プラットフォームコンピューティングCEOに聞く
クラウドとグリッドの明日はどうなる?
2010/07/15
クラウドコンピューティングの1つの方向性がアプリケーションの分散並列処理だとするなら、それはグリッドコンピューティングとの類似性を帯びてくる。クラウドとグリッドの違いは何か。メリットのあるクラウドの構築方法とは何か。グリッド・コンピューティングのミドルウェアからクラウドコンピューティングのミドルウェアへ進出してきたプラットフォームコンピューティングのCEO、ソニアン・ゾウ氏に聞いた。
――多くの人は、プライベートクラウドはサーバ仮想化技術によって構成されるものと考えている。こうした定義をどう考えているか。
仮想化は、プライベートクラウド環境を構築・運用する上で鍵を握る技術の1つだが、必須ではない。プライベートクラウドは、サーバやストレージ、ネットワークといったさまざまなITリソースを互いに接続して、動的に組み合わせながら、ユーザーにアプリケーション環境を提供するものだ。複数のアプリケーション間でITリソースを共有するためには仮想化ソフトウェアやOS、ストレージの上位に、クラウドのための新しい技術を導入する必要がある。特にプライベートクラウドの場合は、セキュリティやコンプライアンスの機能、さらにアプリケーション特有の環境を提供しなくてはならない。一方、企業向けデータセンターにおいて、ITリソースを動的に共有しながら大規模なアプリケーションを利用するための手段は、いまのところクラスタやグリッド、HPCしかない。従って、プライベートクラウドを実現するためには、HPCやグリッドによるITリソース共有モデルを、仮想化ソフトウェア、各種ミドルウェア、アプリケーションと統合する必要がある。
――クラウドコンピューティングとグリッドコンピューティングの違いは、どこにあるか。
グリッドコンピューティングの環境では通常、大量の演算やデータ処理を行うアプリケーションを複数のITリソースに分散して実行する。例えば複数のWindowsマシンとLinuxマシンがあった場合、それぞれで負荷を最適化した形で処理を行うことができる。しかし、アプリケーションがWindowsの処理を多く必要としているにもかかわらず、Windowsマシンがすべてビジー状態で、Linuxマシンは空いているといったケースも考えられる。このような場合、グリッドでは基本的に各リソースの状態は静的に設定されているので、対応することができない。しかしクラウドでは、リソースの動的なプロビジョニングが可能だ。例えば、アプリケーションの要求に応じて、Linuxマシンの環境をWindows環境に動的に変更することができる。あるいは仮想マシンのゲストOSやライブラリなどを、アプリケーションがその時点で必要とする環境に動的に設定することも可能だ。これが、クラウドが「オンデマンド」「ダイナミック」といわれるゆえんだ。これはグリッドと比べて見た場合、大きな進化といえる。また、クラウドでは自社データセンターの外部にある、サービスプロバイダのリソースを利用できる。そしてもっとも重要な相違点は、クラウドはグリッドと違い、あらゆる種類のアプリケーションを利用できることだ。なぜなら、クラウドではアプリケーションの要求に応じた、リソースの動的なプロビジョニングが可能だからだ。アプリケーションの種類には依存しない。大量の演算やデータ処理を行うHPCアプリケーションだけではなく、例えばWebサービスや夜間バッチジョブなど、あらゆるアプリケーションを実行することができる。
――ではプラットフォームコンピューティングの製品は、企業ユーザーによるクラウド環境の構築に、具体的にどのような形で寄与するのか。
われわれの製品は、アマゾンがやっていることとある意味似ている。ただし、ビジネスモデルはまったく異なる。われわれは、まずサービスプロバイダがクラウドを構築して、Amazon EC2のようなサービスを実装するための管理ソフトウェアをパッケージ製品として提供している。もう1つは、企業が自社のニーズに応じて、より広範で統合された環境でアプリケーションを利用できるプライベートクラウドの仕組みを提供している。企業は、既存のセキュリティフレームワークを使ったり、独自のIT承認プロセスや、ITリソースの利用に対する独自の課金モデルも実装できる。社外のリソースを使うことも可能だ。つまりわれわれの製品は、企業が異機種混合環境でさまざまな種類のアプリケーションを利用できるよう、社内と社外のリソースを柔軟に併用してクラウド環境を実装できるようにしている。
――クラウドコンピューティングに関連して注目を集めている技術に、アプリケーションの並列処理とスケールアウトがある。こうした技術の動向についてはどのような考えを持っているか。
これについては、少々誤解されている面があるようだ。多数のサーバやCPUコアを既存アプリケーションで活用するためには、ソースコードを書き換えて完ぺきに並列処理化しなければいけないと思われがちだが、それはむしろ例外的なケースだ。われわれの製品では、アプリケーション本体には一切手を加えることなく、同時発生したWebリクエストや、多数のアプリケーションインスタンスを、複数のリソースに柔軟に分散して処理させることができる機能をサポートしている。データ処理タスクやWebリクエストの処理タスクは通常、同時並行的に処理されるが、実際には個々のジョブはシーケンシャルに処理される。例えばビジネス・アナリティクスでは、何百というアプリケーションタスクが、データウェアハウスの何百というデータセグメントに同時にアクセスする。この場合、実際にはアプリケーションは並列化されていないが、仕事自体は複数のサーバとCPUコアにわたって並列で行われている。アプリケーションそのものは、必ずしも並列である必要はない。稀に、どうしてもアプリケーションのソースコードレベルでスケーラブルな並列処理を実現したい場合には、並列処理パッケージを利用することができる。例えばメッセージ通信のパッケージ製品などだ。
――多くの企業がクラウドコンピューティングに興味を示しているが、その主な理由としてはITコスト削減を挙げている。
たしかに、コスト削減効果はクラウドコンピューティングを導入するための最も大きな動機の1つだと思う。特に、ここ数年の厳しい経済状況の下ではなおさらだ。しかし、過去18年間のわれわれの経験からいうと、クラスタ、グリッド、クラウドといった分散コンピューティングを導入する最大の動機は、アプリケーションを必要なとき、必要な場所でオンデマンドに、かつ素早く利用できるようにすることだ。ビジネスの最終目的は、最大限の利益を最大限の効率で上げることにある。従って、すべてのITリソースの能力はその目的を達成するため、アプリケーションが必要になったときにいつでもすぐ動かせるよう、オンデマンドで利用できなくてはならない。新しいアプリケーションを動かすために、時間をかけてハードウェアとソフトウェアを一から調達して、サイロ化された環境を構築していたのでは遅い。これが、古典的なクライアント/サーバ方式と比べた場合の、クラウドコンピューティングの最大の利点だ。もちろんその過程で、コモディティ化されたリソースを採用し、リソースを効率的に共有し、運用管理を自動化することにより、コストは劇的に削減される。
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