国際通話市場でトップシェアの理由
Skypeはなぜ伸びているのか?
2010/01/20
Skypeの利用が大幅に伸びているようだ。Skypeの公式ブログに1月20日に引用された調査データによれば、国際通話における通話時間ベースでのSkypeのシェアは8%から12%へと拡大。過去1年で50%と速いペースで伸びているという。調査は国際コミュニケーション市場の調査会社TeleGeography Researchによるものだという。Skypeは2003年創業で、2005年の時点でもシェアは3%に過ぎなかったという。
Skypeはすでに国際通信市場で他を大きく引き離したトップの位置にある。
ただし、これをもって既存の通信キャリアのシェアが奪われていると見るのは正しくない。こう指摘するのは、2009年10月にアムステルダムで行われた「eComm Amsterdam 2009」(Emerging Communications Conference)で講演したSkypeのSten Tamkivi氏だ。Tamkivi氏は、Skypeは「キャリアから市場を奪っていない。もし、高い通話料を支払う必要があれば、(Skypeの1000億分にのぼる)通話時間のほとんど全部が生まれなかったはずのものだろうからだ」、という。
例えば、音声通話に比べてビデオを使った通話は、1通あたりの時間が長い傾向にあるという。典型的な例としてTamkivi氏は、4歳児の電話による通話はせいぜい3、4分が注意力の続く限度だが、祖父母とのビデオ通話であれば、一緒に遊んだり、お絵描きをしたりであっという間に1時間の通話になると説明する。先進国市場で起こっているのは、こうしたリッチな体験を実現することで人々が従来にないコミュニケーションの楽しみ方をして、それによってSkypeの通話時間が伸びているのだという。
驚くのはビデオが果たしている役割だ。Tamkivi氏によれば、1000億分の通話のうち、実に3分の1が、すでにビデオを使ったものとなっているのだという。クリスマスや母の日には、この数字は50%に跳ね上がる。Skypeがビデオ通話機能をリリースしたのは2005年であることを考えれば、非常な普及速度だ。
そして、コンタクトリストにある“通話相手”の数は1桁に過ぎないのだという。これはFacebookのように何十人、何百人とつながった状態とは大きく異なっていて、Skypeが親密なコミュニケーションを行うためのツールとして利用されているのだということを示している。
見落とされてきた63%のロング・テール
Skypeの伸びの理由の1つは、「親密なビデオ通話」という、これまで不可能だったか、設定が難しかったり高価だったりしたために普及しなかった新しいコミュニケーションが成立しているからだというわけだ。これは国際通話を手がけるキャリアの収益が年率4%程度と低い成長率にとどまっているにも関わらず、Skypeだけが爆発的成長を遂げている背景を説明しているように思われる。Skypeは無料通話を基本としているが、一般の電話や携帯電話への通話に対して課金するなど収益源を確保。過去11期連続で黒字を達成しているという。
さらに興味深いのは、従来の通信キャリアが手付かずのままに放置していた市場を掘り起こしているというTamkivi氏の指摘だ。
国際通話は約200の国や地域を結ぶ4万に及ぶ「通話経路」が存在するが、既存の通信キャリアはもともと各地域にフォーカスしたビジネスを行っていて、国際通話といっても特定の、利用頻度の高い通話経路ばかりに注意を向けていたのだという。
例えば、Skypeでいちばん太い通話経路は米国とメキシコで、年間の総通話時間は5億時間にのぼるという。しかし、同様に通話が多い経路をトップから順に30経路を並べても、それは全体の37%のシェアにしかならないという。つまり、それぞれの通話経路としては細いものの、数が多いために足し算するとボリュームとしては63%にものぼるトラフィックをさばいていることがSkypeの特徴で、特定の大陸間を結ぶだけだった既存の通信キャリアと違う市場を掘り起こしているのかもしれない。
63%のロングテールとともに興味深いTamkivi氏の指摘は、先進国でビデオ通話が受け入れられているのとは違う理由で、途上国や新興国ではSkypeが使われているということだ。生きていくための支出で精一杯で高い通信費を出せないという利用者が多い地域でSkypeは使われているが、これらの人々によるトラフィックもまた既存通信キャリアから奪った通話ではないのだという。
つまり、Skypeは「無料通話、もしくは安い通話で既存のキャリアの市場を侵食している」と見るよりも、先進国、途上国の2つの領域で新しい市場を開拓しているから伸びているのだというのがTamkivi氏のプレゼンテーションの主張だろう。
1990年代なかばから標準準拠のVoIPソフトウェア・ハードウェアは多く登場していたが、なぜSkypeが勝ったのかという問いに対してTamkivi氏は、プロプライエタリなP2Pプロトコルを使って、ほとんど設定が不要な使い勝手を実現したからだという。プロキシやポート、ルータの設定はハードルが高すぎた。逆に、現在はSIPやAsteriskとの相互運用を実験中という。そうなれば、ビジネス系のソリューションとの相性も大幅に高まり、ロング・テールだけでなく、通信キャリアのシェアを本格的に奪う可能性も出てくるかもしれない。ただ、Skypeは通信キャリアというくくりには明らかに入らないが、各国の法規制の中では通信法に準ずるため、普及に課題もあるのも確かだ。ちなみに、Skypeと同じくeBay傘下にあったPayPalと組んで、Skype上で国際送金を行うというアイデアもあったが、通信事業だけでも難航するケースがあるのに、この上PayPalのように「銀行」となって事業を行うには、まだ各国の法規制が追いついていないとも指摘している。
現在、Skype登録ユーザーは5億2000万人。一方、PC利用者は12億人、モバイル利用者は20億人いる。世界人口は60億。Tamkivi氏は、まだまだSkypeの普及は始まったばかりだとしている。
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