グーグルは「根拠がない」と反論

オラクル対グーグル訴訟、Androidへの影響は?

2010/08/18

 2010年8月12日、IT業界を震撼させる大型訴訟が発生した。米オラクルが、「AndroidはJavaプラットフォームの知的所有権を侵害している」として米グーグルを訴えたのだ(プレスリリース)。グーグルは翌8月13日に一部のメディアにメールで声明文を送り、オラクルの主張を「根拠のない訴え」として否定した。今後、両社は全面対決する可能性が大きい。

 オラクルの主張は、Androidが、オラクル(旧サン・マイクロシステムズ)の特許と著作権を侵害しており、グーグルが雇用した旧サンのエンジニアから特許の内容は伝わっていたはず、というものである。オラクルが挙げている特許は7件で、いずれもJavaプラットフォームの実装に関わる技術的な課題に関連するものである。

 一方、グーグルは、声明文の中で「この訴訟は根拠がない」とオラクルの主張を否定し、「グーグルとオープンソースJavaコミュニティに対する攻撃だ」と非難している。

JavaとAndroidの微妙な関係

 AndroidとJavaプラットフォームとの間には、やや入り組んだ事情が横たわっている。まず、多くの携帯電話には旧サン・マイクロシステムズ社がライセンス提供したJavaプラットフォーム「Java ME」が搭載されており、旧サンを買収したオラクルは現在そのロイヤルティ収入を得る立場にある。ところが、AndroidにはサンがライセンスするJavaプラットフォームは一切含まれないのだ。

 グーグルは、Androidの開発にあたり、独自に開発した仮想マシン「Dalvik VM」と、オープンソースのJava実装であるApache Harmonyのクラス・ライブラリを利用した。Dalvik VMは、モバイル機器向けに新たに設計された仮想マシンで、Androidが採用しているLinuxカーネルと密接に結びついた設計となっている。OS独立、デバイス独立を優先するJava仮想マシンとは設計思想が異なる。またAndroidのソースコードは、Apacheライセンスによりオープンソース・ソフトウェアとして公開されている。サンのオープンソース版JavaのライセンスはGPLであり、この点でも思想が異なる。

 Androidのアプリ開発では、Java開発者にとって馴染みのあるJava言語やJava API群の多くを利用できる。開発環境もJava上に構築してあり、統合開発ツールEclipseが使える。ところが、Androidには旧サンがライセンスするJavaプラットフォームは含まれない。

Java言語の設計者、ブログで嘆きの声

 現在、Androidは「1日20万台のペースでアクティベーションされている」(グーグルのシュミットCEO)という急成長を遂げている。だがAndroidスマートフォンがいくら売れてもJavaのライセンス収入は一切得られない。オラクルはこれを不満として提訴に踏み切ったもようだ。

 訴訟の主な目的は、オラクルが和解金またはロイヤルティを得ることと考えられる。多くの識者がブログ上でこの訴訟を取り上げ議論しているが、その多くは「オラクルの狙いはお金だ」との見解である。なお、Wall Street Journalの報道によれば、オラクルは「この訴訟はグーグルについてだけのものだ」としており、今回の訴訟でグーグル以外の企業が損害を被ることはなさそうだ。

 Java言語の設計者であるJames Gosling氏は、ブログで次のように嘆く。「特許訴訟を起こすことはサンの遺伝子には決して含まれない。なんたることだ……」。旧サンが特許を取得していたのは、「防衛が目的だった」とも記している。Gosling氏は、2010年4月のサン買収の直後にオラクルを去っている。自分が作ったJavaを巡り、ソフトウェア開発者の多くが毛嫌いするソフトウェア特許訴訟が発生したことは、Gosling氏にとって痛恨の出来事だったに違いない。

Androidの将来は?

 気になるのは、Androidの将来である。声明文を見る限り、グーグルは抗戦する構えだ。この訴訟によりグーグルは損害を被るかもしれないが、Androidの開発が中断されることはないだろう。

 JRuby(Java上のRuby言語処理系)の開発者で元サン・マイクロシステムズの社員であるCharle Nutter氏は、ブログで発表した考察の中で「オラクルが挙げた7件の特許を検討したが、技術的には笑ってしまうような内容。大したことはない」とし、「オラクルの狙いはお金。Androidを潰してもお金は得られない。オラクルは愚かではない」と、Androidの開発が中断されるような事態にはならないと予測している。また、「ソフトウェア特許紛争そのものを終わらせる裁判となる可能性もある」との期待を述べている。

 今回の訴訟に構図が近いのは、SCO Groupが「LinuxはUNIXの知的所有権を侵害している」としてIBMらを訴えた裁判だろう。この訴訟はSCO側の全面敗訴で終わっている。ただし最終的な判決まで7年を要した。今回の訴訟も、解決までには時間を要することだろう。だが現状を冷静に見れば、Androidの急成長にブレーキがかかる心配はなさそうだ。

(ITジャーナリスト 星暁雄

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