タンバーグを傘下に収め企業向けコラボレーションを支援
ビデオがワークスタイルを変える――シスコが強調
2010/04/30
「次のキーテクノロジはビデオ(動画)だ」――。米シスコのエマージング テクノロジービジネスグループ担当シニアバイスプレジデントのマーティン・デビア氏は、米国で開催中の「Cisco Partners Summit」で4月28日に行った講演でこのように述べた。
近年のネットワークトラフィックの増加は著しいが、それに大きく寄与しているのが「動画」だ。デビア氏が引き合いに出した数値では、2008年から2013年にかけてビデオコミュニケーションによるトラフィックは10倍に増加し、IPトラフィック全体の90%を占めるまでに至るという。
シスコはこうした予測の基、かねてから動画関連の技術を持った企業を買収してきた。具体的には、SaaS型でオンデマンドのビデオ会議を提供する「WebEx」や、コンシューマー向けのビデオカメラ「Flip」がその成果だ。
企業向けにビデオ会議製品を提供してきたタンバーグもその1つだ。同社は、デスクトップ向けの会議システムや仮想的な会議室を実現するテレプレゼンス、それらのバックエンドで動作するゲートウェイなどを提供しているが、米シスコは4月19日に同社の買収完了を発表している。
この買収完了により「デスクトップからWebCam、テレプレゼンスに至るまで製品がそろい、ポートフォリオのギャップを埋めることができた」(デビア氏)。
シスコは同時に、これらによるビデオコミュニケーションを下支えする技術として、「ボーダレスネットワーク」を構成する要素の1つでもある「メディアネット」の実現を目指す。メディアネットは既存のインターネット技術をベースに、呼制御やメディアスイッチング、管理のための機能を加えたもので、インテリジェントな動画配信を支援するインフラとなることを目指している。具体的には、次世代ルータ/スイッチ製品の提供に加え、デバイスの自動認識/設定機能による「プラグ&プレイ」、環境やデバイスを認識した上でネットワーク側で最適化を行う「Any-to-Any」の実現を進めていく計画だ。
こうした取り組みを通じてシスコでは、単なる音声や動画の統合にとどまらず、「顧客に次世代の体験を提供し、生活や仕事のあり方を変えていく」(デビア氏)という。
コラボレーションの中心は「人」
元タンバーグのCEOで、シスコのテレプレゼンステクノロジーグループ バイスプレジデントのフレデリック・ハルバーセン氏は「『コラボレーション』の定義は変化している。伝統的なコラボレーションというと、文書共有など『文書』を中心としたものと考えられてきた。しかしコラボレーションの中心には『人』がいなくてはならない。さまざまな人が企業の境界を越えて、インタラクティブに共同作業できることこそその本質だ」と述べた。
タンバーグは主に、3つの分野で製品を提供している。このうちエンドポイント向け(デスクトップ向け)製品は、今後9カ月ほどをかけて、シスコの「Cisco TelePresence」製品群に統合される計画だが、「顧客によって異なる好み、異なるニーズがある。そうした要求に応えられるよう、製品ラインは保持していく」(同氏)という。
2つめのビデオ会議を支えるネットワークインフラは、「鍵となる部分」(ハルバーセン氏)。シスコと協力しながら、ビデオ会議製品の相互接続性を実現する「TIP(Telepresence Interoperability Protocol)」の策定を進め、同社製品だけでなく業界全体に広げていく方針だ。「企業内だけでなく、異なるネットワークやセキュリティを備えた企業間をまたいで、コラボレーションを行えるようにしたい」(同氏)。同時に、WebExやFlipの動画、さらにはMicrosofto Office Communicatorといったサービスやアプリケーションと連携可能なインターフェイスを提供する。
3つ目の分野は、クラウドベースのサービスだ。この分野では、通信やインテグレーションサービスを提供するパートナーとの連携が欠かせないという。
4月28日には英BTが、シスコおよびタンバーグと連携して、TOMMY HILFIGERにビデオ会議ソリューションを提供することを発表した。このシステムはアムステルダムのほか、ニューヨーク、香港、東京のオフィスをつないだテレビ会議システムを通じて、仮想的なコラボレーションを可能にする。「シスコとタンバーグの共存を示す好例だ」とハルバーセン氏は述べた。
「これはファッション業界向けの事例だが、ほかにも教育や医療といった業界からも高いニーズがある。それぞれのケースに応じて、『テイラーメイド』なテレプレゼンスソリューションを提供していきたい」(同氏)。
ハルバーセン氏によると、こうした動画を支えるインフラは、ただ高速なだけでは務まらない。「インテリジェンスが必要だ。例えばストリーミングで動画を流すときには、回線速度や端末の処理能力を把握して必要に応じて調整できる必要がある」(同氏)。インテリジェントなルーティングや、端末の処理能力に応じてエンコーディングをクラウド側で実行するといった要素が求められるという。
タンバーグでは、iPhoneに代表されるスマートフォンでもビデオ会議を実現する技術を開発中というが、「モバイルデバイスでも同じ経験を提供しようとすると、ネットワーク容量や処理能力が問題になる。こうした端末でも、PCやテレプレゼンスで提供しているのと同じクオリティを確保したい」(同氏)。そのためにもシスコのメディアネットなどを活用していくという。
同時に、コラボレーションを促進するため、企業向けのソーシャルネットワーク技術の取り込みを進める。「同じ関心を持つグループやコミュニティが、テキストやIPフォン、ビデオコールなど、あらゆる形のコミュニケーションを取れるようにしていく」(ハルバーセン氏)。
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