コンテンツ追跡精度の向上でマネタイズに広がり
違法コンテンツの“もぐら叩き”収束か、YouTubeの未来とは
2009/10/20
テレビ番組や音楽といったコンテンツが、著作権保有者の知らないところでコピー、公開され、財産権が侵害される。その温床の1つと見られてきたYouTubeが変わりつつある。
試しに自分が好きなミュージシャン、特にアメリカのミュージシャンを検索してみてほしい。相変わらず著作権が有効な多くのコンテンツが表示されるが、同時に、その楽曲を販売するiTunesやAmazonへのリンクが増えていることに気付くだろう。これは著作権保有者がコンテンツをYouTube上から削除する代わりに、YouTube上でマネタイズすることを選んでいることの表れだ。
著作権保有者は、自分の所有する音楽や映像をYouTubeに登録することで、これらと同一、もしくは部分的に一致していると判定されるコンテンツをリアルタイムで追跡できる。過去2年近くにわたってYouTube(グーグル)が取り組んできたコンテンツIDというシステムが技術的に実用段階に入り、さらに進化しようとしているいま、風向きが変わってきた。
日本民間放送連盟など日本のメディアは、かつてYouTubeに対して敵対的だったが、2009年9月29日にはテレビ朝日、TBSテレビがチャンネルを正式に開設。NHKに続き、日本の5大テレビ放送局がYouTubeでチャンネルを持つまでになっているほか、バンダイや角川といった50のプレミアムパートナーがいる。
権利者にとって、YouTubeがマネタイズのプラットフォームとして今後大きく飛躍するカギとなるのがコンテンツIDだ。グーグルでYouTubeのパートナーシップコンテンツ&プラットフォーム担当ディレクターを勤めるベンジャミン・リン(Benjamin Ling)氏に話を聞いた。
ほとんどのパートナーがマネタイズを選択
――コンテンツIDの仕組みを教えてください。
リン氏 まず著作権者がYouTubeに自分のコンテンツをアップロードします。われわれは、そのコンテンツのフィンガープリント(指紋)を作成してデータベースに入れます。このデータベースは現在10万時間分、本数にして約100万本以上のビデオを保持しています。
誰か別の人がコンテンツをアップロードするたびに、このデータベースに照合します。音楽とビデオは別々にマッチするので、映像のBGMとして利用しているようなものも検索可能です。もし、コンテンツIDのデータベースにマッチするものがあれば、そのコンテンツの所有者に知らせます。コンテンツ所有者は、ユーザーがアップロードした対象コンテンツを削除することもできますし、広告やECサイトへのリンクを入れることでマネタイズすることもできます。単に追跡対象とするだけで、そのままにしておくこともできます。これらの指定は手動でも自動でも可能です。
――マネタイズは実験的な段階?
リン氏 それはパートナーによります。YouTube上では音楽は人気コンテンツですが、音楽レーベルなどはUGCに対して広告を入れる方法を選んでいます。具体的な数字は言えませんが、われわれはかなりの額面の小切手を彼らに送っていて、リアルな収益となっています。音楽以外のコンテンツでは、実験中というものもありますが、そのほとんどがUGCが収益源となっています。現在1000以上いるパートナーの半分以上がマネタイズを選択していて、データベースに登録されているコンテンツのほとんどがマネタイズされています。米国ではメジャーな映画会社や音楽レーベルのほとんどがコンテンツIDを使っています。
YouTube上でコンテンツをアップロードしている“ファン”(fan)というのは、ファナティック(fanatic:熱狂的)な人々で、そのコンテンツが好きで仕方がないものです。著作権のことは意識していません。
――MP3の音楽コンテンツ販売サイトへ誘導する方法など興味深いですが、フルコンテンツがそれなりの音質で公開されてしまっては、正式コンテンツが売れなくなりませんか?
