大幅な高速化、テザリング、クラウドAPI

新機能てんこ盛り、会場も盛り上がったAndroid 2.2の発表

2010/05/21

 グーグルは5月21日、Google I/Oの2日目の基調講演でAndroidの最新バージョン2.2(コードネームはFroyo、フローズン・ヨーグルトの意味)をアナウンスし、デモを行った。Dalvik VMのJITが改善されて2〜5倍高速となったほか、クラウドとデバイスをつなぐAPIを新たに導入、3G接続でAndroid端末をWiFiアクセスポイントとするテザリング機能に標準で対応したことも明らかにするなど山盛りの機能追加で、Androidの着実な進歩をアピールした。

vic.jpg 米グーグル バイス・プレジデントのビック・グンドトラ氏

 基調講演に登壇したのは再び米グーグル バイス・プレジデントのビック・グンドトラ氏。同氏は昨年のGoogle I/Oの基調講演で、IEのHTML5対応の遅さを暗にほのめかすなど絶妙の間合いで皮肉なジョークを交えて笑顔を振りまいたが、今年はアップルの閉鎖性を皮肉るジョークを多く交えて会場の笑いを取っていた。

 「アンディ(Androidの生みの親)と最初に話した時のことを覚えています。私は彼に聞きました。ほかにまだスマートフォンなんているの? 彼の答えを今でも覚えています。すべてのレベルのスタックでフリーのOSを提供するのは重要だというが1つの答えでした」(グンドトラ氏)

 そして、今やグンドトラ氏はその意味を理解したとでも言わんばかりに、こう続けた。

 「ドラコニアン(厳罰主義の古代政治体制)となる未来、ただ1人の人間、1つの会社、1つのキャリアによって決まるような、そういう世界をみなさんが望まないというのであれば……、Androidの世界へようこそ」

 アップルを名指ししたわけではないが、1人の人間、1つの会社というフレーズを言っている最中にも、すでに聴衆からは笑いと拍手が起こっていた。

1日に10万のアクティベーション

 講演は、最新バージョンのAndroidのデモンストレーションに先立って、Androidの現状を把握できる数字関連の話題へと移った。

 Android搭載端末が最初にリリースされてから約18カ月。ソニーやモトローラといった有力メーカーを含む21社が60モデル以上のAndroidデバイスをOEMで提供し、48カ国、59キャリアで採用されるにいたっているという。日々のアクティベーション数は10万を超えて加速しており、アプリケーション数は5万、開発者数は18万人にのぼるという。

activation.jpg 1日当たりのアクティベーション数も急増しているという

DalvikもJavaScriptも大幅に高速化

 Froyoと名付けられたAndroid 2.2の機能強化点は5つあるという。 

 1つはスピード。Dalvik VMのJITを強化し、同じハードウェアで実行速度が2倍から5倍になるという。デモでは、同一ハードウェアでバージョンの異なるAndroidを動かし、サンプルのゲームでオブジェクト数を増やしていったときの様子を披露。前バージョンで描画フレーム数が落ちていくときでも、Froyoのほうは粘るという感じだった。

 JavaScriptもChrome由来の高速なJavaScriptエンジン「V8」を搭載することで、2〜3倍高速化しているという。デモはJavaScriptのベンチマークスイートを1回終了するごとに画面内をAndroidのマスコットが動いていくというもの。比較対象はiPadで、「Android 2.2>Android 2.1>iPad」という速度順となっていた。ここでもまたグンドトラ氏の皮肉が冴える。「果たしてこのアプリはApp Storeに登録できるでしょうかね……、あっそうだ、これは『Webアプリ』でした」。ニヤリと笑うグンドトラ氏は、なかなかの役者だ。

 2つ目の強化ポイントは、エンタープライズ対応。マイクロソフトのExchangeで、オートディスカバリなど20の機能強化を行ったという。

 3つ目のポイントはクラウドとデバイスを連携させる新しいAPI関連。APIは2種類紹介された。1つはデータバックアップのためのAPI。これまで、新しいデバイスを使い始めた場合はアプリケーションだけしか移行できなかったが、アプリが持つデータも合わせて移行できるようになるという。

