管理できる世界へ
ヴイエムウェアのクラウド深耕作戦が始まった
2009/09/04
ヴイエムウェアがクラウドコンピューティングへのアプローチを本格化している。同社が9月1日より米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催中の「VMworld 2009」では、VMware vSphereをベースとしたAmazon EC2ライクなIaaSサービス「VMware vCloud Express」を、5社がベータあるいは限定ベータとして提供開始したと発表した。また、Amazon EC2との組み合わせで語られることの多いクラウド環境構築・管理サービスの米RightScaleも、vCloud Expressサービスに対応すると発表した。
ヴイエムウェアの仮想化プラットフォームをベースとした仮想マシンホスティングサービス自体は新しいものではない。同社によると、世界中で1000以上の事業者がすでに提供しているという。だが、これらのサービスは契約が月単位であり、真にオンデマンドでユーザーが利用できるものではない。これに対し、今回発表のvCloud Expressサービスは、時間単位の課金、支払いへのクレジットカードの利用、そしてセルフサービス的なサーバ環境構築・運用を可能にするWebポータルの提供といった特徴を備える。まさにAmazon EC2対抗といえる。
vCloud Expressサービスが実現した理由の1つは、事業者に対するヴイエムウェアの新たなライセンス料金体系だ。vCloud Expressを提供する事業者は、ヴイエムウェアに対し、これまでのような月単位ではなく時間単位で、ユーザーの利用量に応じたライセンス料の支払いができるようになる。事業者はそれぞれの判断でサービスメニューを構築し、料金を設定できる。
独自にサービスを設計できるといっても、似たようなサービスが同じ名前で多数の事業者から登場してくると、ビジネス的なうま味がないのではないかという疑問も生じる。しかしある事業者の担当者は、vCloud Expressでアプリケーションを開発してもらい、本稼働では、自社のVMware vSphereをベースとした従来型の仮想マシンホスティングサービスを使ってもらう流れが作れると話している。
RightScaleはAmazon EC2などのIaaSサービスを利用し、Web GUIによる容易なアプリケーション環境の構築と運用管理を実現するサービスの提供企業として知られている。ユーザーは、RightScaleのインターフェイスを通じて、単一の、あるいは複数のIaaSサービスにまたがる仮想的なサーバファームを構築できる。運用中にサーバの負荷が高まると、自動的に仮想マシンを増やしてスケールアップし、逆に負荷が低下すると自動的にスケールダウンするように設計することもできる。今回同社は、ヴイエムウェアが提供するAPIへの対応により、vCloud Expressサービスも利用できるようにするという。
vCloud Expressはヴイエムウェアにとって、クラウドコンピューティング・サービス市場への取り組みの端緒といえる。同社が最終的な目標としているのは、オンデマンドで仮想マシンを企業の社内データセンターからパブリックなクラウドサービスに移動したり、逆にクラウドサービスから社内データセンターに戻したりできる環境、さらにはパブリッククラウドサービス(の一部)を社内データセンターの延長として、統合的にアプリケーションを運用できるような環境の実現だ。VMware vSphereが一般企業のデータセンター内で大きなシェアを持つことを利用し、社内と社外を結ぶ、相互運用性の確保されたIT基盤の提供者になることを狙っている。相互運用性さえ確保されれば、事業者間の乗り換えや併用も可能になる。例えば、企業が災害に備え、アプリケーションを稼働したまま、自社のデータセンターから遠隔のIaaSサービスへ移動するとか、Webベースのサービスを提供する企業がレスポンス確保のために、ユーザーの多い地域に物理的に近いIaaSサービス事業者を併用するといった利用シナリオが考えられる。
vAppと vCloud APIがヴイエムウェアのクラウド戦略のカギ
こうしたデータセンター間連携の技術的なフックになるのは、vAppとvCloud APIだ。
vAppはVMware ESXベースの仮想マシン群を仮想マシンの標準フォーマットであるOVF(Open Virtualization Format)形式でパッケージ化したもの。OVFはVMDK、VHDといった仮想マシンイメージファイル形式を統一するものではない。しかし仮想化プラットフォームから独立した形で、CPU/メモリ/ディスク/ネットワークの構成要件情報を付加できる。複数の仮想マシンをひとまとめとして扱うことも可能だ。この複数の仮想マシンで構成されたアプリケーションが必要とするサービスレベルを指定することもできる。
vCloud APIはVMware vSphereをベースとしたクラウドへのvAppのアップロード/ダウンロードや運用、仮想アプライアンスのカタログ化などの機能を提供するAPI。今回のVMworldで発表された。現在テクニカル・プレビュー段階だが、ヴイエムウェアはこれを、OVFの標準化も行ったDMTF(Desktop Management Task Force)に標準化草案として提出したという。
vCloud APIはサン・マイクロシステムズが最近発表した「Sun Cloud API」に似た、RESTfulな仮想インフラ管理用APIだ。例えばPOST vDC-uri/action/composeVAppとすると、vDC-uriで指定した仮想データセンター(IaaSサービスや社内データセンター)の特定の仮想マシンテンプレートに基づいて、vAppを作成できる。ヴイエムウェアはサンやIBM、SAPなど40近くの企業・団体と、オープンなクラウドを目指す宣言「Open Cloud Manifesto」を発表しており、ヴイエムウェアとサンのそれぞれ提唱するAPIが統一される可能性もある。
IaaSサービス事業者は、vCloud APIを使ってセルフサービス・ポータルを提供することができる。RightScaleのような企業は、このAPIを用いて複数のIaaSサービスにまたがる管理サービスを提供可能だ。開発者は、開発したアプリケーションを、開発ツールからIaaSサービスにアップロードできるようになる。また、企業のITインフラ運用担当者が、社内データセンターと外部のIaaSサービスに借りた自社環境を統合的に管理できるようなツールも、ヴイエムウェアは提供する予定だという。
RightScaleが実現しているような仮想データセンターの構築・管理を、より低レベルではあっても一般の企業が社内のデータセンターと外部クラウドを統合した形でできるようにすること。これがヴイエムウェアの目指すクラウドの姿だ。
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