受賞各氏がオープンソースへの思いを語る

2009年度日本OSS貢献者賞、授賞式を開催

2009/10/30

 情報処理推進機構(IPA)は10月29日、IPA Forumにおいて「2009年度日本OSS貢献者賞」の授賞式を行った。

 日本OSS貢献者賞は、日本におけるオープンソースソフトウェア(OSS)の振興/普及を目的に設けられた賞で、OSSの開発および普及に貢献した個人を対象にしている。これまでに、Rubyの生みの親であるまつもとゆきひろ氏やUSAGI Projectの吉藤英明氏、YARV開発者の笹田耕一氏、GRUBの奥地秀則氏らが受賞してきた。

 今年度の日本OSS貢献者賞受賞者は、Linuxカーネル開発に携わり、Kernel Watchの執筆も行っている小崎資広氏、Mozilla Japan代表理事の瀧田佐登子氏、Linuxカーネルに取り入れられたカーネルクラッシュダンプやディスクI/O制御/仮想化に携わったフェルナンド・ルイス・バスケス・カオ氏、PostgreSQLに関する日本語ドキュメントの整備を行っている本田茂弘氏の4名。

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 また今年度からは新たに、過去1年間に顕著な活躍をした個人ないしグループを表彰する「日本OSS奨励賞」が設けられた。

 奨励賞は、個人では教育用ポータル向けCMS「NetCommons」開発者の新井紀子氏、「CakePHP」のコミュニティ活動に貢献した安藤祐介氏、Flash/Flex/ActionScript向けのオープンレポジトリ「Spark project」を立ち上げた新藤愛大氏、PHPマニュアルなどの日本語翻訳に取り組んできた高木正弘氏、オープンソースの運用監視ソフトウェア、ZABBIXの日本コミュニティ「ZABBIX-JP」の代表寺島広大氏、現役の高校生でありプログラミング言語「Cyan」を開発し、Rubyの高速化も行った林拓人氏の6名が受賞した。また団体では山形県立寒河江工業高等学校・情報技術科と北海道のコミュニティLOCALの2団体が選出された。

オープンソースの恩恵とは

 授賞式後には、受賞者によるプレゼンテーションが行われた。

 小崎氏は「Linuxカーネルの開発は難しくなりすぎて、若い人がなかなか入ってこないことが世界的に課題。そこで、開発者を増やしていこうという活動を展開中だ」と述べた。

 同氏は、Linuxカーネルメーリングリスト(LKML)での議論を通じた自身の経験を踏まえ、言葉が通じないというのは言い訳に過ぎないし、通じなければ再度投稿すればいいと指摘し、参加を促した。例えば、Linusの右腕とまで呼ばれるAndrew Morton氏だが、スレッドの流れの中で、そのオーストラリア英語が「分からない」と言われることがあるという。そもそもLinus氏にせよMorton氏にせよ、はたまた著名なLinux開発者であるAlan Cox氏にせよ、母語が異なり、メールの中で使う単語もまったく異なる。そこに各国の開発者が絡んでくるのだから、一種のカオス状態になるのは当たり前。「日本人が使う英語だけが変というわけではない。『旅の恥はかきすて』モードで参加を」と述べた。

 また、若手開発者の発掘/参加という意味では、夏に開催された「セキュリティ&プログラミングキャンプ 2009」の意義は大きいとも述べた。同氏はこのキャンプに講師として携わったが、参加した学生が実際にパッチを開発し、LKMLに投稿まで行った。「中学生ハッカーを排出したのは日本だけ。これは誇っていいことだと思う」(小崎氏)。

 Mozilla Japanの瀧田氏は、1990年代というブラウザの黎明期から2002年前後の暗中模索期を経て現在に至るまでの道のりを振り返った。「1998年にNetscapeをオープンソース化したが、当時、その意義はなかなか理解されなかった。しかし、いまは『オープン』という言葉が、政治やマーケティングに至るまで、いろいろなところで使われ始めている」(同氏)。

 瀧田氏は、時代とともにブラウザでできることが大きく変わり、またオープンソースに関わる人も変わったと述べる。「以前、オープンソースソフトウェアのエンジニアは、すなわち使う人だった。自分たちが必要だから作っていたが、いまでは幅広い人が使うようになり、テスターやローカライゼーションに携わる人など、いろんな人が関わっている」(同氏)。そしてその中から優れたテクノロジーが生まれ、育ってきたとした。

 同氏はさらに「日本の企業にはまだあまり、オープンソースをうまく使いこなす発想がない。オープンソースはうまく使えるのだということを企業の人に理解していただけるよう促していきたい」とし、「参加型のもの作り」を支援していきたいと述べた。

 カオ氏は、カーネルクラッシュダンプや仮想化環境におけるディスクI/Oの問題に、自身がどのように関わってきたかを説明した。

 同氏らは、従来のクラッシュダンプ取得の仕組みが抱えていた信頼性の限界を打破するために、mkdumpという新しい仕組みを提案。その障害検出機能や安定性といった部分を、カーネルに取り込まれたkdumpへ移植するといった活動を行った。

 また、クラッシュダンプは障害解析に有用な情報を提供してくれるが、それを取得するには、ハードウェアをいったん確実に停止させる必要がある。しかし停止動作はハードウェアに依存するため、デバイスドライバの中に手を加える必要がある。ましてや、多種多様なハードウェアそれぞれについて網羅的にテストを行い、修正していくのは困難だ。そこでカオ氏らは、「Kdump Test Project」を発足。OSDLに試験センターを設け、テストを行ってはバグをつぶすという活動を展開した。

 カオ氏はこうした活動を振り返り、ただソースコードを開発し、公開するだけでなく、「こういう風にコミュニティを動かすことは重要な貢献の一種だと思う」と述べた。

 さらに「オープンソースの作法に従うと、オープンソースの恩恵を享受できると改めて実感した」という。エンジニアとしての成長や人脈の広がりに加え、その分野の最先端に立ち、常に最新の技術を追跡していけるというメリットがあるという。「コスト削減というのは、オープンソースを使う目的ではなく結果。コスト削減のためだけにオープンソースを使っても、その恩恵を受けられなくなる」(同氏)。

(@IT 高橋睦美)

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