 クラウドとデバイスを連携させるAPIとしてよりパワフルなのは「Cloud-to-Device Messaging API」だ。これはクラウドからデバイスに向けてインテントを送り付けて何らかの処理をデバイスに行わせるためのAPI。

cloudapi.jpg

 グンドトラ氏は、「このAPIはマルチタスクとかそういう話じゃなくて、本物の機能というのはこういうものだ」といって、再び暗にアップルを揶揄して会場の笑いを誘っていたが、確かに新APIには新しい地平を切り開くポテンシャルを感じさせる。

 デモは、PCのブラウザで閲覧中のGoogle Mapを、位置情報も含めてChome ExtensionでAndroidデバイスにインテントとして飛ばし、ほとんどタイムラグなく、その地図がAndroid上に再現されるというもの。PCやほかのデバイス上で行っている操作の結果や情報を、異なるデバイスに送りたいことはよくある。このとき、従来ならデバイス間をP2Pでつなぐのが自然な発想だったが、クラウドを仲介させるというアプローチは興味深い。こうすることで、物理的なネットワークインターフェイスに関わらず確実にデバイス間の連携ができるわけで、このAPIを使ったアプリケーションが多く登場するかもしれない。デモでは、閲覧中のURLを送ることで同じWebページをAndroid端末で開くということも行って見せた。URLを読んで手で打ち込んだり、メールで転送していた煩雑さを考えると、この小さなAPI追加の威力が分かる。

テザリング、ブラウザからのデバイス利用も可能に

 比較的細かなアップデートとして、テザリングに対応したことが挙げられる。3G接続などでネットにつながったAndroid端末をWiFiルータにする機能で、標準の設定メニューから簡単に機能をオンにできる様子をデモしてみせた。ただし、この機能が、キャリアが採用する端末で有効となったまま出荷されるかどうかは別の話。当面は望みが薄そうだ。

tethering.jpg 標準でテザリングをサポート

 Android 2.2ではブラウザも強化されている。傾き情報や方位磁石の読み取り結果、カメラやマイクからの入力もブラウザから受け取れるようになっていて、デモでは、端末を回転させるとブラウザで表示したGoogle Mapsがぐるぐると回る様子や、音声を使ってテキストエリアに文章を入力し、それを翻訳、音声合成により発声することでAndroid端末が英語=フランス語の翻訳を音声ベースでその場で行う「通訳機」となる、という近未来的なデバイス・クラウド連携の例を示してみせた。

 音声によるGoogle検索は賢くなっていて、「Call 5th floor restaurant」という音声を認識し、その結果出てきた電話番号に対して実際に電話をかけるというインターフェイスも紹介。クエリからユーザーの意図を理解して適切なアクションを起こすというユースケースは今後も増やしていくという。

全画面がオレンジ色になるiPadが示すもの

 「どうやら人々はFlashを使うようですよ」。他人事のような話しぶりで切り出したグンドトラ氏は、Android 2.2でのFlash対応についても言及。自分の子どもがいつも見ているWebサイトが、Flash非対応のiPadではオレンジ一色となってしまい、「ねぇパパ、パパのAndroidで遊んでいい?」と聞かれたのだと、実話か作り話かよく分からない逸話で会場からマイルドな笑いを誘っていた。

flash.jpg 左がFlash対応のAndroidの画面、右はFlash非対応のiPadの画面

 画面がすべてオレンジ色に染まったiPadと、正しくコンテンツを表示しているAndroid端末を指差し、グンドトラ氏は「これがオープンである、ということの本当の意味です」と、またしてもアップルのポリシーをチクリと皮肉った。

インストール済みアプリの自動更新に対応

 Androidマーケット関連でも進展があるようだ。1つはアプリを探すためのユーザーインターフェイスとしてデスクトップ上に検索ウィンドウと同様のアプリ検索ウィンドウが配置されるようになるようだ。これはインクリメンタルサーチにも対応しており、アプリ探しがやりやすくなる。こうした検索ウィンドウは、今回たまたまAndroidマーケットに対応したが、ほかのアプリでも同様に利用できる汎用的なもので、デモでは、特定のアプリが持つデータを検索ウィンドウから直接探す例を挙げていた。

