仕様のドラフトが登場

コメント分散問題は“サーモン・プロトコル”で解決!?

2010/02/26

 “ソーシャル”と名の付くサービスが複雑で嫌になったことはないだろうか? 複雑さの原因はいくつかあると思うが、会話の流れが多数のサイト(サービス)に分散してしまっていることも大きな原因の1つに違いない。特にサービス間が連携しているような場合、どこで誰がどのようにコメントを付たのか、追いきれない。

 例えば、次のような問題がある。

 ある時、Facebookがタイムラインを取り入れ、Twitterとの連携も可能となった。普段はTwitterしか使っていないのに、うっかりFacebookのほうにも自分のフィードを流していたために、Facebookのほうでコメントが付くようになってしまう。これはTwitter側で見えない。

 こうした問題は、自分がどこのブログにコメントしたか忘れることを前提とした“通りすがりコメント”というものも生み出してきた(参考記事:「通りすがり」コメントの終焉)。

 Web上で写真やテキストを発信したり、それが再送信(フィードやリブログ、RTなど)するようになると、オリジナルコンテンツは複製につぐ複製を繰り返し、その複製されたコンテンツに対してコメントが付くことがある。

 ここで問題となるのが、フィードに乗ってWebの世界に泳ぎだしたコンテンツに付けられたコメントや評価(5つ星や、好き・嫌いというクリック)が、オリジナルコンテンツに付随する形で一覧できないことだ。

元の川に戻る“サケ”のようにコメントを集約

 この問題を解決するプロトコルとしてグーグルのJohn Panzer氏が提案しているのが「Salmon Protocol」(サーモンプロトコル)という仕様だ。これはGoogle Buzzに合わせて発表されたもので2月25日に初めてのドラフト仕様が公開された。グーグルが主導する一連のソーシャル系サービス(プロトコル)の一部となるようだ。

 サーモンプロトコルは、その名が示すとおり、ちょうどサケが海から生まれ故郷の川に戻ってくるように、特定のコンテンツ(つぶやきやブログエントリ)に付けられたコメントが、下流(アグリゲート・サイトやフィード先のサイト)から上流のオリジナルコンテンツに戻ってくるようにするための仕様だ。

 RSSやAtomでフィードするエントリ、つまりコンテンツの実体を“サーモン”と呼び、各サーモンには簡易な電子署名を施す。これによりメッセージの偽造やスパム行為など、想定される悪用を事前に防ぐことができるという。電子署名には「Magic Signature」と呼ぶライトウェイトな公開鍵暗号方式を使う。

 エントリに署名してサーモンを放つ“サーモン・ジェネレータ”は、コメントなどが戻ってくる場所としてエンドポイントのURIを用意しておく。フィードを受け取ったアグリゲーションサイトなどでコメントを付けると、オリジナルのほうにもコメントフィードがあることが分かる。例えばRSSリーダー上でコメントを付けたり、星5つと評価した場合に、そのことがフィード元に分かるようにできるということだ。ただし、コメントを上流に戻す場合には、ユーザーの明示的な同意を得るようにすべき、とプロトコルには書かれている。

サーモン・プロトコルは普及するか?

 サーモン・プロトコルは、非常に興味深い取り組みだ。事前のシステム間連携が不要なオープンな仕様で、ちょうどブログのトラックバックにも似ている。

 FacebookやTwitterなどは、ユーザーの発言やコンテンツを抱え込み、“サイロ化”しているのが現状だ。最初の情報発信がどこであれ、それに付随するコミュニケーションを“取る”ことができれば強い。Facebookに限らず、他サイトから流れ込むフィードをベースに会話スレッドをユーザーに開放する例は多い。そして、コメントのサイロ化は果てしなく進む。

 サーモン・プロトコルは、こうしたソーシャル系サービスのサイロ化に対するオープン・プラットフォームの対抗策と見ることもできそうだ。ただ、オープン・ソーシャルがそうであったように、対抗策としてひねり出したサービスや仕様が広く受け入れられた例は少ない。Facebook対抗のオープン・ソーシャルは成功と呼べる規模に広がっていないし、iPhoneに対するAndroidも、まだ先行者の背中を遠く眺めている状態だ。人と人とのつながりである“ソーシャル・グラフ”をオープンに取り扱うとしたSocial Graph APIも、XFNやFOAFといった技術仕様も普及していない。「誰でもアクセス可能なようにオープンにする」というのは理念としては素晴らしいが、サービスやプロダクトが普及するかどうかの決め手はサービスの魅力だからだろう。機能的に同じであれば、ユーザーは使いやすいほうを選ぶだけで、オープンかどうかは、割とどうでもいい話である。例えばソーシャル・グラフの管理・維持ということで言えば、Facebookではシステムが提示してくる見知った顔アイコンをクリックすれば済む話なのに、なぜわざわざ自分のWebページにひっそりとXFNのタグを埋め込んで世の中が気付いてくれるのを待つ必要があるのか、ということだ(ちなみにグーグルはすでにXFNをクロールしている)。

 こう考えれば、サーモンプ・ロトコルの成否は、実はGoogle Buzzにかかっているように思われる。そして今のところ、その道のりは遠そうだ。

(@IT 西村賢)

情報をお寄せください:

HTML5 + UX フォーラム 新着記事
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

キャリアアップ

- PR -

注目のテーマ

ソリューションFLASH

「ITmedia マーケティング」新着記事

プログラマティック広告はどう変化? 米国レポートから見える「今後の動向」
CTVとプライベートマーケットプレイスへの広告支出のシフトにより、米広告業界ではプログ...

「顧客体験」の重要性高まる 2024年「CX」関連の人気記事TOP10を紹介
今回の記事では、2024年「ITmedia ビジネスオンライン CX Experts」のアクセスランキング...

SNSの情報がアルゴリズムで最適化されていることを「知らない」が6割超 年代別では?
ロイヤリティ マーケティングは、10〜60代のSNS利用者を対象に、SNS情報の信用度に関する...