Silverlightに注力、急ピッチで機能強化
IE9発表、JS高速化も現状ではHTML5関連は言及なし
2009/11/19
マイクロソフトは11月18日、米国ロサンゼルスで開催中のPDC2009において、次期バージョンのWebブラウザ「Internet Explorer 9」(IE9)の開発状況を初めて明らかにした。Windows 7発売後に始まったIE9の開発は、まだスタート3週間でありながら、JavaScriptの高速化や一部CSS3への対応、Acid3を使ったテストスコアの向上など、全般にIE8よりもWeb標準準拠が進み、パフォーマンスも向上しているという。
Acid3のスコア改善、JavaScriptは大幅高速化
PDC2009、2日目の基調講演でまずステージに立ったのはWindows&Windows Live担当の米マイクロソフト プレジデントのスティーブン・シノフスキー氏。ウルトラセブンのテーマに乗って登場したシノフスキー氏は、多くのフィードバックを得ながらWindows 7を洗練させた開発プロセスや、標準APIによるタッチデバイスサポート、DirectXによるGPGPUの応用例などを紹介した。
Windows 7に続いてシノフスキー氏はIE9に言及。Acid3テストでIE8が20/100点だったものが、すでにIE9では32/100点に向上しているとした。Acid3テストは、Web標準のうちDOMやECMAScriptなど動的コンテンツのレンダリングに比重を置いたテストスィートで、Web技術の進化にどれだけキャッチアップしているかの指標となる。すでにSafariやOpera、Firefox、Google Chromeといったデスクトップ向けのWebブラウザや、モバイルの世界ではiPhoneなどが、100/100点か、それに近いスコアをマークしていることを考えれば、IE9の32/100点は周回遅れの感は否めないが、シノフスキー氏は今後も継続して標準準拠を進めると話した。
CSS3関連では、Webデザイナからニーズの強い「border-bottom-right-radius」をサポート。囲み罫線のエッジを丸くすることができるようになる。また、CSSセレクタの大部分に対応したという。
パフォーマンスの面では、JavaScriptエンジンを強化。WebKitチームが提供するベンチマーク集「SunSpider」では競合ブラウザとの差を縮めたという。
このほかIE9ではGDIではなく、Direct2Dによるフォントやグラフィックスのレンダリングをサポート。文字のズームや地図のスクロールなどが従来に比べてスムーズになる様子をデモンストレーションしてみせた。
HTML5よりもSilverlightで勝負
IE9でのパフォーマンス向上やWeb標準への対応強化を強調する一方で、HTML5のcanvasやvideoタグ、関連仕様のWeb WorkerやWeb Sockets、Web GLなどへの言及はなかった。この点では、現状のIE9の方向性は、HTML5やオープンWebをアプリケーションの有力プラットフォームと考える開発者を失望させるものとなりそうだ。
逆にIE9と同時にベータ版提供開始を発表したRIA環境のSilverlight 4は、急ピッチで機能強化とパフォーマンス向上、開発環境の充実が図られており、HTTPベースの”アプリケーションプラットフォーム”として、同社が独自のRIA路線をひた走る姿勢が、ますます明確となりつつある。
シノフスキー氏に続いて登場した.NETデベロッパープラットフォーム担当のスコット・ガスリー氏は、最新バージョンのSilverlight 4を紹介した。Silverlight 4は即日ベータ版提供を開始し、2010年上半期にはRC版をリリースするという。Siliverlight 4の主な新機能、改善点は以下のとおり。
- 起動の30%高速化、JIT最適化で処理速度は約2倍に
- IE、Firefox、Safariに加えてChromeにも対応
- Webカメラとマイクのサポート
- マルチキャストストリーミング対応
- プリンタサポート
- 多言語対応のリッチテキストエディタを提供
- クリップボードアクセス
- コンテキストに応じてカスタマイズできる右クリックメニュー
- マウスホイール対応
- エクスプローラからのドラッグ&ドロップ対応
- Silverlight中へのHTMLコンテンツの埋め込み
- グリッドなどデータバインディングの強化
- UDPマルチキャストサポート
- WCF(Windows Communication Foundation)対応強化
- ブラウザから独立させたサンドボックス状態でのWindows API呼び出し
- サンドボックス最小化時にもポップアップ表示されるノーティフィケーション
- ユーザー承認に基づく権限昇格によりサンドボックスからファイルシステム、デバイス、COM呼び出しなどローカルアプリケーション相当の機能を実現
一部サイトの動画プレイヤー程度でしか応用例がなく中途半端な感が否めなかったSilverlight 1や2に比べて、バージョン3、4と急速に機能が充実していることが分かる。IEの進化が長らく停滞していたのと対照的で、この開発リソースのつぎ込み方を見ても、同社はWebブラウザを本格的プラットフォームとする気がなく、あくまでもRIAを本命としていることが分かる。
例えば位置情報をアプリケーションで扱う方法でいえば、Geolocation APIをWeb標準として策定しつつ実装するFirefoxやWebKitに対して、マイクロソフトのスタックでは、IEではなく、WindowsのLocation API+Silverlightで利用することになる。HTML5陣営とSilverlightを持つマイクロソフトは、ともにリッチなインターネットアプリケーションを指向しているが、いよいよ両者は大きくベクトルが異なる進化を始めたと言えそうだ。
.NET開発者には機が熟したRIA環境
ともあれ、Silverlight 4のこうした新機能を最大限に引き出した例として同社は、Silverlightで実装したFacebookクライアントをデモンストレーションしてみせた。タイムラインや写真アルバムは動的にスムーズに動くほか、ドラッグ&ドロップによる写真のアップロードや、USB接続したカメラから直接写真をアップロードする様子を実演。Webブラウザと独立して動き、ウィンドウ枠も完全にカスタマイズされたものであることから、ほとんどデスクトップアプリケーションのようなリッチさを実現している。コメントに対しての返信では、Webブラウザのようなテキストボックスだけではなく、その場でWebカメラを使った写真や動画を撮ってアップロードすることもできる。また権限昇格により独立したネイティブアプリのようにCOM呼び出しが可能という新機能を使い、Facebookから直接Outlookに予定を書き入れるというデモンストレーションも行った。
デモンストレーションを見る限り、FlashやAdobe AIRよりもキビキビとして応答性が高いように感じられた。動作がスムーズなのが印象的だ。機能的にも急ピッチでFlash/AIRに詰め寄っていて、今後の両者の競争激化が予想される。Flash利用の多い動画ストリーミングでも、Silverlightはスムーズ・ストリーミングの機能により、オンデマンドでもライブストリーミングでも一時停止やスロー再生など柔軟な操作が可能というユーザーメリットもあるなど、すでにFlashを凌駕する面もある。またこれはSilverlightではなくメディアサーバのIIS Media Services側の機能だが、HTTPストリーミングとHTML5のvideoタグを使い、iPhone上のMobile Safariに対してH.264コンテンツのストリーム配信が可能という。デモンストレーションでは異なるiPhoneを次々4台取り替えたもののいずれも失敗という結果だったが、WebKitベースのモバイル端末上へストリーミング可能ということを示したのは意味があるだろう。
Silverlightはテレビ局などスポーツ中継で採用例を増やしているほか、金融に特化した情報サービスを提供するブルームバーグの端末や、シーメンスの医療機器の端末で遠隔医療などに使われる例があるという。Silverlightプラグインのブラウザへのインストール率も、夏の33%から現在は45%まで上がっているという。特に.NET開発者を多く抱える企業にとってSilverlight 4は機が熟した技術となる可能性が高いと言えそうだ。
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