 ユーザーとして恩恵が大きいのは、アプリの一括自動アップデート機能が搭載されたことだろう。これまでAndroidアプリのアップデートは、個別に行う必要があったうえに、いちいち承認が必要だったため、アップデートが10個ほどもたまると、とても1つ1つ更新する気になれないという問題があった。これに対してAndroid 2.2からは、アップデートを一気にまとめて行う機能と、アプリごとに自動アップデートを許可するオプションを提供。ユーザーはバージョンのことや、アップデートのことを気にせずに、常に最新版を使えるようになる。

 アプリ関係で、開発者にとって大きいのは「Crashy」と呼ばれる機能がOSに統合されたことだろう。経験の浅い開発者が多いからか、Androidアプリの中には頻繁にクラッシュするものがある。こうしたクラッシュ時に表示されるメッセージは、これまでそっけなく、何が起こったか分かりづらかった。Android 2.2のCrashyでは、詳細な情報をデバイス上で表示できるほか、その場でバグレポートを送れるようになる。利用状況の記述のほか、スタックトレースがサーバにアップロードされ、アプリ開発者はこの情報をオンラインで確認することができる。アプリのエコシステム全体を見たとき、この機能追加は大きな意味を持ってきそうだ。

PC上のコンテンツをAndroidにストリーミング

 グンドトラ氏の皮肉は、iTunesに向けても炸裂する。アプリやコンテンツをPCでダウンロードして、それをデバイスにシンクさせるという使い方に対して、「われわれは、もっと素晴らしいものを発見したんですよ。それはインターネットです!」。こういうと、iTunes上のDRMフリーの音楽コンテンツをストリーミングでAndroidデバイスで受け取って再生するデモを披露した。これはベンチャー企業、Simplify Media買収によって可能となったもので、PC上のiTunes、Windows Mediaなどの写真、音楽などのコンテンツを、ほかのデバイスからアクセス可能とする技術のようだ。

simplifymedia.jpg 左のデスクトップ上のiTunesからストリーミングで右のAndroid端末へ楽曲データを転送して再生

アップルの広告プラットフォーム「iAds」と正面衝突

 リッチなモバイル広告も注目だ。アップルはHTMLベースのリッチな広告表現を取り入れ、ユーザーの邪魔にならないインタラクティブな広告配信プラットフォーム「iAds」を発表済みだが、Androidプラットフォームの広告プラットフォームも、ある意味で似た方向に進化しているようだ。

 デモでは、見慣れたバナー広告を展開すると地図や映画のトレーラーなどが表示される様子を披露。位置情報に応じて、最寄りの商品取り扱い店舗の情報がマップ上に出るなど、効率的なマッチングが可能となる。画像や動画のほかにも、電話アイコンを表示して、興味を持った顧客が直接店舗などに電話をかけられるようにするなど、これまでにない広告表現が面白い。

 グーグル自身もモバイル向け広告プラットフォームに取り組んでいるが、Android端末上のアプリは、開発者が自由に広告プラットフォームを選択できると言う。実際、デモではMedialetsという広告配信プラットフォーム提供者の広告がスムーズに表示できる様子を示してみせた。広告プラットフォームに関しても、グーグルは排他的にならないのだという。

 個々に見ると比較的小さな機能追加、機能強化という印象もあるAndroid 2.2だが、「クラウド+デバイス」「オープンプラットフォーム」という同社の方向性を明瞭に示すデモンストレーションだったと言えそうだ。

【追記】基調講演終了後に参加者全員にHTC製の最新のAndroid端末がプレゼントされました。記者(@IT編集部の西村賢)も記事執筆終了後に1台受け取ったことを明記します。機会があればレビュー記事も掲載できればと考えております(とりあえず、デカくてやたらと速くて明るくてソーシャルでという感じの端末です)。

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(@IT 西村賢)

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