リン氏 例えば2分間とか3分間以下ならコンテンツ利用は無償として、それ以上であればマネタイズ、あるいはブロックといった設定が可能です。半分プロモーション、半分マネタイズということができるのです。映画の製作スタジオであれば、3分間より短いのであればユーザーにマッシュアップ・コンテンツを作ってもらっても構わないけれども、それ以上の長さであれば、素材として使ってほしくないということもあるでしょう。
著作権保有者が、きめ細かにコンテンツをコントロールできるように、「Shared Ownership」(共同所有)の機能も付加しました。例えば最近、スーザン・ボイルというアマチュアの女性歌手がテレビでもYouTubeでも話題になりました。このコンテンツはイギリスとアメリカに異なる権利者がいて、異なるポリシーを適用したいというニーズがありました。今後、例えばアメリカではオーケーだけど、日本ではブロックするといったことが可能になります。
著作権管理は複雑な問題です。もしある楽曲の作曲者が4人の場合はどうでしょう? 4人とも権利を持っているような場合です。地域、権利の種類といったように、非常に著作権管理は複雑で、これこそコンテンツIDが解決しようとしている問題です。
――ところで、そもそも広告やリンク程度では十分な収益にならないという指摘もあります。
リン氏 広告表示だけでなく、ペイ・パー・ストリーム(VOD)のような決済やサブスクリプションにも取り組んでいて、コンテンツIDは、このプラットフォームを支える技術の1つです。
――決済にはGoogle Checkoutを使うのですか?
リン氏 ええ、まだ検討中ですが、もちろんGoogle Checkoutは1つの選択肢です。すでにあるサービスが使えるなら、そうするのがグーグルの流儀です。
――有料コンテンツ、特に長尺のものであればYouTubeでなくてもいいのでは? YouTubeの強みは、短いクリップをどんどん見て、滞在時間が長いことですよね。となると、有料コンテンツで、Huluなど競合との差別化はどこに?
リン氏 Huluは米国向けサービスですが、YouTubeはグローバルプラットフォームという違いがあります。また、YouTubeにはテレビ番組、スポーツ、ニュース、ハウツーと、多彩なコンテンツがあります。ユーザーにしてみれば、最大のビデオコレクションです。無限の選択肢があるという感覚をユーザーに持ってもらいたいですね。それと、次々とコンテンツを“発見”しやすいという点もYouTubeの強みです。
テレビはバカ、シュミットCEO発言が意味するもの
――YouTubeは最適な視聴者、最適なコンテンツ、最適な広告をマッチできるとおっしゃっていますよね。ユーザーの属性や嗜好が分かれば広告も最適化できるということかと思いますが、では逆に言えば現在のテレビは非効率ということでしょうか?
リン氏 ネットには視聴者にマッチにしたコンテンツを配信するというチャンスが確実にあります。技術的に見れば、テレビはこうした機能を提供できません……、ですから、ええ、テレビは本来技術的に可能なほど効率化されていませんよね。
――グーグルのエリック・シュミットCEOは「テレビはバカだ」と言っていますね。テレビは視聴者が最後に見ていた番組すら覚えていない。シュミットCEOは、なぜテレビは同じ番組を私に2回も見せようとするんだとか、赤ちゃんがいない家庭で、なぜオムツの広告を流すんだということに対して、それはテレビが50年前に発明されたからだと言っています。これに対してネットは最適化によって非常に儲かるコンテンツビジネスが可能だと主張していますよね(CNN Money.comのインタビュー動画)。
リン氏 シュミットCEOの発言がその通りだったかは知りませんが、ここにチャンスがあることは間違いありません。テレビは視聴者が誰かも知らなければ、何に興味があるかも知らない。YouTubeでは、そうした属性を知ることができて、それをアルゴリズムで処理し、関連性によって情報やコンテンツを提示できます。
――とはいえ、テレビは設置や視聴が容易です。テレビとPCの間には大きなギャップがあります。5年後に、われわれはどういうスタイルでドラマや映画、ニュースといった動画コンテンツを消費しているのでしょう? モバイル端末の果たす役割は?
リン氏 15年ほど前の1994年を思い出してみれば、レンガサイズの携帯電話で、できたことは通話だけでした。しかし今やモバイル端末は何でしょう? メール、Web、写真、ビデオの撮影や視聴――、これはコンピュータです。いろいろなユーザー体験が1つのデバイスに統合されたのです。
正確に予言はできませんが、5年後にモバイル端末、テレビ、PCといったデバイスが、同じように機能するようになっていても驚きません。
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