EMCの主席副社長が戦略を語る

クラウドは「野球でいえばまだ第2イニング」

2010/04/16

 「クラウドへの道のりは、野球でいえばまだ第2イニングにある」。4月上旬に来日したEMCの主席副社長であるフランク・ハウク(Frank Hauck)氏はこう話し、このテーマにおける製品やサービスの提供余地が非常に大きいことを強調した。

 「顧客に聞くと、ほとんどはTier 2あるいはTier 3のシステムを仮想化している。しかしTier 1(最重要システム)を仮想化しているところは非常に少ない。5%以下だと思う。これが次の段階だ。Tier 1で進まない理由は、顧客がセキュリティやパフォーマンス、ビジネスからみた妥当性をまだ疑っているからだ」。

 EMCから見た企業におけるクラウドの進化は次のようになる。基幹システムを含めたあらゆるシステムを仮想化し、仮想化自体を企業内のIT基盤とする。そしてITリソース(サーバやストレージ)をひとまとまりのプールとして扱い、ITニーズに応じて臨機応変に割り当てられるようにする。いったん仮想化をしてしまえば、どれを社外クラウドにまかせるか、どれを社内で動かすべきかを随時選択できるようになる。一方で、社内のITインフラと、社外のクラウドサービスを安全に連係できるようになれば、必要性に応じて仮想マシンを社内から社外に、そして社外から社内に移動できるようになる。

emc01.jpg EMCのフランク・ハウク氏

 「社内クラウドと社外クラウドをつないで、『仮想プライベートクラウド』がつくれる。すなわち、セキュリティが確保され、情報が行き来できるような社内と社外の連携だ。アプリケーションはどちらの場所にあってもアクセスできる。社外のデータセンターに存在している状態でも、自社のインフラの一部だ。あるシステムのピーク時だけ社外クラウドを利用でき、要らなくなったアプリケーションについてはシャットダウンすることで、クラウドサービス業者に料金を払わなくて済むようになる」

 EMCのいう仮想プライベートクラウドを実現するには、まだ足りない製品やサービスがある。「しかし、6〜12カ月後にはかなり良い状況になるだろう」とハウク氏は話す。

 EMCはそれぞれの製品をクラウド環境で使いやすくする努力を続けていくという。VMwareのみならず、Hyper-Vなども含めたサーバ仮想化ソフトウェアとの連携、仮想化で複雑化する部分の管理を容易にする診断ツール、製品やサービスのソリューションとしての推進など、今後12カ月にわたる製品、ツール、サービスの提供計画を、まもなく発表するとしている。

 「特にフェデレーション(連携)は重要だ。(分散型大規模ストレージ製品の)V-Maxは、複数のユニットを一体のものとして扱えるが、複数のデータセンターに分散的に置かれたユニットを長距離接続して統合管理できる製品を、5月のEMCWorldで発表する」(ハウク氏)。

 すでにヴイエムウェア、シスコシステムズとの提携(「VCE連合」)で提供しているサーバ仮想化環境パッケージ「Vblock」について、ハウク氏は次のように説明した。

 「VCEは3社の製品を統合し、構築と運用をシンプル化することで、より少ない人でより多くのことができるようにするのが目的だ。(Vblockは)運用費の抑制に貢献する、定食的なパッケージだ。再現性があり、スケールアウトが非常に早くできるため、SIパートナーは非常に喜んでいる。現在のところ想定以上の反響を得ている。多くの顧客は既存のアカウントだが、新規顧客も獲得していきたい」。

 ハウク氏はEMCに20年勤続のベテランで、ストレージ製品部門の統括から全社的なマーケティング、戦略策定まで、あらゆる職を経験してきた。そのうちの1つにTCE(Total Customer Experience)向上の取り組みがあるという。

 「EMC製品を購入し、満足していると言っていても、次には当社の製品を買わない人々がいる。そこで、満足した顧客をロイヤリティの高い顧客にするための一連の取り組みを進めた。例えば品質について、顧客は単に高品質というだけでなくワールドクラスの品質を求めていることが分かった。そこでエンジニアに対するボーナスも開発中の製品への機能実装だけでなく、展開後の機能の品質を勘案するようにした。こうして品質がEMCのDNAに刷り込まれるようにした」

 では、EMCがいまでも製品価格の高いベンダだと思われていることについてはどう答えるのか。

 「そうした過去の評価を克服することはわれわれの大きな課題でもある。当初は非常にハイエンドの製品で市場参入したため、これに適した機能を提供していた。そして提供する価値に適した価格付けをしていた。このため多くの人々はEMCをハイエンドストレージ企業と認識している。実際にはその後40の企業を買収して製品の幅を広げた。ハイエンドの市場でも活動を続けるが、すべての製品において競合他社に比べて同等の価格付けをしている。課題は過去ではなく、現在のEMCを理解してもらうことだ」とハウク氏は説明した。

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(@IT 三木泉)

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